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05 魔女の装備

 少々展開が遅い感じがしたので、本日二話目です。




 魔銃・ブレイクリボルバー。【Break Revolver】

 私の所有するネタ武器の一つで、射撃でのメイン武器の一つでもあります。

 剣と魔法の世界であるVRMMORPGにも銃器がありまして、非常に強力な武器なのですが、扱いづらい武器でもありました。

 まず一発ずつ弾を込めて魔力で撃つ。少量ですがMPを消費して、その工程に大型両手近接武器並のモーション時間が掛かるのです。

 しかも命中率が悪い。高レベルのアーチャーでもないと遠距離では当たらないので、命中率を上げるには近接武器並みに接近する必要があります。

 それに弾がバカ高い。安価な銅弾ならまだしも、高威力の銀弾なんて使ったら一般のプレイヤーは破産しかねません。

 そこに海賊幽霊船の船長が、6発リボルバー式の銃を落とすとの情報がもたらされたので、不遇だった銃使い達は歓喜しました。


 廃プレイヤー達はこぞって獲りに出掛けました。そして落胆する。

 引き金を引くだけで6発も弾が出る。素晴らしい。でも、この世界の銃器はライフルが基本で、短銃ではアーチャーでも遠くから当てられなかったのです。

 しかも撃つ毎にMPを消費するし、威力もライフルの半分しかありません。

 それでもいいじゃないですか。ロマンですよ。ですがVRMMORPGには、剣でも槍でも弓でも、MPを使って放つ【戦技】がありました。

 リキャストが長いので連発は出来ませんが、一撃で通常攻撃の5~10倍近い威力が出るので、前衛はMP残量とタイミングを計って敵と戦うのが定番だったのです。

 でもその威力は、ステータスと武器の基礎威力に左右されるので、その事実を海賊討伐途中に知った討伐パーティのリーダーは、快くこの【ブレイクリボルバー】を私に譲ってくれたのです。

 形状はすべて黒い金属で出来ていて、銃身に30センチ程の四角い筒を着けたような大型リボルバーです。結構大きいので幼児には両手でも持てませんね。



「キャロルお嬢様、スープは飲めますか? 副料理長が野菜と玉子だけで作ってくれましたよ」

「あい」

 私は今、ベッドの上で暖かな玉子野菜スープを戴いています。

 副料理長は平民の方なのでしょうか? 薄く切られた根菜や葉物野菜が柔らかく煮込まれ、澄んだスープに黄金の溶き卵がふわふわと揺れて、食欲をそそりますね。

「美味しいですか?」

「あい」

「料理人も喜びますわ」

 私がお返事すると、メイヤとマイアも破顔する。

 彼女達は、イラリアを止められなかった負い目があるのか、それとも何が起きたのか良く分かっていないのか、あの意地悪メイド、イラリアの『忌み子の呪い』と言う叫びを聞いても、変わらずにお世話をしてくれています。


 それにしても“呪い”ですか。乙女ゲームでも『呪いの魔女』とか言われていて、てっきりただの設定かと思っていましたが、キャロルとなった私も順当に『嫌われ令嬢』への道を進んでいるようです。

 おかしいですね。こういう転生などの場合は、悪役令嬢にならないように慎ましく生きるのが定番なのではないでしょうか……。


 あれから結構な騒ぎになって兵士なんかも駆けつけてきましたが、メイヤさんが、

『三歳のお嬢様にそんなことが出来ますかっ! あなた達は誰に剣を向けているのか分かっているのですかっ!』

 と兵士達を叱って、その後に来た執事っぽい人がその場を収めてくれました。

 でも、その執事も最後に私を見て顔を顰めていたので、私はともかくメイヤとマイアが心配です。表情は変わっていませんがこれでも心配しているのです。


 バァンッ!

「きゃっ」

 突然お部屋の扉が勢いよく開かれ、私――ではなくてマイアが可愛らしく悲鳴をあげました。私はいたって普通です。

「入るぞっ!」

 ですから、入る前に言ってください。おじさん。


 入ってきた豪華な服を着た三十代のおじさん。多分、微かな私の記憶を元にすると、アルセイデス辺境伯――私のお父様です。

 その後に入ってきた綺麗な女性は、多分お母様ですね。多分。

 お父様はベッドの私を見てズカズカと歩いてくると、嫌悪を顕わにして吐き捨てるように言葉をぶつけてきました。


「キャロルっ、貴様、“呪い”を使ったそうだなっ、どこまで我がアルセイデス家に泥を塗れば気が済むのだっ」

「………」

 私がそれに怯えもせずにジッと見つめ返すと、お父様が露骨に顔を顰める。

「本当に不気味な娘だっ。メリーっ、お前がこんな娘を産むからだっ!」

 女性のほうにそう怒鳴りつけると、お母様(仮)は無言のまま静かに頭を下げ、お父様はまた私を見て、次にメイヤとマイアに視線を向けた。

「とにかく、呪いなどをするお前をこの城には置いておけんっ。敷地の森に“離れ”がある。数日のうちに其処に移れっ。そこのメイド共もだっ」

「「は、はい」」

「メリーもコイツにはもう手出しするなっ。こいつはカイロ侯爵の狒々爺に売ると決まってるんだっ、わかったなっ!」

「かしこまりました」


 お父様は入ってきた時と同じようにズカズカと足音を立てて出て行き、お母様はその後に続いて部屋から出て、扉が閉まる寸前――

「…………」

 般若かと思うような顔で私を睨み付けて、そのまま何も言わずに去って行きました。

 怖いですね。とりあえず、スープお代わりください。


   *


 そういうことで私とメイド母子二人は、ここから出て敷地の森にあるらしい離れで暮らすことになりました。

 私が二人を巻き込んでしまったことを謝ると、メイヤが優しく抱きしめてくれて、マイアはスキップするような足取りで私のお部屋の整理を始めていた。

 ……あなた、本当に大丈夫?


