46 婚約者様のお屋敷
短めです。
カミュの従者達が、どうして微妙な立場の彼に付き従っているのかいまいち分からなかったのですが、皆さん苛められて喜ぶタイプの人だったんですね。
「いや、そんなことないですよっ!? ちゃんとカミーユ様を信じて付いてきている者もいますから、アレと一緒にしないで下さいっ」
「ん」
私がボソッと漏らした言葉が聞こえた執事のニコラスが、バタバタと身振り手振り入りで釈明をする。
「ワカッタ」
「すっげー棒読みですけど、本当に理解しましたっ!?」
「ニコラス様っ、キャロルお嬢様に失礼ですよっ」
ニコラスから庇うようにメイドのマイアが私を抱きしめる。相変わらずマイアは私に過保護です。
「何を騒いでいるんだ?」
話がグダグダし始めたところで普段よりもラフな格好のカミュが現れると、マイアとニコラスが慌てて定位置に戻りました。これって私が説明する流れですか?
「ニコラスが従者になった話」
「そうか。留学先での友人だったが私を心配してついてきてくれたから、多少気安いのは勘弁してやってくれ」
「ん」
なるほど、そう言う理由だったんですね。
今、私が何をしているのかと言いますと、カミュのお屋敷にお呼ばれしております。
カミュは以前、お城の敷地内にある離宮に住んでいたのですが、最近王都にお屋敷を買ったそうでご招待を受けたのです。
あの『魔女』の私がキャロルだってバレてから、カミュは随分積極的に関わるようになってきました。
私はあまり人付き合いが得意なほうではないので大変なのですが、私が躊躇うとディルクがそれ見たことかと、オーガの首を取ったように騒ぐので仕方ありません。
「では、庭に出てみようか」
「ん」
ソファーから降りようとした瞬間にカミュが私の手を取り、手を握ったまま私の歩調に合わせて歩いてくれます。
カミュは相変わらず距離感が近い。ディルクのようにセクハラをしてくるわけではないのですが、一緒に居る時はずっと手を握られていることが多いので、正直に言って対応に困ります。
それにしてもまだ引っ越ししてさほど日も経っていないので、まだ生活感がないと言いますか、まだ人を呼ぶ状態でもないと思うんですけど、庭に到着すると案の定、広いお庭ですが花も無く殺風景な感じがしました。
どういう事だろうとカミュを見上げると、彼は私の隣で膝を付き、目線を合わせるどころか顔を近づけるようにして、甘い声で囁く。
「いずれ君のものになる庭だから、君の好きなようにしていいんだよ」
「…………」
彼は本当に大丈夫なんでしょうか……。
私の中に大人版キャロルを見ていることは分かるんですけど、そんな年頃の令嬢にするような対応をちびっ子の私にしているのは、私の感性だと危ない感じがするんですけど、本当に平気なんでしょうか?
まぁ、他の貴族なんて私の目の前で私を売り飛ばす話をしたり、ペットとして飼おうとしたり、鎖に繋いで監禁しようとしたり、薬を盛って色々しようとしたり、挨拶で毒殺しようとしたり、付きまとって盗撮したり、暴力を振るわれて喜んだり、冷たく罵られて喜んだりとド変態ばかりなので、意外と平気なのかも?
「……バラ」
「え? 薔薇?」
「真っ赤な薔薇が欲しい」
「そうかっ、分かった」
どう対応していいか分からず、むず痒いような感覚の意味が分からなくて、とりあえず適当に薔薇が欲しいと言うと、カミュはそんな時ばかり大人の対応ではなく少年っぽい笑顔を見せてくれる。
……何か…困る。
「……最近、貴族関係は落ち着いた?」
「ん? ああ、そうだね」
思わず話題を変えるとカミュは色々教えてくれました。
とりあえず私が財源を潰した宰相ですが、色々と後始末に追われて悪巧みをしている状況ではなくなったみたいです。
一時期は怒り心頭で犯人捜しに躍起になっていたみたいですが、目撃情報が『竜に乗った女』なんて、船幽霊並みの信憑度で指名手配をするわけにはいかず、農園は何とか誤魔化せるとしても、海で被害に遭ったのは海賊まがいの船で、港に密輸らしき品と一緒に宰相の記章が付いた旗が流れ着いたことから、それをもみ消す為に躍起になっているらしく、カミュも今回のように暇が取れるくらいになったとか。
まぁ、港に持ってったのは私なんですけど。
「宰相から資金が流れていた王妃も少し大人しくなっているよ。それよりも今は、若い貴族達が問題でね」
「若い?」
「君と同じ年頃の貴族は、王太子殿下を筆頭にアクの強い者が多くて、色々と問題が起きている」
「へぇ」
色々と心当たりがあります。
「その中でも問題は、プラータ家のフレア嬢と、貴族ではないが『精霊の愛し子』として入学したアリス嬢が、個別に色々と問題を起こして城でも問題になっている」
「へぇ……」
あの二人ですか。
「そう言えば君とその二人は学園の同期だったね。君は二人と友人かな?」
「いいえ知りません」
普段はあまり喋らない私がキッパリと否定したので、一瞬カミュが身体を引く。
「そ、そうか。でも学園で関わることがあるかもしれないから気をつけるんだよ。少しだけ聞いているから、教えておくよ」
「……ん」
あの二人とは関わりたくないのに、二人のことを聞く羽目になってしまいました。悪い予感しかありませんので聞きたくない、……はダメですか?
次回から一話ずつ、アリスとフレアの話が入ります。




