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03 斬馬刀―リジル

 セラフィティー様よりレビューを戴きました。ありがとうございます!





 盲点でした。なまじ前世の面影があったので、ゲームを無意識に除外していました。

 ですが不思議ですね。どうしてキャロルの姿ではなくて、VRMMORPGのプレイヤーキャラにそっくりなのでしょうか?

 キャロルのスチル絵は確かに黒髪と金眼で、とても私好みでしたからマイキャラの作成にも影響しましたけど……。

 偶然にも最初からキャロルはこの顔でした? それとも最初から……“私がキャロルになることが決まって”いましたか?

 それと――


 ――コンコン。

 部屋の扉がノックされて私の思考が中断される。

 返事をしようかと声を出す前に扉が開いてメイドさんっぽい人が入ってくると、私を見て、隠しもしないで嫌悪の表情を浮かべた。

「……失礼します、キャロルお嬢様。お食事をお持ちしました」

 一応、それは入る前に言いましょうね。

 彼女に続いて、年嵩の女性と子供のメイドがワゴンを押して入ってきました。

「あなた達、お嬢様に食事を与えたら一回着替えさせて、お手洗いにも行かせて眠らせなさい。その時についでに掃除も済ませなさい。いいわね」

「「は、はい」」

 二人が返事をすると、彼女は私のほうを見もせずに扉に向かい、扉が閉まる寸前、

『ちっ、忌み子がっ』

 と微かに聞こえました。


「「「………」」」

 女性と女の子もそれが聞こえたのか、少々微妙な空気になりました。

 せめて聞こえないように言ってください。三歳児だから分からないとでも思いましたか? それか聞こえても良いと思っているのか、どちらにしても嫌われているのだけはハッキリと分かります。

 何しろ、食事を『与えて』『眠らせなさい』ですからね。ついでに私が眠ってるその横で埃を立てて掃除もさせるそうです。

「……さ、さあ、キャロルお嬢様、温かいうちに食事にいたしましょうねぇ。マイア、テーブルの準備をしてちょうだい」

「はいっ」

 空気が読めるのは素晴らしいですね。

「さあお嬢様、テーブルへどうぞ」

「あい」

 喋り慣れてないので『はい』が変な感じになってます。

 私が返事をすると女性が目を見開いて、女の子が真っ赤な顔でカトラリーを落とし掛けていました。


 何となく予想はしていましたが、食事はここで一人で食べるようです。

 慣れているからいいのですけど、パパンやママンの事を聞いたら拙いですか?

 女性に手を引かれてテーブルに向かい、専用の椅子に持ち上げて座らせて貰う。

 トレーから出された料理を見て、女性が微妙に顔を顰めた。

「ん~?」

「いえ、少し冷めているようですね。温め直します」

「ううん」

 そのままで良いと言うと、少し迷った顔をして私の前に料理を出してくれた。

 見た目は細かく切られた野菜とベーコンが入った緩めのリゾットと、リンゴっぽい果物が少量付いていました。

 女性にカトラリーを持たせて貰い、ちょびっと口に含むと、普通に美味しかったのでホッとする。……毒もなさそうですね。

 でも確かに温かいのならもっと美味しかったかもです。冷めているというか、ほぼ人肌に近かった。

「……美味しいですか?」

「あい」

 心配そうに尋ねる女性に返事をすると、女の子が何故か赤い顔でプルプル震えていました。風邪ですか?


 彼女達の様子がおかしかったのは、私が今までほとんど言葉を話さなかったからだと言っていました。今まで記憶が混濁していましたからね。

 三十代の女性の名前はメイヤで、女の子はマイアちゃん10歳。二人は親子で雇って貰っている平民のメイドで、メイヤのほうは一年以上前から私のお世話をしてくれていたそうです。

 それであの嫌なメイドがイラリア。アルセイデス家の寄子である男爵家の三女で、就職と言うよりも行儀見習いでメイドをしているらしい。

 この三人が今のところ私のお世話をしている人ですね。


「とうしゃまと、かあしゃまは?」

 私が両親のことを尋ねると、二人の顔が悲しげになる。

「お二人はとてもお忙しいようで……その…」

「また来て下さいますよっ! キャロルお嬢様はこんなにお可愛らしいのですからっ」

 娘のマイアが乗り出すように慰めてくれました。顔がちけぇ。


 平民の二人は、私が“忌み子”であっても気にしていないように見えました。そもそも忌み子を気にするのは貴族だけだったかも?

 私は髪を掻き分けるように飛び出た、長い耳に手で触れる。

 忌み子。人族以外の忌まわしき血が入った存在。

 悪役令嬢キャロルは、人族至上主義の貴族から生まれた、『取り替え子』と呼ばれるハーフエルフなのです。


 『取り替え子(チェンジリング)』とは、所謂先祖返りです。

 この世界にはエルフのような【亜人族】がいまして、様々な種族と交配可能な節操のない【人族】には、長い歴史の中で様々な血が混ざっているそうで、どちらも人族である両親から他種族の血が混ざった子が生まれることをそう呼ぶそうです。

 すでに純粋な人族なんて隔離された島国でもない限り居ないと思いますが、人族至上主義の貴族からごく稀に生まれる『取り替え子』は、嫌悪の対象なのです。

 でも世の中では亜人族が人族の街に紛れて普通に生活している。だから平民である彼女達はハーフエルフであっても私を蔑んだりしないのでした。

 結論、貴族面倒くさい。


「あらあら、沢山召しあがりましたね。お腹いっぱいですか?」

「あいっ」

 子供だからかハーフエルフだからか、あまり食べられない。ポコンと出たポンポンを撫でると、メイヤが破顔し、マイアがブルブル震えていた。

 それから着替えさせて貰っておトイレにも行く。おまるです。ちゃんと出来るようにお世話されました。知識はともかく、心が今の身体に影響を受けているのか、あまり恥ずかしくありません。