 あと少しだけ情報を手に入れました。

 聞いた話を繋ぎ合わせると、あの“お母様”ですが、“忌み子”である私を産んだことをお父様に責められて、私に多々思うところがあるようです。

 お父様の血かも知れませんよ? そんなこと言っても聞いてはくれないでしょうが、もしかしてお母様は、私が死ねば名誉を回復出来るとか思ってます?

 私は成人したらどこかの狒々爺さんに売られるらしいので、お母様の望みは叶わないかと思いますよ。そう言えばキャロルにも婚約者がいたような気がしましたけど、どうなっているのでしょう?


 結局お片付けは明日からとなって、私は天井に弾痕が残るお部屋でお休みです。

 このふかふかベッドは持って行けるでしょうか? 三歳児はおねむの時間ですが、お昼から夕飯まで眠っていたので、あまり眠たくはありません。

 もう少し、能力の検証をしましょうか。16歳の成人前に身を守る術くらいあってもいいですよね。


 斬馬刀・リジル。魔銃・ブレイクリボルバー。この二つは出すことが出来ました。

 多分それらは私の【カバン】に入っていたのでしょう。

 プレイヤーは個人的な荷物を入れておく【カバン】と、持ちきれない荷物を拠点であるマイルームに入れておく【収納】がありました。カバンには100アイテム。収納のほうは2000ですが、遠くの街に置いておくとすぐに取り出せなくなります。

 カバンとは言いつつ、ゲーム時代もそんなの見ていないので亜空間収納だと思いますけど、最後にカバンに何を入れていたのか覚えていませんね……。

 最後に何の装備を選んでいたのか忘れましたが、斬馬刀と魔銃は、同時に使うような事は無いので、どうしてこの二つを持っていたのでしょう?

 とりあえず、カバンに入っているかも知れない装備を出してみましょうか。


「Set【Witch(ウィッチ) Dress(ドレス)Head(ヘッド)


 ビンゴです。真っ赤なサークレットの頭装備が装着され――なくて、ぽてっとベッドに落っこちました。

 やっぱりサイズが合いませんか。でもこれを持っていると言うことは、カバンにあるのは魔法戦用に特化したソロ装備ですね。

 VRMMORPGの武器や防具は、クエストか生産かボスモンスターのドロップが基本ですが、これは【課金クエスト】をやって製作した、私の“専用装備”です。

 凝ったせいで、『薔薇絹(ビロード)の魔女』なんて“痛い”二つ名もゲーム内で戴きました。

 月額制なのに専用装備にお金を取るなんて、大人って怖いです。

 一応ソロで使えるように汎用でカスタマイズしましたが、この装備で前衛用の魔銃や斬馬刀を上手く使えるのでしょうか?

 短剣なら問題は無さそうですが……そう言えば、ナイフはダブルレアのネタ武器がありましたね。料理スキルが上がる見た目そのまま包丁ですが。

 そんな事を考えていたらダブルレアの魔女専用装備は消えて、私の中に戻りました。

 この装備はお気に入りでしたので装備出来なくてしょんぼりですが、気を取り直して装飾系を試しましょう。


 検証の結果、指輪系はダメです。ぶかぶかで落としそう。イヤリングはもう少し大きくなったら大丈夫でしょうか。今着けられるのは首輪系くらいですね。

 とりあえず【護りの首輪】を着けておきます。これはダブルレアなので無くしたりしません。

 あとは魔法ですが……。何故か発動しませんでした。

 何かこの世界特有の発動方法があるのでしょうか? それとも魔法だけは無理なのか第一階級の魔法も使えません。魔法戦装備なのに魔法が使えないって、甘くないプリンみたいな物です。ゲームなら呪文名称を唱えるだけで発動するのに、しょっぱいです。しょっぱいプリンです。

 そんなことを考えていたら眠くなりました。またふて寝します。

 ではオヤスミナサイ。……ぐぅ。


 私はまだ油断していたようです。平和な世界で生きた感覚が抜けていないのでしょうね。お父様が私を売ると言っていたので、しばらく何も無いと思い込んでいました。

 私はあの、お母様の憎しみを理解していなかったのです。


 私はその夜に忍び込んできた賊に攫われてしまったのでした。




 次回、キャロルの本当の力。

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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
しょっぱいブリン=茶碗蒸し
嫌われてんなあ、キャロル。 でも作中でも言われてたけど、父の血筋かも知れないのにこの剣幕だと、何かに理由を付けては虐待されてそう。 そして、父よ。 その「呪い」が自分に向くとは考えないのかね?
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