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36 慈愛の教会 前編

内容がギリギリ。




 私はすっかり学院のクラスで浮いた存在になり、遠巻きにされるようになりました。

 まぁ、幼い頃から同年代の普通の友人なんていませんでしたから(フレアやアリスは友人枠ではない)彼ら彼女らとの共通の会話なんて、面倒なので思い付きません。

 でも苛めとは違いますね。ほぼ9割以上が貴族である魔術学院なので、亜人の私はネチネチとした苛めとかあると思っていましたが、どちらかというと避けられている感じです。

 そう言えばこの前、こんな事がありました。


   *


 ここの食堂で提供される食事は危ないので、自前のお弁当を上級貴族用の個室でいただいてから教室へ戻ると、うっかりその場に置き忘れてしまった私の教材が、汚されたり破かれたりしておりました。


「まぁ可哀想。でも皆様の使う教室に自分の物を置いておくなんて、そうなっても当然ではなくて?」

「あら、そんなことを言ってはいけませんわ。相手は蛮族なのですから」

「アレって草しか食べないのでしょ? 中庭の草木が心配ですわ。ほほほ」


 特に誰のこととは言っていませんが、少し離れたところからそんな声が聞こえてきました。

 男爵や子爵の中級貴族っぽい令嬢達ですね。やたらと派手な装飾品を付けているのでギャルっぽい感じでしょうか?

 アリスの一件で私が一部の男子生徒から疎まれているので、彼らの関心を引きたいのと、亜人でありながら上級貴族である私へのやっかみですかね。

 亜人であることもそうですが、私の見た目が八歳児くらいでみんなより一回り小さいのも舐められる原因だと思います。

 本当に面倒ですね……。


「――【Freeze(フリーズ)】――」


 私が【氷結】の呪文を唱えると、汚された教材が一瞬で机ごと凍結して、私が歩き出すとその振動で氷の粉になって崩れ去る。

 成長してこの身体でもだいぶ魔法を使えるようになりました。とは言っても第六階級の一番魔力消費が小さいこの単体破壊呪文で精一杯ですけど。


 シン…と静まりかえった、ダイヤモンドダストが舞う(物理的に)気温さえ下がったような教室を、私がそのまま真っ直ぐに歩いて行くと、クラスメイト達が青い顔で道を空けてくれました。

 あの揶揄っていた令嬢達も横に避けたので、私は足を止めてチラリと視線を向ける。

「あなた」

「ひっ、は、はい」

「教材って何処で売ってますか?」

「……こ、購買所で」

「ん」


   *


 と、そんな些細な出来事があったので、私と視線が合うと逸らされるようになってしまったのです。ゴミをお片付けしただけなのに。

 教職員も特に怪我とかない限り、学園内の揉め事はノータッチみたいですね。

 上級貴族の揉め事なんかに介入しても碌なことがないのもありますけど、一番大きな理由は、入学初日にフレアを注意した礼儀作法の女性教師が、現在は極寒の地で探鉱夫をしていることから分かるでしょう。ホント、まじフレア。

 私をあんなのと一緒にされても困りますが、周りが静かなのは良いことです。

 魔術学園ですから人に危害を加えない限り、それほど煩く言われる事はありませんので、私に絡む人は多くないのですが。


「お嬢さんは、随分と熱心ですね。本がお好きなのですかな?」

「…………」

 学園の図書館で魔術書の研究をしていると、白いお髭のお爺さんがニコニコと話しかけてきました。

 ゆったりとした服装で、裕福そうな感じですが貴族っぽい感じはしません。

「おっと失礼、私はこの王都で教会に勤めておるただの年寄りですよ。孫がこの学園におるので見学していたのですが、今は休憩中なのです。ところでお嬢さんは何の本をお読みですかな?」

「ん」

 とりあえず亜人嫌いでも貴族でもなさそうなので、お爺さんの問いに私は本の表紙をお爺さんに向ける。

「これは……随分と古い本をお読みですね。神話がお好きかな?」

「ん」

 呪文をアンロックする為、魔術文字を研究してきましたが、最近は新しい単語が見つかることも少なくなってきたので、この頃は神話関係を調べています。

「このような古い本を読めるとは勉強熱心なお嬢さんだ。一度、王都の教会にいらっしゃい。そちらにも古い神話の本はいっぱいありますよ」

「……読めるの?」

「一般の方には公開しておりませんが、本好きの方なら汚したりしないでしょうし、勉強好きのお嬢さんに少し見せるくらいなら、神様も煩く言いますまい」

 お爺さんはそう言って、茶目っ気たっぷりウィンクして笑う。


 この人はどういう人なのでしょうか? ただの年寄りと言っていましたが、かなり裕福そうなので、どこの教会か知りませんがそれなりの地位には居るのだと思います。

 貴族ではないと言ってもこの国の上層部は信用できませんが、虎穴に入らずんば虎児を得ず、モフモフすることは全てに優先される、と言うことわざの通り、教会の古い神話には興味があるので、乗ってみてもいいのではないでしょうか。

