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64 魔族国からの使者 後編




「き、貴様が畏れ多くも、魔王を騙るハーフエルフの女かっ」


 私に会いに来たという鎧姿の男達の一団。兜の隙間から見える肌の感じだと魔族らしい彼らは、私が高レベルの気配を隠すと、いきなりリーダーらしき人物が居丈高にそう言い放ちました。……ちょっと腰が引けてますが。


「言ってない」

「何だとっ! 新たな魔王に忠誠を誓っていると言っておったぞっ!」

「……誰が?」

 なんとなく長老のほうへ視線を向けると、長老はあからさまに視線を外して怪しい感じに口笛を吹く。お前か。

「長老……」

「ま、待ってくだされっ! 儂ら全員、キャロル様がおらなかったら生きてこられたか分からんっ。そんなキャロル様に忠誠を誓うのは当然のことじゃっ。それに魔王様とは言っとらんっ。まことに魔族を率いるに相応しい力を持ったお方だと……。なっ? 皆の衆っ」

 ダラダラと汗を流しながら長老が助けを求めるように村人の魔族達を振り返ると、私の剣呑な気配を察した彼らは、朗らかな愛想笑いを浮かべながら長老を差し出すように長老から離れました。慕われてるね、長老。


「そんな事はどうでもいいっ! 魔族の長たる魔王を名乗る不遜なハーフエルフよっ、我らが成敗してくれるっ!」


 絶対的な危機にあった長老を救ったのは鎧姿の男達でした。

 槍や戦斧を構える彼らに周囲の魔族達が私を庇おうとして鎌や小剣を構え、寝そべっていたポチがゆるりと立ち上がり、男達は気圧されるように一歩下がる。

「いいよ、みんな下がって」

 私のせいで魔族の人達に怪我をさせたくありません。相手は六人。鎧を着ていますけど顔の部分は覆われていないので一発ずつ撃ち込めば終わると、ブレイクリボルバーに銀弾を込めてシリンダー部分をカララと回す。


「おい、嬢ちゃんに仇なす気なら俺が相手になるぜっ」


 始まろうとしていたその戦いに割り込んだのは、ポチの背後から現れたベルトおじさんでした。

 あちこちにトゲが生えた悪魔を模った漆黒の全身鎧に、禍々しい大剣を軽々と抜き放つその姿は悪役そのものですが、ここは男性の顔を立ててサボっ……弱い婦女子は大人しく引っ込んでおきましょう。


「何奴だっ! その禍々しい姿、只者ではないなっ!」

「俺は……そうっ、俺は嬢ちゃんを護る『黒騎士・ベルト』様よっ! さあ、どこからでも掛かってこいっ!」


 ………やっぱりベルトさん、その格好気に入っているでしょ?

 でも大丈夫かな? お任せしておいて何ですが、第一段階のレベル制限は突破してもまだスキル上げもしてませんし、言動は雑魚っぽいですがこの鎧の人達、結構強いような気配がします。


「黒騎士とやら、行くぞっ!」

「おおっ!」

 ガキンッ! 

 鎧の人達の中から大柄な戦士が巨大な戦斧で襲いかかり、ベルトさんが大剣で受け止め盛大に火花を散らした。ベルトさんも人族にしては大きいけど、魔族の戦士とは倍近く体格差があるのに鍔競り合いになっています。

「どりゃっ!」

 でもベルトさんは下手に鍔競り合いを続けず、大剣の刃を回転させて斧をさばくと、体勢を崩した戦士の腹を蹴って弾き飛ばした。

「魔族の戦士はそんなものかっ! 全員で掛かってこいっ!」

「生意気なっ! その驕り、あの世で後悔するがいいっ!」


 脳筋のベルトさんにしては器用な戦い方だと思ったらやっぱり脳筋でした。ベルトさんに挑発されて鎧の戦士達が武器を構えてベルトさんを取り囲む。

 左右から繰り出される槍の攻撃を大剣とガントレットで受け止め受け流す。不壊の装備だから出来ることですね。鍛える為に無茶なことをやらせましたけど、装備の特性を掴んで自分なりの戦い方を構築したみたい。

 体勢を崩されたり、鎧の中まで衝撃がくるような攻撃以外は鎧の性能で無視して、大振りする戦士の攻撃に合わせてカウンターぎみに強攻撃で吹き飛ばした。


「こんなものかっ! オーガの群れのほうがヤバかったぞっ! すげぇキツかったんだぞっ、本気で死ぬかと思ったぞ、こんちくしょうっ!!!」

「な、何を言っているっ!?」


「…………」

 なんか結構なトラウマになっているみたいですね。やっぱりゲームのプレイヤーがやってきたことを現実でやらせるのは無理がありましたか。

 次の制限突破クエストである、魔界から悪魔をランダムに呼び出して服従させる奴は危険そうだからやめたほうがいいかも……。

 何しろ、最低でも【上級悪魔(グレーターデーモン)】クラスで準備を怠らなければ倒せるけど、運が悪いと【大悪魔(アークデーモン)】級(最低レベル100以上)が出てきて瞬殺されますから。

 その場合は大人しくデスペナルティを貰うか、納得して帰って貰う必要があるんですけど、リアルでその場限りの人生を賭けるのはリスクが大きすぎますよね。

 ……ベルトさんって意外と運がいいから、やらせてみる?


