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28 か弱い男の子

ギリギリです。





 専用課金装備――セイントクロシュ【Saint Cloche】

 VRMMORPGで私が製作した三種の専用装備の一つで、回復と防衛力に特化したこれまた“尖った”性能の装備です。


 頭【回復魔法MP消費軽減40%】回復魔法のみMPの消費が軽減します。

 胴【物理攻撃魔法攻撃耐性20%】あらゆる攻撃に対して20%の耐性を得ます。

 腰【HP10%+MP15%上昇】HPとMPの最大値が増えます。

 腕【光属性魔法の効果上昇20%】光属性魔法の効果が上がります。

 足【HPMP回復速度上昇20%】HPとMPの自然回復速度が上昇します。

 杖【魔法発動効果の範囲拡大3倍】範囲魔法の発動範囲が増えます。


 尖っていると言うよりかなりヤバい性能です。コンセプトはボス戦で死なずに回復。

 防御力は盾職に準じる350のランクB。ボスキャラのヘイトを取って殴られても、範囲攻撃に巻き込まれても回復作業を続行できます。

 そんな感じだったので、この装備時についたあだ名が『白い巨塔』……。

 でもこのチート臭い性能を得る為にはかなりの対価が必要で、この装備を着ている時の私は、走れません。

 もう一度言いましょう。“走れません”。ジャンプも出来ないし攻撃も躱せない。移動は本当に歩くことしか出来ないんです。

 現地に着いてから着替えるので、【カバン】がいつもパンパンでした。


 そして見た目ですが、もちろん厨二病が強く反映されております。

 胴装備は細かな銀糸の刺繍が施された純白のチャイナドレス。裾は足首辺りまであるのですが、左右のスリットが太もものかなり上の方まで入っているのです。……本当に当時の私は何を考えていたのでしょうね。

 胴は布ですが肩と腕は銀の金属鎧、ガントレットです。拳の部分にトゲトゲまで付いていますけど、あまり殴ったことはありません。そもそも格闘スキルは40程度までしか上げていませんでしたからね。

 頭部は耳元と額から目まで覆う銀のハーフヘルメット。

 足は銀の金属製ショートブーツ。

 そして腰装備が……白のストッキングです。生脚じゃないんですっ。だから撮影しないで下さい。

 最後に杖なんですが、これは杖に見せかけた2メートルのウォーハンマーだったりします。威力はへぼいんですけどね。不意打ちで襲ってくる速度重視の暗殺者を撲殺するのに使っていました。


 そんな感じで魔族達を元々の村まで送り届けまして、報酬である魔族の魔道具を貰いましたが、まだ使えますかね?

 その中にはVRMMOでもあった拠点防衛用の簡易結界なんかありまして、多少形状は違いますが、使えればこの国からおさらばする時に使えそうです。

 そんな訳で幾つか魔道具を持って魔術ギルドに向かいましょう。

 今日はちょっと疲れた感じで多めのお昼寝にしましたので、昼間に出発です。

 いえ実際に疲れているんですけどね。

 不可抗力とは言え、数十人相手の追撃戦。最後には第八階級の魔法まで使っちゃいましたから、疲労が溜まっている感じがします。

 元のプレイヤーの体力は問題ないんですけど、五歳児のほうのキャロルがお疲れさんモードなのです。

 まぁ、ちょっとくらいなら平気です。


 魔女の装備に着替えてお出掛け。やっぱり戦力的にこれが一番安心します。聖者の鎧のほうが防御力は高いのですけど、走れませんからっ!(重要)

「………」

 こっそり魔術師ギルドの入り口を覗き見て、アリスがプレッツェル売りをやっていないか確認。……本気であの存在がトラウマになりかけています。

 どうやら今日はこっちに居ないようですね。冒険者ギルドのほうでしょうか? 確かめになんか行きませんけど。


 魔術師ギルドに入ると、私を知っている男性職員から何しに来やがった的な視線と、同情的な女性職員の視線と、ぶしつけに脚辺りをジロジロ見る視線の中、私と契約している女性職員が私を見つけてやってくる。

