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21 王都の冒険者ギルド

 夕方に予約するはずが、勢い余って普通に更新してしまいました。





 この世界に生まれ変わって5年。記憶の混濁から回復して2年経ちますが、今更ながら『攻略対象者』について記憶をほじくり返してみる。

 とは言っても、元々大したことを覚えている訳じゃありません。最初から記憶に関しては『出来るだけ元の自我を残す』程度だったので、前世の家族の名前すらも覚えていないのです。

 まぁ、そんなどうでも良い事はともかく、今大事なのは攻略対象の情報です。


 私がゲームで攻略した対象は5…6人? 一回しか攻略していませんが、効率よく進めた結果、見事に逆ハーレムエンドになりました。

 覚えているのは……まず、このケーニスタ王国の王太子。

 それから多分、うちのお兄様、ディルク。

 あと、騎士団長の子息……って、アベル? それとも他の兄弟?

 宰相の子息のインテリ眼鏡。

 宮廷魔導師の子息の虚弱体質。

 ああ、あと、大司教の孫であるショタもいましたっけ。

 説明が適当なのは名前も覚えていないからです。アベルも気付きませんでしたし、ここから10年経つ訳ですから、今出会っても気付かないかも。

 この他にも隠しキャラが居るはずです。一回しかクリアしていないので当然見たことありません。

 まぁ、普通に引き籠もり生活していれば魔術学園に入学する10歳まで出会うはずがないんですけど、すでに数人出会ってますね……。


 なし崩し的に騎士団の訓練を見学することになってしまいましたが、大丈夫なんですかね、これ。ポンポン痛いって言えば逃げられませんか?

 ……とりあえず面倒なことは後で考えるとして、気分転換にまだ顔を出していなかった冒険者ギルドに行ってみましょう。

 夕飯を食べてお風呂に入って今日はもう疲れたと言って、いつもより早めにお布団に入ると、気持ちよくてそのまま普通に寝そうになるけど、夜の街に出撃です。


「Setup【Witch(ウィッチ) Dress(ドレス)】」


 やっぱり普段はこれが一番動きやすいです。

 部分装備ではない、フルセットである課金装備は、このウィッチドレスを含めて三つありますけど、遠隔専用のアルジュナクロシュともう一つは、かなり尖った性能にしてあるので、普段使いには魔法を主体とした武器戦闘も行える汎用装備のウィッチドレスには及ばないのです。

 まだ夜になったばかりなので王都の街も明るいですね。

 王都では魔石をふんだんに使えるので、どのお店も煌々と魔道具照明の灯りに照らされています。

 でも、今まで気にしていませんでしたが、辺境では魔の森で魔物を狩って魔石を得ていましたけど、王都の冒険者はどこで魔石を得ているのでしょうか?

 VRMMOのゲームのほうでは、遺跡やオークやオーガなどの獣亜人の集落を襲っていましたけど、どうなってるんでしょ? あったとしても全滅させたらさすがに再ポップなんてしませんよね?

 ゲームではギルドの掲示板に周辺情報がありましたけど、この世界の冒険者ギルドってただの買い取り屋なので、情報は他の冒険者か、商業ギルドから買うことになるんですよ。


 街では相変わらずジロジロ見られます。亜人だからですか? それともこのヒラヒラした部分ですか? 商業ギルドが見えてきたので、そんな視線から逃れるように裏道に入ります。この国のどの街でも商業ギルドの裏側に冒険者ギルドがありますので、とても分かりやすいのです。

 裏路地に入ると途端に暗くなります。表通りは街灯があって、夕方になると魔術学院の生徒がアルバイトで街灯に魔力を注ぐ姿が良く見られるそうですが、裏路地にはそんな物はありません。

 お店も真っ当な商店やお食事処はなくなり、寂れた安い飲み屋や灯りもほとんど漏れない怪しい店が多くなります。

 そんな場所ですので――


「よぉよぉ、そこの派手な格好のねえちゃんっ、ちょっと酒代貸してくれねぇか?」


「…………」

 まぁ、良くありますよね。これもある意味良く見られる光景です。風物詩的な。

 こんな格好をしているハーフエルフなんて、傾奇者の冒険者しかいないと思うのですが、若くて華奢な女一人だと高確率で絡まれます。

「おい、聞いて、」

 ゴキンッ。

「ぐああああっ」

「あ、ごめんなさい」

 肩を掴まれそうになったので、つい腕を掴んで捻ったら良い音がしました。

 身体強化をしていなくても筋力200越えですからね……。反射的に動くとまだ力の加減が出来ません。って言うか、五歳のキャロルと違いすぎて、まったく力の調整が出来ないのです。

