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57 魔の森の戦い ③

戦闘のみ。残酷なシーンがございます。




「な、なんだっ、変わったっ!?」

「落ち着けっ! おそらく魔術で姿を変えただけだっ!」

 変身した私の姿に他の騎士達は困惑しながらもすぐに落ち着きを取り戻し、持っていた武器を私に向けた。


「……くっそぉ、」

 鼻と口から血を流しながら、私がぶっ飛ばした最初の騎士がよろよろと身を起こす。

 やけに感触が軽いと思ったら自分から飛んで衝撃を緩和していたんですね。見た目の印象よりもレベルが高いのかもしれません。

「貴様、その姿は『魔女』…」

 ドンドンドンッ!!

「……寝てなさい」

 立ち上がりかけていた騎士の中心線に魔銃を3発撃ち込んで静かにさせた。


「『魔女』っ! 亜人冒険者の『魔女』かっ!」

「誰か、戻ってこの事を宰相閣下に、」

「気を抜く、…ごほっ!」

 “魔女”という単語に一瞬浮き足だった彼らの一人に、リジルを槍のように突き刺し、「なっ、」

「【Fire(ファイア) Ball(ボール)】」

 動きが止まった残りの二人に【火球】を撃ち込んで爆炎に包み込む。


「………」

 スカートの埃を払うようにして炎を払い飛ばし、【カバン】から薬品アイテムを取り出すと、麻薬農場を襲撃した時と同じように真紅のドレスを漆黒に染め、目元を覆うバイザーを装着し、MPの回復を早めるドーピング剤を服用する。

 ジュリオ達による魔族の襲撃が確定しました。しかも王太子ジュリオの箔を付ける為の小規模な戦闘ではなく、宰相の利益の為、国全体の魔族や亜人に対する敵対心を煽る為に一方的な罪を着せて虐殺しようとしています。

 私がそれを阻止しようとすることで、本当に人族の怒りが魔族や亜人に向かうかもしれない。でも、私は黙って殺されるつもりはありませんし、何もしていない魔族の人々を殺させもしません。        

「……止めてみせる」

 これから行うことに決意を込めて一言呟き、私は進軍する彼らに向けて森の中を駆け出した。


   *


「隊長っ! 斥候に出ていた冒険者が、魔族の痕跡を発見したそうですっ」

「おおっそうかっ! ならば我が騎士隊はそちらに向かうぞっ。総員進軍準備っ!」

「はっ! 第一騎士団への報告はいかがいたしましょうか?」

「はぁ?」

 第二騎士団で騎士40名を預かる縦も横も大きなその隊長は、自慢のヒゲを指で撫でながら進言した騎士を睨み付けた。

「貴様は馬鹿か? あんな城にばかり籠もっているスカした連中に、せっかくの手柄をくれてやれと? それに考えてもみろ。俺達が最初なら魔族の若い女を奴隷にし放題だぞ?」

「……そ、そうですね」

 隊長にそう言われて報告に来た若い騎士の顔に下卑た笑みが浮かぶ。

「理解したか? 魔族なら生きたまま焼こうが、邪魔になったら殺そうが好き勝手に出来るぞ。他の連中にも伝えとけっ」

「はっ」

「もちろん、最初に選ぶのは俺だがな。がっはっはっ」


「――【Acid(アシッド) Cloud(クラウド)】――」


『ぎゃああああああああああああああっ!?』

 突然、白い霧のような物が辺りを包むと、その中心にいた騎士達の鎧が腐食し、騎士達も焼かれてのたうち回る。

「な、何事だっ、何が起こったっ!?」

 バタバタと倒れていく部下の騎士達に、自らも酸に焼かれて苦悶の表情で片膝をつきながら隊長が叫ぶ。

「何だあれはっ!?」

 運良く【酸の雲】の範囲から離れていた一般兵士が叫ぶと、全員の視線が大樹の上に立つ、漆黒の裾の短いドレスを纏う少女の姿を捉えた。


「魔族かっ! ええい、立てっ! 兵士共、矢を射よっ!」

 騎士隊長は動かない騎士の襟首を掴みながら兵士に叫び、兵士達は女に矢を打つことを躊躇しながらも命令通りに弓を構える。

 弓兵達から矢が放たれ、漆黒の少女はそっと前に手をかざした。


「【Typhoon(タイフーン)】」


 膨大な魔力と暴風が吹き荒れ、放たれた矢ごと百余名の兵士と残った騎士達を薙ぎ払う。

「ぐほっ、く、くそっ、どこだっ、が、」

 吹き飛ばされ大地に転がる騎士隊長が、口に入った土を吐き出しながら漆黒の少女を捜すと、土埃を吹き飛ばすように疾風の如く突っ込んできた少女の大剣が隊長の首を斬り飛ばした。

「…ひっ」

 騎士のほとんどが倒され、残された兵士達の顔に怯えが走る。

 それでも兵士の指揮官や古参の兵士が武器を構えたが、少女は無言のまま身の丈ほどもある大剣を軽々と肩に掛け、悠然と走り去るその姿が消えるまで、兵士達は結局手を出すどころか動くことも出来なかった。


   *


「――【Blast(ブラスト)】――」


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 爆破の呪文が大地を砕き、森を吹き飛ばし、大量の土塊と飛礫が広範囲に軍の横腹を打ち付ける。