「魔女さん、いらっしゃいませ。本日はどうしました? また新しい呪文でも見つかりましたか?」

「今日は違うの。これ」

「これは……珍しい物ですね」

 当たり障りのない魔道具を見せると、女性職員さん――お名前、ジルさん(二十代前半彼氏無し)は、目を輝かせた。

「魔族が使っていた物ですね。他の大陸でもありますが、この国で使っている物より高性能なんです。……売っていただけるので?」

「今回は使えるようにして欲しいの。それはサンプルであげます」

「なるほど。では、研究素材として買い取り、その代金と引き替えに使えるように調整するのではいかがですか?」

「ん」

 契約成立です。ジルさんなら悪いようにはしないでしょう。


 あとは他の魔道具がどのような物か軽く調べるのと、私が頼んでいる研究中の魔術文字などを渡して貰えることになって、2時間ほど待つことになりました。

 外に買い物に出てもいいのですが、今日は疲れているのでギルドの裏庭のほうで待たせてもらいます。

 そちらは職員用の休憩所も兼ねているらしく、女性棟のほうなら自由に使って良いとジルさんから許可を貰いました。私が適当な場所に居るより問題が起きないそうです。


 前世だったら暇つぶしは携帯端末で本でも読むのですが、今はカバンから直接本を出してペラペラ捲る。どっちが便利なんでしょうね? 私は今のほうが性に合っている気がしますけど。

「……ふぁ…」

 ヤバいです。本格的に眠くなってきました。

 今の身体は疲労を感じていないのに、身体の奥に重い物が溜まっている感じ。これは拙いかもしれません。帰り途中で変身が解けたら面倒なことになります。

「…………」

 仕方ありませんね。一応、周りに他の人が居ないか確かめて“命令文(コマンド)”を呟く。


「……Setoff【Witch(ウィッチ) Dress(ドレス)】」


 ポンっ、と外れたウィッチドレスがカバンに収納されて、普段着のワンピースを着た五歳児の私に戻る。

「ふわぁあ……」

 元に戻ったら本格的に眠い。でもここで眠ったら拙いかな? そのまま休憩所から裏庭に出て、池の近くにある木の下で横になる。

 30分もお昼寝すればだいぶマシになるでしょう。オヤスミナサイ。


 …………………。

「――ねぇ。ねぇ、きみ」

「…………」

 肩を揺さぶられる感触に意識が少し目を開くと、幼い男の子が少しおどおどした顔で私を見つめていました。

「………だれ?」

「……おきた。ボクはマロ。……エルフだよね? 大丈夫?」

「………」

 その男の子、マロは、私と同じくらい――私は普通の五歳児より少し小さいから、マロは四歳くらいかな? こんな場所にいるなんて職員のお子さんでしょうか?

「ねてたけど、どこか痛いの?」

「ねむい」

「……そうなんだ」

 どうやら私を心配してくれたみたいです。普通に良い子? でも随分と気弱というか覇気が足りない気がします。

「ハーフエルフ、こわい?」

「え?」

 私が尋ねてみるとマロは少し驚いた顔をしてから、慌てて首を振る。

「ううん、こわくないよ。……はじめてエルフさん見たからこわかったけど、きみはこわくないよ」

「ん」

 良かった。最近、アリスとかフレアとか尋常じゃない子供ばかり見ていたので、普通の子供はホッとします。

「マロは何しているの?」

「ボク、おとうさまの用事すむまでここでまってるの。ボク、すこし身体よわいから」


 身体が弱いので裏庭で休んでいるように言われたみたい。だから私の身体も心配してくれたんだね。普通に良い子だ。

 でも、『おとうさま』って言ってたから、もしかして貴族か偉い人の子供? でもまだ亜人嫌いにはなっていない? だったら――


「マロ、あそぶ?」

「うんっ」

 暇をしていたみたいでマロははにかみながらも勢いよく頷く。この歳でこの反応なら将来亜人嫌いにならないように矯正出来そうです。とは言え、咄嗟に遊ぶと言ってみたけど、身体の弱そうなマロと何を遊べばいいのでしょう?

