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シスコンとドラゴン

 ヴェスト大陸の西部に位置するティタン山脈、その山頂。

 青く澄んだ空の下で、白髪の青年が紅い鱗をもったドラゴンに雄叫びを上げられ威嚇されていた。


「ドラゴン……か」


 腰に差した刀に手を置くと下を向き大きなため息をつく。

 敵意剥き出しだな・・・。俺なんかやったのか?

 青年は覚えのない敵意を向けら表情には出さないものの内心少し困惑していた。


 青年の身体の十数倍はあるだろう巨大な体に鋭い眼光。鋭利な爪と牙はまるで研ぎ澄まされた一振りの剣のよう。もしあたれば致命傷は避けられないだろう。呼吸のたびに炎が漏れ、完全に敵対モード。

 どうやら逃がすつもりはなさそうだ。こちらの様子を伺うようにじっと睨み付けている。


 ここで一戦交えるのはちょっと面倒だな・・・・・・仕方ない会話をしてみるか。


 ドラゴンは言葉を発して意思疎通を図ることの出来る数少ない魔獣だ。基本的には人間種を見下しており、特に年寄りのドラゴンはその傾向が強い。でも獰猛な魔獣とかではないので揉め事は話し合いで解決出来る時がよくある。


 なので青年は意思疎通を試みた


「悪いけどここを通し―――っ!?」


 が、どうやら無理だったみたいだ。問答無用だった。


  ゴォォオ―― 何の前触れもなくドラゴンが吐いた炎が、青年の体を包み込む。それは瞬く間に広がり、辺り一面は灼熱地獄のような光景と化した。


  炎が燃え尽きるとそこには不自然に焼け焦げた大地と、散り散りと火の粉がこだましていた。

 そして、そこには青年の姿はなかった。当たり前だ、ドラゴンが吐いた炎は鉄すら焼き尽くす。そんな炎をまともに食らえば人間なんて一溜りもないし、直撃すれば最後骨すら残ることは無く体は塵と化すだろう。


  障害を排除したドラゴンは竿立ちになり、大きな膜質の翼を広げ飛び立とうとしたその時──。


「何処へ行く気だ? 赤トカゲ」


 後方から声。

  その声に反応したドラゴンは、体を旋回させ振り向く……だが、遅い。


 ズシャァ


「ッーーーー!」


  ドラゴンの叫び声が鳴り響き、肉が裂かれる鈍い音と共に地面へと翼が落ちた。


 男はすかさずもう一撃を喰らわせようとするが、ドラゴンが炎を吐き牽制。男はそれに反応して後ろへ飛び退きかわし、少し体制を整えるとドラゴンに剣先を向ける。


「これで空へ逃げることはできないだろ」


  男はさっき炎で包まれた筈の青年だった。服には全く焦げ目がなく、肌にも火傷のあとは無い。ドラゴンはその事に驚きを隠せない様子だった。いや、表情とか全然わからないが、ただそんな気がしているだけだ。


 この青年の名はゼロ。中肉中背の冒険者だ。金色のロケットを首に掛け、白と黒で統一された服装。手に握られた抜き身の刀。その刀は刀身が白く美しい輝きを放っていた。彼からはそれ以外の装備は見当たらなく、防具すら身につけてはいなかった。


 敵対するつもりは無く穏便に済ませておくつもりだったが、攻撃された以上はこちらも黙ってやられてやる訳には行かない。それにこのまま放置しておくとこの下にいる動物達が怯えてしまう。降伏する気配も無いしやはり、殺すしかないか。


 暫く睨み合いが続き青年はしびれを切らせた。


「来ないなら、こっちから行くぞ」


  青年は地面を蹴り、ドラゴンへと一直線に突き進む。炎で牽制されるが、スピードを殺すこと無く華麗にかわし、難なく懐へと辿り着く。ドラゴンはすぐさま首を下にするが、ゼロの姿は何処にもない。それに驚いたのか首を横に振り周囲に警戒の網を張る。この網を掻い潜るのは、不可能といえよう。だが、それは並の冒険者や騎士ならばの話だ。


「何処を見ている……」


  気怠そうな声をあげて、硬質な皮膚と骨ごとドラゴンの首を断ち切った。首は地面へ重々しい音を立てながら大地へと落下した。その後、首の断面から大量の血が噴き出した。それはまるで雨のように大地に降り注がれた。血の雨が降る中、青年は「ふぅー」とため息をつくと剣についた血を振り払い、死体の方を見る。


「この近くには街があるから騒ぎになられると面倒になるんだ。悪いな」


  顔に付いた血を手の甲で拭き取り刀を収める。


(ま、気配遮断とか使ってたみたいだから騒ぎになることは無いとは思うけど・・・)