 すると仲間っぽい赤ら顔の二人組が駆け寄ってきて。

「このアマ、なにしやがるっ!?」

「おうおう、こりゃひでぇなっ、衛兵を呼ばれたくなかったら、治療費置いていって貰おうかっ」

 なるほど。彼がやられても隙を作らない二段構えなのです。

「つまりは、ここで口を封じたほうがいいと言うことですか?」

「「…………」」

 私が首を傾げながら魔銃を構えると、それが何か分からなくても武器だと分かったのか、男達が赤ら顔を青くして倒れた男を引きずっていきました。

 かなり端折りましたが、結局最後はこうなるので時間短縮です。絡まれた瞬間に膝を撃ち抜かなかっただけマシなのです。


 私が何事もなかったように歩き出すと、ごろつきっぽい人達が私から目を逸らすようにして道を空ける。……こうやって『魔女』の悪評が増えていくのですね。


 裏路地を歩いていると、いきなり倉庫のような建物が建っているので、そこが冒険者ギルドだとすぐ分かります。

 でも少し辺境領のギルドとは何か違いますね。なんと言いますか……『匂い』でしょうか。別にカッコイイ言葉を言おうとしたんじゃなくて、単純にお風呂に入っていないおっちゃん達の臭さがあまりなかったのです。

 中に入るとその理由が分かりました。

 そこに居た冒険者の半数以上……いえ、七割は派手な格好をした傾奇者ばっかりだったのです。しかも――


「おじさん、おいしくない保存食には飽きたでしょっ? この堅く焼いたプレッツェルはいかがですかっ」

「いや、持ってたらボロボロになるんじゃ……」

「だいじょうぶっ。いちりゅーの冒険者なら、平気だよっ。はい、二袋で小銀貨1枚」

「アリスちゃんは仕方ないなぁ」

「わーい、おじさん大好きっ。あっ、騎士のお兄さんっ、ハニーバタープレッツェル、5袋とっておいたよっ。ちょっと崩れちゃったけど美味しいよ、はい小銀貨3枚っ」

「五袋っ!? あ、いや、もちろん買うよ」

「まいどあり、お兄さん大好きっ」


「…………」

 デジャヴでしょうか? 幻聴でしょうか? 男性冒険者達が群がる中から、どこかで聞いたような声や名前が聞こえてきました。

 これはいけません、さっさと帰りましょう。と踵を返した瞬間。


「あっ、この前、意地悪した、エルフのおねーさんだっ」

 絡まれました。

「アリスちゃん、このハーフエルフが何かしたのかい?」

「うん、おじさんっ。私が親切(・・)で焼きたてのプレッツェルを持っていったら、燃やされてビックリしたのっ」

「なんだってっ」

 いまだに彼女の姿は見えませんが、大人達のわずかな隙間から私を見つけて絡んできたようです。

「あっ、貴様っ、最近何かやってるハーフエルフの女だなっ!」

「………」

 人垣の中からアリスと一緒に出てきた少年騎士が私を見て声を上げた。

 何故、冒険者ギルドに公爵家の騎士をしていたアベルがいるのでしょうか? どうして魔術師ギルド前で売っているプレッツェルを知っているのかと思ったら、ここでもアリスから買わされていたのですね。

 冒険者ギルドに入って数秒で針のムシロ状態です。

 アベルなんて今にも剣を抜きそうなほど私を睨んでいます。でもプレッツェルを五袋も抱えているので剣を抜けないようです。ぷっ。

「何がおかしいかっ!」

 思わず吹き出したらアベルが剣に手を掛けた。抜きますか? 抜いちゃいますか? ギルド内で抜刀したら私も……斬りますよ?