「池にコイいるよ。みる?」

「ん」

 マロが池のほうへ誘ってくれました。体力無いどうし良いかもしれません。

 二人して池のほうへ行ってみると、南国のお魚みたいな、緑やら青やらのカラフルなコイ?が泳いでいました。

「きょうはプレッツェル無いから、エサがないね」

「………プレッツェル好きなの?」

「えっと……アリスちゃん、今日はいなかったから……」

「知り合い?」

「……影から見てるだけ。……元気でカワイイよね、アリスちゃん」

「…………」

 さすがはヒロイン(仮)です。影から見てるだけと言いつつ、マロの顔が赤くなっているところを見ると、順当に誑かされているようです。

 この子とも少し距離を置いたほうがいいかしら……

「どうしたの?」

「ん、なんでも、」

「あっ」

 考え事をしていたせいか疲れのせいか、体勢を崩したところをマロが私を支えようとして――

 ドボンっ。

「「………」」

 二人して池に落ちてしまいました。


   *


「ひ、ひとりでできるよっ」

「ダメ」

 私の失態です。身体の弱い幼児を池に落としてしまいました。

 でも幸いなことに休憩所にはシャワー室完備です。服は魔法で乾かせると思うのでとりあえず一緒にお風呂に入ろうとしたら、マロが抵抗しました。

 4~5歳の男女差なんて誤差みたいなものです。見るのも見られるのも気にしませんよ?

「それなに?」

「こ、これはダメっ」

「……とらないよ」

 マロは水晶の板のようなものをはめたネックレスを両手で隠す。大事なもの?

 とりあえずマロの濡れた服をひんむいて、一緒にシャワーを浴びるとマロは真っ赤になっていました。

「ん?」

「な、なんでもない」

 マロが偶にネックレスの水晶を覗き込んでいる。もしかして虫眼鏡みたいな物なのでしょうか?

 お風呂から上がって服を乾かしている間もマロは何度も水晶を覗き込んでいました。


「ぼ、ボク、そろそろ、おとうさまのご用事終わるから、もう行くねっ」

「え、うん」

 やっぱり無理矢理お風呂に入れたのが良くなかったかな。ちょっとよそよそしい感じになっちゃいました。

 まぁ、今のキャロルとまた会う可能性なんてほぼ皆無なので気にしませんけど。

 でも、あのネックレスはなんだったんでしょうね。


   ***


「マローン坊ちゃまっ。こちらにおられたのですかっ」

「うん」

 執事らしき青年の声に、マロは少しだけ微笑んで応える。

「旦那様のお話はそろそろ終わりますからご準備を……坊ちゃま、またその魔道具を使っていたのですか? 何か変わったものでも有りましたか?」

 執事が何気なく尋ねると、マロの頬に赤みが差し、蕩けたような表情に変わる。

「……エルフっていいよね」

「……は?」

「肌が白くてすべすべで……」

「坊ちゃま……?」

「……なんでもない」

「まぁいいですが、亜人にあまり興味を持ってはいけませんよ。マローン様は、この国の筆頭宮廷魔導師である旦那様のご子息なんですから」

「……うん」


 屋敷に戻ったマロは自室にある隠し部屋に籠もると、ネックレスを外して専用の魔道具に取り付けた。

 その部屋の壁には、“隠し撮り”と思われる写真のようなものが大量に張られており、そのほとんどが無断で撮られた、アリスや綺麗な女の子の写真だった。

 そのネックレスは、他の大陸から買い取られた風景を精密に撮影することができる稀少な魔道具であり、亡くなった祖父よりこの隠し部屋と共に譲り受けた物だった。

 マロは魔道具から新たに印刷された大判の写真を取ると、部屋の壁にニヤけた笑みを浮かべながら何枚も貼り付けた。


「……エルフさん」




キャロルは迂闊さんです。見事にヤバい系のストーカーを釣り上げました。

夜中のテンションで書きましたが、後から読み返して我ながらドン引きです。見捨てないで下さい;


次回、ストーカーの恐怖

次は仕事の関係で、水曜更新予定です。


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― 新着の感想 ―
いや~、男性陣ヤバ過ぎでしょ。 これが成長してエスカレートしていたら、もうヤルしかないな。 乙女たち、ホントにこんなのを攻略してたの?
[一言] 作者自ら後書きにも書いてくれてるから、正直に言うけど、ストーリー自体は面白いが、乙女ゲーム()とは言え、男性陣がきもすぎてリアルでぞわぞわして鳥肌立つ手前で、そこそこの吐き気がする。まじで。…
[一言] ストーカー怖い
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