 決まれば早速、次のお休みの日にその教会に出掛けます。


「大きいですね、お嬢様」

「…………」

 その教会は慈愛の女神を祀る教会でした。VRMMOでもありまして、向こうの大陸ではマイナーゴッドでしたが、こちらの大陸だとメジャーゴッドなのですね。

 VRMMOで神様はそれほど重要ではありませんでした。特殊な回復魔法を得る時にクエストを受けたりする場所という認識です。

 でもこの女神って、人族の女神じゃありませんでしたっけ? 私がメイドのマイアを連れて中に入ると、さすがに排除はされませんが『亜人が何しに来ているんだ?』みたいな視線が私に注がれる。


「ああっ、君は何で此処に居るんですかっ!?」

「ん?」

 突然声が響いて振り返ると、私ほどではないけれどかなり幼く見える少年が真っ直ぐに私を見つめていました。

「キャロルお嬢様、お知り合いですか?」

「ううん。……だれ?」

「入学式で、君はアリスに無体なことをしていたでしょうっ!」

「…………ああ」

 何となく思い出しました。あの時、転んだアリスにハンカチを差し出していた男の子ですね。

 それにしても……

「本当に10歳?」

「君にだけは言われたくないですよっ!」

 ん。それもそうですね。

 でもこの子、どこかで見たような……いえ、この外見とこの話し方はどこかで……


「ルカ、何を騒いでいる?」

「お祖父様っ」

 どこかで聴いたような声にまたそちらを向くと、あのお爺さんがいました。

「おおっ、お嬢さん、来て下さったのですな」

「……ん」

「ルカと友達だとは思いませんでしたな。ルカ、私はまだ忙しいので、このお嬢さんを図書室に連れて行ってあげなさい」

「え、でも、」

「分かったな?」

「……はい」

「それではごゆっくり。そちらの可愛いお嬢さんも」

「は、はい」

 お爺さんはメイドのマイアにもニコリと笑ってこの場を去る。

 ルカとの最後の一瞬だけ威圧感がありましたね。やはり只者ではなさそうです。

 それにしてもお爺さんとこの子が血縁だとは世の中は狭いですね。……ルカ?

「君はお祖父様のお客だったのか……。仕方ない。案内するけど、変なことはしないで下さいねっ」

「……ん」


 ルカって……大司教の孫で、ショタ枠攻略対象者のルカですか?

 油断していましたね。一回しか攻略してないので良く覚えていませんが、外見が幼いので絶対後輩だと思っていました。

 ルカはプリプリ機嫌悪そうにしながらも祖父には逆らえないのか、素直に案内してくれる。

 それにしても初日でヒロインに籠絡されていましたか、チョロいですね。いえ、これは初日で落としたアリスを褒めるべきなのか。


「お爺さん、大司教……?」

「そうですよっ、とても偉くてボクが尊敬する人ですっ。この教会に孤児院を作って、不幸な子供を救ったりもしているのですっ」

「へぇ」

 やっぱり、王都の偉い人と言っても偏見の目で見てはいけませんね。

「ほら、あそこに建物が見えるでしょう」

「……ん」


 教会の一般人が立ち入らない庭の隅に小綺麗な建物があり、そこでは5歳から15歳くらいの同じような丈の短い薄いワンピースを着た女の子ばかりが、外でお洗濯やお掃除をしていました。

 ……ん~~? やけに可愛らしい子ばっかりですね。小さい子はともかく、十代の女の子が脚を見せているのは、教会では拙いのではないですか?


「………どうして女の子ばっかり?」

「神の思し召しだってお祖父様は言っていましたよっ。お祖父様はお優しいので、寂しがる子は、毎晩のように夜に寝室に呼んで一緒に寝てあげているそうですっ」

 ……ん?

「ほら、君も見てみなさいっ。美味しい物を食べて肌も髪も艶良くなったそうですよ。優しいお祖父様は、大きくなった子でも一緒にお風呂に入って洗ってあげるそうです」

 んん~~~……?

「人族だけでなく、あなたみたいな亜人の子もいるんですよっ。あの犬耳の子は、もう13歳なのに、お祖父様の寝所に行く寂しがり屋なんですっ」

「………あ、そう」


 何か見ては行けない舞台裏を見てしまった気がします。

 大丈夫です。お爺さんはとても子供好きなだけなんです。本当にお爺さんは“子供が好き”なんですね。……ふふ。

「……はやく行こ」

「もういいのですか? こんな神様の慈愛に満ちた場所はそうありませんよっ」

「……お爺さんは子供が好きなのね」

「はいっ、お祖父様は小さな女の子が大好きですっ」

「…………」

「ほら、あの子達を見て下さいっ」

 ルカは祖父の偉業を誇らしげに語りながら、庭の隅でお祈りをしている小さな子達を指さし、慈愛に満ちた瞳を向ける。

「小さな子は良いですよね。……逆らわないから」


 んん~~~……?




お爺さんもルカも、小さな子が大好きです。

本当に一度滅んだほうが良いかもしれません。


次回、幼い外見のキャロルはこの魔窟から脱出が出来るのか。

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大司教、学園の図書館で品定め………じゃなく、獲物を物色………でもなく、好々爺の振りして人攫い………みたいなもんだけど、まあ、ロリハーレム作成中だと。 孫もヤベえし、子も同じタイプかね? ルカの「お婆ち…
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