「おのれぇ!」

「ハハッ、貴様、やるなぁ」


 変なことを考えている間に大部分の鎧の男達は倒され、残ったリーダー格の男とベルトさんの一騎打ちになってました。

 運良くと言うべきか、ベルトさんが手加減したのか、鬱憤晴らしでかなり手酷くやられているけど倒れた男達はギリギリ息がありました。いや、放置してたら死ぬかも?

 そしてベルトさんとリーダー格の男が、互いに大剣を構えて一歩も退かずに真正面から打ち合う。

 ガキンッ、ガキンッ! とお腹に響くような金属が打ち合う音に、見守っていた魔族達がその度に身を竦ませる。

 私がベルトさんにあげた武具も大概だけど、リーダーの男が使っていた大剣もかなりの業物らしく、あれほど激しく不壊の武器と打ち合いながらも、まだ刃こぼれもしていない。

 あの武器なら不壊の鎧を着たベルトさんにも充分ダメージが通ると思う。実に見応えする勝負だと思うけど、装備的にも実力的にもやっぱりベルトさんのほうが格上で、焦れたリーダーの男はついに防御の構えを解いて、全力の一撃を打つべく大剣を大きく振りかぶる。


「この一撃に全てを賭けるっ!!」

「おうっ! 受けてやるぜっ!!」

 ベルトさんもそれに応えるように吠えて、視界を狭める兜を脱ぎ捨て、漆黒の大剣を上段に構えた。

「なにっ、人族だとっ!」

「ああ、そうだっ、それが俺達の戦いに関係あるのか?」

「……フフ。無いなっ! 我が名はボリス! 行くぞベルトよっ!」

「来いっ、ボリスっ!」

 ベルトさんが人族だと言うことで一瞬ざわめいたけど、強さが優先される魔族の戦士ボリスはベルトを戦士と認め、不敵な笑みを浮かべて闘志を漲らせた。

 二人の技量、戦士としての気迫がぶつかり、その場を痛いほどの静寂が支配する。

 おそらくこれで決まる。見守っている者達もこの一撃で必ずどちらかが……下手をすれば二人とも命を失うことになると理解して息を飲む。


「はああっ!!」

「うりゃああ!!」


 ガシン……ッ!


「はい、ここまで」

「「……は?」」

 その瞬間に身体強化を掛けた私が割り込み、振り下ろされた二人の大剣を手で受け止めました。

「き、貴様、男の勝負を、」

「いくら嬢ちゃんでも、それは、」

「煩い」

「「どわぁああっ!?」」

 文句を言い始めた二人を掴んでいた大剣ごと振り回して、遠くに放り投げる。

「「「………………」」」

 見物してた魔族達も何か言いたげでしたが、私が振り向くと視線を逸らす。もう文句はありませんね。

「そこの人達を手当てして。まだ生きてる」

「「「はいっ!」」」

 私が声を掛けると隠れていたマイアや数人の魔族が飛び出し、ベルトさんに倒された男達の手当を始める。


「……助かる……のか?」

 そんな声を掛けてきたのは、投げた時に打ち所が悪かったのか、ベルトさんに肩を借りて戻ってきたボリスでした。君達仲良し?

「それはまだ分からな…」

「キャロルお嬢様っ! こちらの方は息がありませんっ!」

 マイアの報告に誰もが一瞬息を飲み、手加減したつもりのベルトさんがわずかに口元を歪ませた。

「ベルトよ。戦いで死ぬのは当然だ。お前が気にすることではない」

「ボリス……」


「諦めるのは早い」

 私がそう呟くとベルトとボリスが顔を上げ、人々の視線が集まる。


「――Setup【Saint(セイント) Cloche(クロシュ)】all――」


 私の姿が赤と黒の『魔女』装備から、白と銀の『聖者の鎧』に変わり、巨大な杖を天に掲げた。


「――【Resur(リザレ)rection(クション)】――」


 第六階級魔法【蘇生】です。VRMMOでは普通に死者を蘇生出来る魔法でしたが、現実では病院の電気ショック程度の効力しかありませんでした。

 蘇生限界時間は、死亡してから約10分。ギリギリですけど、魔族の強靱さと彼らのステータスの高さなら――


「………っ」

「お嬢様っ! 息を吹き返しましたっ!」


 おおおおおおおおおおおおおお……と、周囲からどよめきが起こり、【範囲拡大】の効果が付いた杖の効力か、【蘇生】の追加効果であるHP20%回復によって、倒れていた他の男達も起き上がり始める。


「…………」

 それを見たボリスが無言のまま私を見つめ、私の前に跪くと今度は威圧ではなく自分の意志で私へ深く頭を下げていました。

 そして私は、その後、魔族に残った最後の国の王から招待を受けることになる。




次回、魔族の国へ。魔族の国王の思惑は。

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