26 オークキング
「な、なんだ、あのデカいオーク共はっ」
「………」
獣亜人系、ジェネラルとキング。
これは獣亜人系の拠点などを攻めると、奥地には必ず居るタイプのボスです。
オークの場合、ジェネラルはレベル35。オークジェネラルには二種類いて、戦士タイプは、HP500の物理防御180のランクDで、両手武器スキルあり。
魔術師タイプは、HP350の物理防御120のランクDで、個体によって攻撃魔法か回復魔法のどちらかを使用します。
そしてオークキングはレベル50。HP800の物理防御300のランクCで、身近なラスボスとして、プレイヤー達はそれを倒すことを目標としてきました。
……スキル50制限が解放されるまでは。
「【Ex Silent】」
『………ッ!?』
『ブモォオオオオオッ!!』
第三階級の【沈黙】の範囲バージョン、第六階級の【範囲沈黙】の魔法を受けた二体のジェネラルメイジ達が慌て、三体のジェネラルナイト達とオークキングが、警戒と怒りの叫びを上げる。
せっかく与えたダメージを回復されたら面倒ですからね。
「【all Protection】」
第三階級の防御を10%上げる【防壁】の上位版、物理耐性と魔法耐性を15%引き上げる第六階級の【聖結界】を自分に掛けます。
これによって私の物理防御が270→310でランクがCからC+。魔法耐性はギリギリランクが上がってランクCになりました。
『ブモォオ!!』
自己強化していると私に気付いたオークキングが斧を振り回すように叫びを上げた。
「【Acid Cloud】」
『『『ブモォオオオオオオオオオオオッ!?』』』
先制で放つ範囲魔法【酸の雲】を浴びて、耐えきれなかったジェネラルメイジの一体が崩れ落ちたところに、斬馬刀リジルを抜いて斬り込みます。
【酸の雲】は、ダメージだけでなく、敵の知覚を下げる効果と、徐々に物理防御を減らす効果があるのですが、ダメージでメイジを一体倒せたのはラッキーでした。
『ブモォオオオオオオ!!』
突っ込んでくる私にジェネラルナイトの一体が斧を叩きつけてきましたが、命中が下がっているので軽く躱して、まだ沈黙の効果があるもう一体のメイジに斬馬刀を深々と突き刺し、命を刈る。
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
配下を次々と倒され、怒りの咆吼をあげるオークキングが私に迫ってきますが、あなたの相手は最後です。
「【Fire Ball】」
目眩ましを兼ねて【火球】を私とキングの間で炸裂させる。
私の魔力で作った魔法は私を傷つけることはありません。ジェネラルナイト達も範囲に巻き込めましたが、さすがにHPが高いので一体も倒せませんでした。
ですが、魔法をレジストされる可能性があるメイジ系を全滅できたのは大きいです。回復されたりプロテクションを掛けられると、一気に削りきれませんからね。
「【Blade Cyclone】」
両手剣範囲系【戦技】ブレードサイクロンが、ジェネラルナイト達の残っていたHPを削り取る。
ズズズン…ッとジェネラルナイト達が崩れ落ち、最後に残ったオークキングが怒りに満ちた目で私を睨みながらも、警戒しながら斧を構え、私もリジルを両手に構えてジリジリと間合いを詰める。
ガキンッ!!
次の瞬間、リジルと戦斧がぶつかり火花を散らす。
『ブモォオッ!?』
体格で数倍も差がある私が斧を弾いたことでオークキングが驚愕に目を見開く。
どうやらパワーは互角のようですが、速度は私のほうに分があります。何度か刃をぶつかり合わせ、その度にオークキングを浅く斬り裂いていく。
やっぱりクリーンヒットしないと、大きなダメージにはなりませんね。オークキングの残りのHPは半分程度でしょうか。
あと数秒……。
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
オークキングが戦斧を独特の体勢で振りかぶる。
多分、両手斧の【戦技】、三倍撃の【ヒューリー】でしょうか。ダメージを受けているほど威力も増えるので、私の今の防御力でもまともに受ければ軽く半分以上削られてしまいます。
でも――
「私のほうが早かったですね」
左手で引き抜いたブレイクリボルバーを、斧を振り上げて無防備なオークキングの胴体に向ける。
「【Death Slug】」
ドォオオンッ!!
轟音を立ててオークキングの胴体に大穴を穿つ。
魔銃の【戦技】――デススラッグです。威力五倍撃。利点としては魔銃の特性として溜めを必要とせずに撃つことが出来ますが、難点として命中率がとんでもなく悪い。
VRMMOでは至近距離から撃っても外れることがありましたが、現実なら至近距離で撃てば当たるようです。
ブレイクリボルバーの基礎攻撃力が30+銅弾10で、補正込みで176。オークキングの防御力でも五倍撃なら380はダメージが通ったかと思います。
戦技のクールタイムがギリギリだったので、ちょっと腕が痛いです。
こんな感じで、スキル制限が100まで解放された高レベルプレイヤーなら、旧世代のボスキャラはソロで狩れる感じになっていました。
さすがにMPを結構消費しましたが、問題になる程ではありません。
左手に魔銃ブレイクリボルバー。右手に持った斬馬刀リジルを肩に担いで元の場所に戻ると、魔族の案内人ハリーが顎が外れそうなほど口を開いて、唖然とした顔で私を見つめていました。
「一つ目の依頼はこれでいいですか?」
「……お、おうっ」
私が声を掛けるとようやく正気に戻ったハリーが裏返った声で返事をくれる。
ポカンと開いた口に謎肉の串焼きでも突っ込んでやろうかと思いましたが、勿体ないので止めました。
そしてまた帰りはハリーを掴んで森の中を疾走。私一人なら【空間転移】で帰れるのですから、文句を言われることではありません。
三時間も掛からずにオークキングの首を取って戻ってきた私達に、魔族の村人達は歓声で応え――ることもなく何故か遠巻きにされる。ひどい。
その日はこれで終わりとして、お引っ越しはまた後日となりました。
魔族の人達の準備もありますし、私も半日家を空けるとなるとすぐには予定が組めません。でも、昼間にそんな時間取れるかな?
二日後、やっぱり無理そうなのでお引っ越しは夜にしてもらえないかと思い、魔族の村に転移すると、
「……え」
何人かの魔族が倒れて村が荒らされていました。
慌てて駆け寄ってみると、まだ息のある人が数人居たので、回復魔法を掛けながら事情を聞く。
「あ、あいつらが……人族の集団が攻めてきた」
次回、襲ってきた人族の正体。
次は金曜更新予定です。