 ふと、街の方角を見た。今は山頂にいるのでよく見えた。まだ街に行くにはかなり距離がある。遠いな....今日中に着けるのか? あれ。


「んー、仕方ない、野営の準備もしておいた方がいいか?」


  上空から敵意を向けられているのを感じ見上げた。そこには三匹のドラゴンの姿が・・・。さっきの叫び声を聞いてやってきたのだろうか。彼らの眼には憎悪と、憤怒の色が見える。仲間意識の強い幻獣種。その中でも最もその意識が強いのがドラゴンだ。恐らく仇討ちをするつもりなのだろう。


「勘弁してくれ...」


  命乞い、この状況ならそう聞こえるものもそう少なくはないだろう。たった一匹だけでも人間の国を滅ぼすのに十分な生命体。そんな生物が三匹いる。命乞いどころか、生きることを放棄するものだっているだろう。だが、そのゼロが思っていることはそうではなかった。


 あー・・・妹成分が切れそうだ・・・早く補充しないと・・・


  ゼロは一度収めた剣を抜き、上空に浮遊するドラゴンへと向ける。刃こぼれひとつないよく手入れされた刀。若干血はついているが、拭き取れば取れる程度だ。因みに先程ドラゴンを斬ったのもこの刀だ。


「もうお前らに構ってる暇はないんだ、死にたいやつからかかって来い」


  上空の三匹を睨みつける。それと同時にドラゴン達は咆哮をあげ青年へと襲いかかった。


 が、急にピタリと止まり何処かへ飛んで行ってしまった。


「……」


 何事も無かったかのように剣を収め、頭を少し掻く。どーすんだよ。この空気。まあ、闘わないならそれが一番いいんだけど。


「レイナ〜、終わったぞ〜」


 そう呼びかけると、近くの岩場からひょこっと華奢で美しい銀髪の少女が顔を出した。髪にはカランコエの髪飾りが付けてありよく似合っていた。そこに人がいれば思わず見とれてしまう程の美少女は一体誰なのか? 何を隠そう俺の妹である。ふっ、どうだ? 可愛かろう?

 あぁ、妹成分が補充されてゆく・・・


「ほ、ほんとにもう大丈夫なの? おにーちゃん」


 少女はそう言うと辺りを確認しながらゼロの元へとやってくる。


「そう心配するな、もう殺してあるし、もう二匹はどっかいった。この近くにはいないぞ」


「そっか、ならよかった・・・」


 ほっとしたように胸を撫で下ろす少女――ゼロの妹レイナ。十四歳。透き通るような白磁色の肌を隠すように純白のローブを身に纏い、そこから胸元に可愛らしい小さなリボンが付いた黒主体のノースリーブと丈の短いフリルの着いた空色と白色のスカートと、太股まである黒のハイソックスが覗いていた。

 そして、年相応の丸みを帯びた身体。手には革製の背負い袋を持っておりゼロはそれを受け取った。


「一応ね、もう一度聞くけど、ほ、ほんとに終わったの?」


 チラチラとドラゴンの亡骸を見ながら。


「ん? ああ、首落としたんだ、それで動かれたらお手上げだよ……それより、どこも怪我してないよな? 大丈夫だよな?」


 しゃがみこみ心配そうに妹の体を見る。もしも怪我とかしていたらドラゴン皆殺し決行である。連帯責任だ。そんな兄の顔を見てレイナは心配しないでと言っているような笑顔で答えた。


「隠れてたから大丈夫だよ! それよりおにーちゃんの方こそ大丈夫なの?」


「俺は平気だぞ、襲ってきたのが古龍とかじゃなかったしな、それに・・・いやなんでもない」


 言いかけた言葉を飲み込み首を振る。


「そっか、なら良かった……。ねぇ、おにーちゃん、なんでドラゴンさんたちは私たちの事を襲ってきたのかな?」


 妹からの問いかけにゼロは少し考え込んでから、口を開いた。


「それは分からないな」


 そこはゼロも不可解な点だった。

 ドラゴンはそもそも人間などという下等生物を襲うなどそんな無駄なことはしない。生きていても、何の脅威もたらさないいつでも駆除できるゴミのような存在だからだ。人間だって蟻を見つけてもわざわざ踏み潰したりしようとしないだろう。それと同じような感覚である。中には例外もいるが・・・。

 ドラゴンが他の種族に対して攻撃を仕掛けてくる時は、自分又は自分達の縄張りに対して危険が迫ってきている時だけ。それ以外は基本的には温厚で好戦的な魔獣ではない。むしろ友好的とも言えよう。プライドは少しばかり高いが……。それに大半のドラゴンは龍人族によって管理され、四界大戦以降種族間の争いは禁止されている。


 なので、自分たちが襲われるのはおかしいと思っていたし、いくら人間嫌いのドラゴンでも問答無用で攻撃はしてこないはずなのだが....。


「……ま、考えたところでどうにもならないな、そんなことより、早く街へ行こうか、このペースだと日が暮れるかもしれないし」


「それもそうだね。じゃあ、急ごっか」


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