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07 覚悟

 本日二話目です。バトルです。





「――Setup【Witch(ウィッチ) Dress(ドレス)】――」


 覚悟を決めた瞬間、私の口から、この世界の言語ではない英語の【命令文(コマンド)】が零れていた。

 踏み出した掌底の一撃で執事が簡単に吹き飛んでいく。

 力が溢れかえるような感覚。執事を追って飛び出した身体は私の意識さえも置いてきぼりにして、踏みつける地面を抉りながら大地を駆け抜けていた。


 あまりの速度に方向を変えただけで大地が砕けて捲り上がる。

 邪魔な樹木を蹴り砕き、高速で駆け抜けていた私に、執事から“呪文”の詠唱が聞こえると、この世界の呪文が私の中でゲームの言語に変換されて、覚えていたゲームの魔法がアンロックされた。


「【Fire(ファイア) Arrow(アロー)】」


 執事のファイアアローを私のファイアアローが迎撃する。

 林に逃げ込もうとしていた執事を追い、私が斬馬刀(リジル)を取りだして樹木を斬り裂くと、開けた視界の中で執事が目を見開いて私を見つめていた。


 視界の高さが慣れ親しんだものへと戻っている。

 大きくなった手を包むのは、金属で補強された黒い手袋。

 その身体を包むのは、黒薔薇と茨の刺繍が施された、ビロードの光沢を放つ真っ赤なミニドレス。

 全身の要所を黒い金属のパーツで補強し、膝上まであるヒールのロングブーツも、ドレスと同じ赤と黒。


 私は全力で抗うと決めて、“全力”で戦える装備を求めた。

 その思いがキーワードとなって、私が全力で戦う為に、私がゲームで慣れ親しんだ装備を一式(・・)で装備する【命令文(コマンド)】を使わせた。

 部分鎧ではダメでした。全身一式の【シリーズ】化されたこの装備だから、同時に装着されて、私の身体をそれに合わせて(・・・・)全力で戦える“姿”に変化させた。

 あのゲームでは、【私専用装備(ユニーク)】を纏った今の私は、こう呼ばれていました。


「私は――“魔女”よ」


 私がそう名乗ると、執事の瞳が戸惑うように揺らぐ。

 そう言えばマイアが読んでくれたお伽話だと、『悪い魔法使い』の定番は『魔女』でしたね。

 少々落ち着いてきました。どういう原理か分かりませんが、私はVRMMORPGのプレイヤーキャラクターとなっているようです。

 この身体ならリジルも使えるようですけど、問題は私の意識がこの身体の反応速度についていけてない事ですね。

 数本の木を一発で切り倒せたのは、勢いによる偶然(・・)です。意識が半分飛んでいたので勝手に身体が動いたようですが、ここまで落ち着くと逆に今の身体を制御出来る気がしません。

 危ないのでリジルをカバンに仕舞うと、執事も落ち着いてきたのか私を睨むようにして懐から豪華な短剣を取り出した。


「魔女だと……ふざけるなっ。どこの冒険者か知らないが、あの“忌み子”をどこに隠したっ!?」


 なるほど、髪色と瞳の色が一緒のハーフエルフでも、今の私が“キャロル”だと認識が出来ていないようですね。

 しばし警戒していた執事でしたが、私がしばらく黙っていると、それで与し易しと感じたのか私の身体をジロジロと見てニヤリと笑う。


「同族の噂でも聞いたか? あれはお前らエルフ族とは関係ない。大人しく渡すのなら良い目を見せてやるぞ?」

「……………」

 意味が分からず首を傾げると、その一瞬の隙を突いて執事が短剣を突き出してきた。

 まぁ、隙なんて意味がありませんが。


「Set【Hermes(ヘルメス)】」


 ガキンッ!

「何だとっ!?」

 私が取りだした【ヘルメスの短剣】が執事の短剣を弾いた。コレもネタ武器の一つですが、それよりも今、執事の動きが緩慢に見えました。これは要検証です。

 私がヘルメスを構えて執事の攻撃に備えると、彼は自分の手にある豪華な短剣を見てわなわなと震えていた。

「き、貴様、よくもお嬢様に戴いた短剣をっ!」


 あ、刃の部分が大きく欠けていますね。このヘルメスはダブルレアですが、それほど攻撃力は高くないのに、

「安物ですか?」

「ふざけるなっ!!!」

 怒らせてしまいました。ああ、なるほど、お嬢様ってお母様のことでしたね。随分と仲が良さそうです。

「貴様、許さんっ!」

「…………」

 ……許さない? それは私の台詞です。


 ガキンッ!

「ちっ!」

 私が軽く突きだした短剣がまた執事の短剣を刃こぼれさせる。

 それから何度か振るっても、何故か上手く攻撃出来ません。自分の動きが速くて意識がついて行けてない事もありますが、戦闘スキルの影響か、身体が決まった型どおりに動くので上手く動けないのです。

 ふむ……『型』ですか。


 ガキンッ!