「マイア、お昼寝の前にお掃除をするから、お嬢様を少しの間お庭にでもお連れして。イラリア様に見つからないようにね」

「はいっ!」

 母親の言葉にマイアが、重大な使命でも帯びた新兵のような顔で背筋を伸ばす。……大丈夫? この子、落ち着きがありません。

 でもお庭を見るのはいいかも。異世界の植物とか見てみたい。

「お、おおお、お手をどうぞ?」

「あい」

 我ながら語彙が少ない。でも沢山喋るのは面倒だから仕方ありません。

 お顔を真っ赤にしているマイアと手を繋ぐと、彼女はまるでスキップするように歩き出した。……本当に大丈夫?


 お庭に出ると小さい草花が色々生えていました。

「これ、なぁに?」

「わかりませんっ」

 まぁ、私も雑草の名前は知りません。

 他にも見てみると、多少色が違ったり、葉っぱの形が違っていたりするけど、ほとんど知っているものと大差なかった。

「あれはぁ?」

「あれは温室ですね。薬草とか育てているそうですよ?」

「みていい?」

「あそこはその……」


「そこで何をしているかっ!」

 横手のほうから子供のような甲高い怒鳴り声が聞こえた。

 灰色の髪に茶色の瞳。歳はマイアと同じくらいかな? その男の子はズカズカ大股で歩いてくると、私を見るなり整った顔を露骨に顰める。

「ふんっ、こいつか。アルセイデス家の面汚しだと父上が言っていたぞっ。部屋から出すなっ」

「も、申し訳ございませんっ、ディルク坊ちゃま」

「さっさと連れて行けっ! 母上が平民は魔術も碌に使えない無能だと言っていたが、本当だなっ」

「申し訳…ございません…」

 男の子の言葉に、涙ぐんだマイアが下を向いて下唇を噛む。

 この子がキャロルの――私のお兄さん? まだ小さいのに親の言うことを鵜呑みにする典型的な貴族のようです。

「ふんっ」

 最後にまた鼻を鳴らすと、ディルクは温室のほうへ歩いて行き、少し離れていた私がマイアに近寄りそっと手を握る。

「おじょうしゃまぁ」

「あい」


 ぐき……。

 と、離れたところでディルクが突然体勢を崩す。彼は赤い顔で私達に振り返ってから何かを誤魔化すように足下の小石を蹴っ飛ばして、少しだけ片足を引きずるようにして温室へ向かっていきました。

 私は手に残った小石を適当に捨てると、まだぐずりながらも目を丸くしているマイアの手を引いて歩き出す。

「もどろ」

「はいっ」

 元気よくお返事したマイアの手は、お部屋に戻るまで強く握られたままでした。


   *


 我ながら好戦的で困ります。VRMMOの世界ならともかく、乙女ゲームの世界では無駄に敵を増やしそうです。元から貴族に味方は居ませんけど。

 お部屋に戻った後、ベッドでおねむになるまでマイアが絵本を読んでくれたのですけど、あのイラリアがやってきて二人を雑用に連れていきました。

 また育児放棄の時間が始まります。せっかくですので先ほどの“現状考察”の続きでもしましょうか。


 私がキャロルであることは最初から決まっていた――そう仮定するとあの乙女ゲームは『過去の話』ではなくて『未来』の出来事になります。

 キャロルの姿を予知夢で見てゲームの制作者がスチル絵を作り、私がそれを元にしてゲームのキャラクターを作る。

 どちらが先かは横に措いて置くとして、今の私の姿はスチル絵に良く似ているけど、それよりもMMORPGのマイキャラに酷似している。

 過去は変わらないけど未来は変化する。誰かの行動によって、未来(こうりやく)のルートが分岐するように、今の“私”は乙女ゲームの私と同じではない可能性があるのです。


 あのVRMMORPGと乙女ゲームは、魔法や世界観が酷似していました。

 何も知らなければ『パクリ乙』で済みましたが、どちらも現実に存在する世界だとすると、良く似ている世界ではなくて『同じ世界』という可能性もあるのではないでしょうか。

 ……間違えたのは『世界』ではなくて『場所』なんですね。


 でも私の身体は目に見えて強化されていません。そして今の私の姿は、不自然なほどプレイヤーキャラクターに酷似している。

 ふと思い付いた小さな可能性に、私はそっと手を前に出し、【命令文(コマンド)】を口にする。


「Set【Ridill】」


 ゴンッ――

 私の手に収まりきらなかった巨大な“刀”が、手から落ちてカーペットに転がる。

 これは……アレです。

 私がVRMMORPGで使っていたメイン武器の一つ、『斬馬刀(リジル)』です。





 次回、母親とイラリアの意地悪に、キャロルの過剰防衛が火を放つ。

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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
バジルサーモンって美味しいよね
メイン武器が斬馬刀! だが、斬馬刀は作品によって結構形状が違ってるけど、どのタイプの斬馬刀だろう? るろ剣タイプ? 野太刀タイプ?
[一言] 状況から推察すると、イラリア惨殺事件が起きそうな予感ハァハァ
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