 私が静かに目を細めると、私の威圧を感じたのかギルド内が静まりかえる。

 その中でアベルが落としたプレッツェルの袋を、アリスがちょこちょこ動きながら回収して、こっそり売り場に戻していました。すげぇな、この子。


「お前の噂は知っているぞ、ハーフエルフの『魔女』っ。怪しげな呪術でワイバーンを退けたそうだが、その素材があるのなら渡して貰おうかっ!」

「カツアゲですか?」

「違うっ! ワイバーンが本当に出たなら父上が討伐するはずで、その素材で私の成人用の装備が作られるはずだったのに……」


 ああ、なるほど、だから私を目の敵にしているのですね。本当にどうしようもない理由でビックリしました。

 ゲームでの騎士団長の息子は、もう少し落ち着いた大人の印象でしたが、この人はまだ子供って感じですね。


「騎士として、アリスにしたことも許せないっ。貴様に決闘を申し込むっ! 私が勝ったらワイバーンの素材を渡して貰おうっ」

「カツアゲですか?」

「違うっ! 行くぞっ」


 何が違うのでしょうね? 因縁付けて喧嘩ふっかけて、持ち物を奪おうとしているようにしか見えませんが、この国では合法なのでしょうか?

 冒険者が剣を抜いたら止めに来る警備員も何故か止めにきませんね。少し困った顔をしているので、この国では“貴族”が“亜人”にするのなら合法なのかもしれません。

 腰から豪華な装飾がついた片手剣を抜き放って襲いかかってくるアベル。

 私が戦う意志を持ったことで勝手に発動した身体強化が、彼の動きをとてもゆっくりに見せてくれたので慌てずに対処する。


「Set【Ridill(リジル)】」


 ガキンッ!

「なっ! 何だその剣はっ!?」

 受け止めた鍔競り合いのような状態でアベルが叫ぶ。

 斬馬刀リジル。刃渡り120センチ全長180センチの太刀に比べると、アベルが持つ剣はオモチャに見えますね。見かけは豪華ですが、確か騎士の片手剣って戦場だと予備武器扱いだから、大した武器ではなさそうです。

 アベル自身はそれなりにスキルがあるのか、スキルと魔力が結びついて筋力は高そうですが。

 ギギギ……ッ。

「なんだとっ!?」

 鍔競り合いの状態から、リジルがアベルが持つ剣の刀身を斬り裂いていく。

「ぐあっ」

 斬り飛ばされた刀身に周囲から悲鳴が上がり、尻餅をついたアベルは信じられないものでも見るように私を見上げていた。

「き、貴様……」

「良い武器なら私が商業ギルドに卸していますよ。それを買ったらどうですか?」


 とりあえずアベルは無視して刀身を斬り飛ばしてしまった所へ向かうと、そこには床に突き刺さった刀身と、転んで膝から血を流しているアリスがいました。

 またキラキラしたモノが見えているので、精霊が彼女を守ったのでしょうか?


「はい」

「……え」

 回復魔法を使うような傷ではありませんが、私も鬼ではありません。カバンから絹のハンカチを取り出して彼女に差し出すと、アリスは不思議そうにしながらも受け取ってくれました。

 でも、血は出ていましたけど、アリスが手で拭っただけで傷は消えていました。もしかしたら精霊がもう治療していたのかもしれません。チートです。

 彼女は傷が治っていたことで受け取ったハンカチをどうするか、少し慌てたように周りを見回して、突然、絹のハンカチで自分の汚れた靴を磨き、やりきった満面の笑顔で泥だらけのハンカチを私に差し出した。

「おねーさん、ありがとーっ」


「【Fire(ファイア) Arrow(アロー)】」


 とりあえず彼女の手の物を燃やしておきました。


   *


 何故かまた周りからの睨むような視線が増えましたね。

 その向こうではアベルとアリスが――

『くそっ、武器の差だっ。何だあの武器はっ』

『お兄ちゃん元気出してっ。ほら、無くしちゃったプレッツェル5ふくろ、また売ってあげるから大丈夫だよっ』

 ――と、そんな会話も聞こえてきましたが、アリスは逞しいですね。


 そんな中で、

「ああ、やっぱりあの時の魔女だっ。あんた何やってんのよっ」

 聞こえたそんな声に振り返ると、どこかで見たような盗賊っぽい格好の猫獣人の女性がいました。

 ……誰でしたっけ?




 アリスもフレアに負けていません。


 次回、王都の冒険者の実情。猫獣人誰でしたっけ?

 次は火曜更新予定です。


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