「ぐっ」

 私が繰り出した鋭い突きに、執事が狼狽したように後ろに下がる。

 考え方を変えました。これが決まった動きの『型』だとしたら、武術の『型』と同じように考えれば良いのではありませんか?

 キンッ、ガキッ!

 突然、人が変わったように攻撃を始めた私に、執事は目に見えて焦りを見せながらも怒りのような感情を表す。

「何故当ててこないっ! 舐めているのかっ!」

「え、だってコレ、包丁ですから」

 ヘルメスは見た目から包丁です。お肉は食材以外切りたくはありません。


「ちっ」

 執事は舌打ちして後ろに下がりながら、また呪文を唱え始める。


「『万物司る土よ。石の礫となりて、我が敵を打ち砕け』【石礫(ストーンブリツト)】!」


 執事の呪文に、私達の周囲から小石が浮かび上がり私に向かって飛んでくる。あ、またアンロックされました。

 でも、これだけの数があると、同じ魔法で打ち落とすのは無理ですね。だから――


 ガガガガガガガガガガガッ!

 回転しながら【剣舞】を使い、全ての飛礫を短剣で打ち落とします。


「こ、この化け物がっ! 【三段突き(トリプルエッジ)】っ!」


 失礼ですね。多分、ストーンブリットで隙を突こうとしていたのでしょう。飛礫同様遅く見える執事の突きに、私は【戦技】の存在を思い出す。

 確か、MPを消費して武器を媒介に放つ単音節の無属性魔法とか、取説に書いていましたね。


「【Gale(ゲール) Edge(エッジ)】」


 私の繰り出した短剣の【戦技】が執事の【戦技】を受け止め、彼が愕然とした顔をする。

「馬鹿な……【疾風突き】だとっ!」


 こちらだとそう言われるのですね。

 検証でしたが、こちらでも私の力は充分に通じます。

 こちらだと【レベル】の概念ははなくて、技能による能力の上昇のみだそうですが、VRMMOでの私のレベルは95ありました。

 そう言えばゲームの初期では、スキルの上昇値は50が限界で、レベルも上がりにくかったですね。それがクエストでスキル100まで解放されて、レベルも100越えが出来るようになりましたが、あのスキル50という数値が『人間の限界』だったと仮定すると、普通の人間とではかなり力の差がありそうですね。


 ―――ドクンッ―――    


「………」

 あ、やばいです。検証に時間を掛けすぎました。

 心臓の鼓動が激しくなって、身体が突然重く感じる。

 動きが目に見えて遅くなり、身体から引いていく“熱”に私が後ろに下がりながら自分の身体を抱きしめると――

「…あ」

 ポンッ、と纏っていた【Witch Dress】が脱ぎ散らかすように解除されて、元の小さなキャロルの姿に戻った私に、執事が唖然とした顔を向けていた。



「…………」

「……ハ、ハハ、何だコレは? まさかお前が魔術で化けていたのかっ! 本当に魔女だなっ!」

 唖然としていた執事が、地面にへたり込んだ私の状況をようやく理解できたのか、引き攣った顔で歪んだ笑みを浮かべる。

「時間切れかっ? 魔力が尽きたのかっ、愚かな忌み子めっ! 所詮は汚れた血はその程度だってことだっ!」


 そうですね。覚悟はしていたつもりだったのですが、覚悟が足りていなかったようです。私は彼を――人間を殺すことを無意識に躊躇していました。


「どちらにしろ貴様は終わりだっ! お嬢様のお心の為に死ぬがいいっ!」

 刃こぼれした短剣を構えて、執事が近づいて来る。

 愛する“お嬢様”の為に確実に私の命を奪おうと近づいて来る。

 覚悟は決めても足りなかった覚悟。でも、私はもう迷いません。最後まで抗い続けます。

「Set【Break(ブレイク) Revolver(リボルバー)】」


 ドォオオンッ!!


 地面に押し付けるようにして呼び出し、地面にグリップを埋め込むように現れた魔銃から弾丸が放たれる。

 構えられない。狙いも付けられない。だから、あなたが射線上に近づいてくれるのを待っていました。


「…………、」

 執事が驚いた顔で自分の胸元に手を当て、溢れ出る血に泣き笑いのような顔をして、彼は血を吐きながら崩れ落ちていきました。


「……バイバイ」


 私は諦めないと覚悟を決めました。

 この世界で“悪役令嬢”として運命と立ち向かう“覚悟”を……。





 これからの予定ですが、次回はマイアの閑話を入れまして、お兄ちゃんディルク関係の話を終えてから、五歳の『王都編』に移ります。

 そこら辺から、攻略対象者達と絡むことになりますので、もう少々、『辺境領編』にお付き合い下さい。

 宜しければ、ご感想とご評価をお待ちしています。


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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
検証勢とは罪深いものだな。 せめて手か足を潰してから検証したらいいのに。 殺す為に連れてきたんだし、情状酌量の余地はないよね?
[一言] 大事なものぽいから、ちゃん〜と壊れた短剣を母の元に届けてあげなくてはなりませんこと。
[気になる点] もっと執事を惨たらしく頃してほしかった。 幼女虐待とかありえない。
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