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27 聖者の鎧




 大変ですね。

 私が目を離している間に、魔族の村が人族の集団に襲われたそうです。

 何を他人事みたいに、と思われるかもしれませんけど、彼らと私とは仕事上だけのドライな関係です。しかも警戒だけされて、結局お礼も言われてませんから。

「……それで他の人は?」

「あ、あんた……」

 それでも目の前で危機に陥っているのを見過ごせるほど心が強い訳じゃありません。

放っておいて沢山死なれたら罪悪感が湧いちゃいます。


 生きていた数人に回復魔法を掛けながら、どんな状況か聞いてみると、森から突然、鎧を纏った人族に襲撃され、彼ら戦士を数人足止めに残して、他の村人は森の奥地のほうへ逃げ、人族はそれを追っていったそうです。

 ここ数日見かけていた人族は斥候だったのでしょうか? でも鎧って……最近の奴隷狩りってそんなに重装備なのですか? 毛皮を着た山賊みたいな人達をイメージしてました。儲かってますね。

 奴隷狩りの人達も気合いが入っているようです。

 それでは急いで追いましょう。これ以上被害を出すのは良くありません。

 何しろこの世界には、『蘇生の魔法』なんて無いのですから。


 VRMMOには死者蘇生の呪文がありました。そりゃ当然のようにありました。

 この世界にもそれに相当する呪文があるかどうか分かりませんが、既存の呪文を研究した結果、第六階級の回復魔法、【蘇生】――【Resur(リザレ)rection(クション)】の魔法がアンロックされています。

 ですが何度魔物で試しても、やはり死亡直後の心臓電気ショック以上の効果はありませんでした。

 VRMMOだと丸一日なら蘇生出来たのに……。

 魂の問題か生命力の問題か分かりませんが、生死を確かめるような状況ならOKで、あきらかに死んでいるような状況では効果は発揮しないのではないでしょうか。

 とりあえず魔族の人達を追っていった奴隷狩りの人族を追いましょう。

 彼らの為ではありません。私が罪悪感を感じるのが面倒なので、仕方なく、ですから勘違いをしてはいけません。


「【all(オール) Protection(プロテクション)】」


 自己防御の魔法を掛けて森へと向かう。

 本来だったら、体力や魔力の自動回復系や、速度上昇系も掛けているところですが、まだアンロックされていないのです。

 身体強化を使って教えてもらった方角へ向かうと、10分ほどで暗い色の外套を纏った四人組を見つけました。

 これが人族の奴隷狩り? 敵か味方か分からないので手っ取り早く物の音を立てるようにして近づくと、

「居たぞっ! 魔族だっ」

「生意気な魔族めっ」

 一人が声を上げ、二人が弓のような物を引き絞る。うん、敵確定です。


「【Ice(アイス) Stormストーム】」


「「ぎゃああっ!?」」

「「ぐあああっ」」

 第五階級範囲魔法アイスストームを撃ち放ち、そのままトドメも刺さずにすれ違って通り過ぎる。

 通常魔力での単発撃ちですが、低レベル人族相手なら充分です。運が良ければ生きているでしょう。

 そのまま奥へと進み、また途中で見つけた同じ外套の四人組をアイスストームで沈黙させる。【氷の嵐】は速度は遅いのですが、あまり大きな音が出ないのが良いですね。

「ん?」

 また数分森を進んでいるとまた同じ集団を見つけましたが、二人の若い魔族の女性を捕らえて槍を向けていました。


「【Ice(アイス) Lance(ランス)】」


「ぎゃあっ!」

「なんだっ!?」

「何か来るっ」

 開幕の【氷槍】で槍を向けていた一人を倒し、

「【Blackout(ブラックアウト)】」

「なっ!?」

 範囲を拡大した【暗幕】の魔法で視界を奪い、その隙に斬馬刀で殴って打ち倒す。

 やっぱり不可抗力ならともかく、相手が奴隷狩り程度で実力に差があると、命を奪うのは可哀想になりますね。

 まぁ、魔族とは言え、自分達の都合で他人を害するのだから覚悟はあるでしょう。


「大丈夫?」

「「は、はいっ」」

 私が声を掛けると、今の私より少し上くらいの女性二人は、気を付けをするように勢いよくお返事してくれました。

「他の人は?」

「む、向こうですっ。長老達が人族に追われていますっ」

「お願いですっ、お助け下さい、魔女様っ!」

「ん」

 頼まれました。とりあえず人違いではなかったので一安心です。

 彼女達には村の怪我をした人達を連れて避難するようにお願いして、私は村人達の後を追います。すると数分後、少し離れた場所から、金属がぶつかり合うような音が聞こえてきました。