「来たぞっ! 魔族だっ!」

「薄汚い魔族めっ! 正義の鉄槌を受けるがいいっ!」


 広範囲だがダメージそのものは少ないと見て、近場の騎士隊が気勢を上げる。

 森の中での度重なる襲撃に半分演習気分だった騎士達だったが、気付いた時には数百名もの騎士が倒され、あるいは無力化されていた。

 気付いた第二第三の騎士団長が警戒を促し、騎士達もようやく本気になったが、彼らはまだ『敵』の実力を知らなかった。


 森の中を馬さえも追いつけない速度で疾走し、少女は目に付いた騎士隊に向けて魔術を撃ち放つ。


「――【Ice(アイス) Stormストーム】――」


「ぐああ、氷の魔術だっ」

「盾を構えろっ、こんな大魔法を何度も、」

 隊長の一人が部下の騎士達をそう鼓舞しようとした時、再び【氷の嵐】が、それもひとつではなく連打するように吹き荒れ、氷の嵐が吹き抜けた後には五十人を超える騎士達が氷像と化して白くきらめいていた。


「敵は魔術師だっ! 火魔術を使える者は壁を作れっ!」

「敵は魔術師一人だっ! 押し潰せっ!」

 すぐに他の騎士隊が押し掛けて対処をしながらも物量で押し潰そうとする。

 だが今までと違うのは、功を焦って突っ込んでくるだけだった騎士達が後ろに下がり、敵が高威力の魔術を使うと知って、盾を構えた一般兵士達を前に出してきた。

 戦争の経験がない若い兵士達が青い顔で突っ込んでくる様子に、漆黒の少女は静かに指先を向ける。


「――【Lightning(ライトニング)】――」


 直線上に飛ぶ【稲妻】の魔法が数百人の兵士達の中央を突き抜け、事切れ、麻痺して前列が崩れたその中央を漆黒の少女が駆け抜けると、後方にいた騎士達が慌てて構える盾に向けて魔銃を構えた。


「――【Death(デス) Slug(スラッグ)】――」


 ドォオオオオオンッ!!

 魔銃の【戦技】が直線上にいた十数名の騎士達を盾ごと粉砕する。

「くそっ! よくもやったな、魔族め!」

 後方に控えていた第三騎士団の団長が馬に乗って、槍を構えて少女に迫ると、漆黒の少女は魔銃を仕舞い、わずかに反った片刃の大剣を両手で構えて、すれ違いざまに馬ごと騎士団長を両断した。


 高威力の魔術を使い、剣技で騎士団長を圧倒する。

 だが、すでに騎士の三分の一は倒されたが、まだ700名近い騎士が続々と集まり、少女は騎士を倒すことを優先しているのか、兵士達はほぼ丸ごと残っていた。

 第二騎士団の中枢を倒したが、少女の周りは二千名の兵士に囲まれている。

 今はまだ漆黒の少女を恐れて兵士達は攻撃してこないが、他の騎士達が到着すれば本当に数の暴力に晒されることになるだろう。


 そんな中で少女は天を見上げ、指先を唇に当てて高く口笛を吹き鳴らす。

 そして――


 ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


 天より漆黒の影が舞い降り、恐ろしく速く恐ろしく巨大な獣のシルエットを持つ黒い竜が炎を撒き散らしながら兵士達を吹き飛ばした。

 渦巻く炎のブレス。ここ数十年は目撃例もない古代竜の姿と、弱き者の精神を砕く竜の咆吼によって一般兵士達や下級騎士の半数が戦意を無くして逃げ惑い、それでも戦おうとする騎士達とぶつかって大混乱となった。

 その中である噂を知っていた何人かの兵士や騎士が、唖然とした顔でその名を呟く。


「………ま、魔王だぁあああああああああああああああっ!!!」


 五年前、港町で噂されていた、巨大交易船を潰した黒い竜に乗る魔王の噂。

 それが突然現れたとしても兵士も騎士もここまで戦意を失うことはなかっただろう。だが、ここまでの同胞の死に様や少女の恐ろしいほどの強さを目にして、まともな戦場に出たことのない、内心怯えていた兵士や騎士達の心をへし折った。


 軍全体の倒された数で見れば一割にも満たない。だが実質は倒されたほとんどが軍の主力である騎士達だとすれば、王太子の箔を付けるどころではなく、これ以上の進軍さえ危ぶまれるかなりの痛手となっただろう。

 それでも――ケーニスタの騎士団にはこの男がいた。


「すっげぇ竜だなっ! おい、魔王の嬢ちゃん、降りてきなっ! 俺が相手になってやるぜっ!」


 その口上と雄々しきその姿に、逃げ腰だった兵士達が顔を上げる。

 第一騎士団団長、一介の冒険者が倒した竜を国王に献上したことで『剣聖』の称号を賜り、騎士団長となったケーニスタ王国最強の存在。


「このベルト・ラム・バッシュがお前を倒すっ!」




次回、ベルトと戦闘。そこに介入する人物とは。


次回は少し遅れます。申し訳ございません。


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― 新着の感想 ―
出たな、バトルジャンキー!! 彼、兵士の心配とかまるでしないのね。
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