「見つけました」

 その方向へ向かうと数十人の外套を纏った連中と、ハリーを含めた戦士達が女子供を守るように戦っていました。


「――何故、俺達を襲うっ!」

「お前ら魔族が、我ら崇高な人族の地に居るなど汚らわしいっ。お前らはここで死ぬが女どもは奴隷として使ってやるから安心しろっ」

「ふざけ――」


「【Acid(アシッド) Cloud(クラウド)】」


『ぐぎゃああああああああああああああああっ!?』

 開幕の【酸の雲】をかけて人族達の動きを止める。魔族を巻き込まないように手加減して、人族との間に割り込むようにしてアシッドクラウドから外れた連中に【火球】を叩き込む。

「ぐぉお!?」

「な、なんだっ」

「魔族の援軍かっ」

「くそっ、退けっ、一時撤退ッ!!」


 あれ? 簡単に退いちゃいましたね。人数が居るから結構面倒かと思っていたんですが、最近の奴隷狩りって随分と統率が良いようです。結構良さげな鎧を着てましたし。


「お、お前、魔女っ!」

「話は後で。まずは移動しましょう」

「あ、ああ、すまない。長老のところへ案内する」


 こうして襲撃者はあっさり退けることが出来ました。装備は良さそうでしたが何者だったんでしょうね?

 それにしても良く見ると結構な怪我人がいます。頭から血を流してぐったりしている子供や、腕を失った戦士さんも居ます。

 このままなら移動どころか、放っておいたら朝までに何人かお亡くなりになりそうな気がしましたので。

「長老さん、怪我人を集めて」

「魔女殿、それは…」

「いいから早く」

「わ、分かり申した」

 村人達を急かして怪我人を一カ所に集めると、私は残った魔力の消費計算しながら、ある【命令文(コマンド)】を口する。


「Setup【Saint(セイント) Cloche(クロシュ)】all」


 私の声に、真っ赤なウィッチドレスが純白のチャイナドレスに替わり、魔族の人達が私を凝視する。

 三つの課金装備、最後の一つ、聖者の鎧――セイントクロシュです。

 私はセイントクロシュ専用の長杖を両手で構えて、魔力を杖に込める。


「――【Extra(エクストラ) Heal(ヒール)】――」


 唯一アンロックされている第八階級魔法、エクストラヒールです。

 効果は絶大。死亡以外の全ての怪我と状態異常を完璧に回復させますが、大量のMPを消費するだけではなく、効果範囲が狭くて2メートル以内に怪我人がいないと治癒できず、しかも敵味方の判別もつかない、使いづらい魔法でした。

 このセイントクロシュとこの杖は、MP消費を抑え、呪文効果範囲を拡大する特化型で、回復と防御にしか性能を振っていません。

 魔法の光が広がり、怪我人全てを包むと魔族の人達が驚愕の声を上げる。

「――この子の意識が戻ったわっ」

「う、腕が戻ったっ!?」

「治ってるっ!」

「おおお、神よ……」

「魔女様……」

 良かったですね。私が表情筋を無理して少し微笑むと、魔族の人達からの目が変わったような気がしました。



 生き残った魔族達と合流して、村に戻るのは危険なのでこのまま元々の村があった場所まで半日掛けて移動することになりました。

 みんな体力も戻ったのか元気いっぱいです。

 村はオークと私に荒らされて、オークの死体だらけですが頑張って下さいね。

 村に到着すると、この前は良く見てませんでしたが、随分と年季の入った施設が多いですね。村と言うよりも街のような大きな建物がありますし。


「おや、魔女殿、どうなさいましたか?」

「あ、長老さん。ずいぶんと古い建物があるんだなと思って」

「そうですな……。元々ここは500年続いた魔族の交易街だったそうで、その建物がまだ残っておりますじゃ」

「…………え?」


 この魔の森って、百年くらい前の戦争で魔族が人族から奪った土地じゃないの?


   ***


 なにやら分からないことが増えました。もしかして私の知っている歴史は正しい歴史ではないのでしょうか?

 まぁそれは後で調べるとして、また厄介ごとが増えないといいのですが、厄介ごとと言えば私の騎士団の見学ですが、なんと中止になりました。

 なんでも演習に出ていた二個中隊の騎士達が、現地で恐ろしい敵に出会ってかなりの被害が出たらしいのです。大変ですね。

 何があったんでしょう? 王都の騎士団が被害を受けるのですから、私も注意することにしましょう。




騎士団が出会った敵ってなんでしょうねぇ(棒)

ちなみに中隊の演習に剣聖は参加していません。


次回、魔族の話からちょっと離れて魔術師ギルドの話。

次は日曜に更新したいと思っていますが、仕事の関係で遅れるかもしれません。


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VRMMORPGシリーズ
悪魔は 異界で 神となる 【人外進化】
― 新着の感想 ―
演習ついでに小遣い稼ぎだったんだろうか? 今回被害者になった彼らは、人間の街側に罠とかを仕掛けていなかったんだよな。 まあ、罠仕掛けて、オークに追われて自分達で引っ掛かったら目も当てられないけど。
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