02 同人乙女ゲーム
本日二話目です。
「どうしましょうか」
お爺ちゃん、ちょっとボケてましたか? 実は結構動揺していますが、顔にも声にも感情が出てないので説得力皆無です。
もしかして偶然にも同じ名前という可能性もありますが、この貴族っぽい家と貴族っぽい服装と、そのキャラと同じ黒髪なので偶然とは思えません。
そう言えば裕福そうなのに、まだ三歳の私が放置気味なのは、私が『嫌われ令嬢』だったせいなんですね。
ついでに今世のパパンとママンもほとんどお顔を見ておりません。
中学の頃、少しだけ遊んだ……えっと、恋の何とかかんとかと言う乙女ゲームです。
題名も覚えていないので、細かいゲーム内容もほとんど覚えていませんね。
そんなゲームでどうして私が“悪役令嬢”の名前を覚えていたのかと言いますと、当時の私が『悪役フェチ』だったからです。何という中二病。
うろ覚えですが、確かストーリーはこんな感じでした。
元気で健気でみんなに愛されるカワイイ主人公が、『精霊の愛し子』であることが判明して、10歳から貴族が通う魔術学園に入学する。
そして、あれやこれやして、5人…6人? そんな感じの攻略対象を墜として、ついでに悪の帝王も倒して幸せになりました的な、どうでもいい内容でした。
何しろ、元が“同人ゲーム”で、ゲーム制作者がコメントで『神が降りてきた』とか、かなり電波な事を言っていましたから、中身はお察しです。
それでも私がこのゲームを購入したのは、安かった(500円)ことと、作者の執念が滲み出るようなスチル絵と、ヒロインが天然ビッチだったのと――
……もしかして私、このゲームを結構気に入っていましたか? 初回しかクリアしていませんが。
それと、【悪役令嬢】が、かなりアレな感じだったからです。アレです。
その乙女ゲームには、二人の悪役令嬢が存在していました。
通称、【銀の薔薇】と【黒の百合】――。キテます。
一人目は、【銀の薔薇】フレア・マーキュリー・プラータ公爵令嬢。
うねるような銀髪と燃えるように輝く碧眼。お乳どーん、の弩級美人さんですが、彼女は非道なことも平気でやる。喜んでやる。
退かぬ媚びぬ顧みぬ。王子をたらし込む健気なヒロインに、その王子の目の前で堂々と毒を盛り、それの何がいけないのかと高らかに笑う、ステキな女の子です。
二人目は、【黒の百合】キャロル・ニーム・アルセイデス辺境伯令嬢。
ヒロインの『愛し子』とは反対に『忌み子』と呼ばれる『嫌われ令嬢』です。
黒髪金眼の魔女のような風貌で、氷の美貌で男を惑わし、周囲に呪いを掛けて不幸にしながら最終的には魔族の側につく、ちょっと内気な裏ボス系女子です。
どう贔屓目に見ても悪者です。早い段階での処分を検討したほうが良いでしょう。
ですが、ご安心ください。悪役令嬢には、幼い頃からなんで生きているのか不思議なくらい“死亡フラグ”が満載なので、成長する前に駆除されますから。
……どうしてこうなりましたか?
その【黒の百合】キャロルこそが、この私と言う訳ですが、そう言えばこの世界の魔法や戦術は、あのMMORPGと良く似ていて『名前を変えただけのパクリ乙』とか、某掲示板で話題になっていましたね。
……だから間違えましたか? お爺ちゃん。
私が【黒の百合】だとして、やはり一番の問題は、先ほど言ったように死亡フラグが満漢全席のように盛り沢山な点にあります。
私が一回だけクリアした時は、フレアが斬首台で、キャロルが火炙りでした。しかも拷問の後、市中引き回しの上、民衆に石を投げられてからのフルコースです。
このゲームでは悪役令嬢が極寒の修道院送りとか、着の身着のままで国外追放とか、そんな優しい結末はまずありません。
確か、一番苦しまない死に方で、返り討ちの滅多刺しだったかと。
斬首台で上を向かされて、最後の最後まで高笑いを上げていたフレアは本当にステキでした。
それでも一人に一つだけ、死亡をギリギリ回避するルートがありました。
一応、悪役フェチとしては攻略サイト(ゲーム制作者本人作)を調べたのです。
フレアの場合は、王子とヒロインを同時に殺害し、王位簒奪に成功すれば、その後に他の攻略対象から王位を追われ、生涯軟禁されますが生き残れます。ただしその場合はキャロルもヒロイン達を殺すその過程でついでに殺されます。
キャロルの場合は、ハーレム形成後にヒロインが隠しキャラと純愛して、他を振り切って国外に駆け落ちすることが出来れば、それを邪魔しようとしたフレアは隠しキャラに殺されますが、その駆け落ちを手引きしたキャロルはヤンデレ化した攻略対象に一生ペットとして飼われます。
「………」
無理ゲー……。そもそも誰ですか? その“隠しキャラ”って。
そもそも“逆ハーレム”形成後に“純愛ルート”って意味が分かりません。
何かもう逃げるしかないですか? “忌み子”の嫌われ令嬢で誰にも頼れない状況で、どうやって? これって詰んでます?
落ち着け。顔には出てないけど、まぁ落ち着け。手の平のじっとりとした汗を服で拭いながら打開策を考える。
確かお爺ちゃんは、“ゲームの情熱”を魂の力として、その世界に合わせて身体を強化してくれる、と言う話でしたが、この状況でそれが有効なのでしょうか?
私はてくてくと歩いて天蓋付きのベッドに手を掛けて、渾身の力で持ち上げる。
「……ふんぬー」
まだ慌てる時間じゃない。ベッドがビクともしなくても三歳児なら当然です。
次に目を付けたのは、いかにも“お下がり”風な、木彫りの馬です。小さな子供が跨がって遊ぶアレです。これって男の子のオモチャですよね? 持ち上げてみると今度は持ち上がりました。
「………ハァ、ハァ」
やりました。持って三歩も歩けました。三歳なら仕方がないです。これだけで息が切れていますが落ち着きましょう。
お爺ちゃん、話が違いますよっ。
落ち着きました。
身体能力は、成長した時の奇跡を期待します。
やはり手っ取り早いのはヒロインの暗殺でしょうか? ですが現時点でヒロインは誰か分かりません。10歳になるまで“平民”としか分からないのです。
その後の暗殺は……危険ですね。さすがに何もしてない一般人をキルするほど非道ではありませんよ。……思考がすでに悪役令嬢になってますか?
最悪でも、主人公には隠しキャラの純愛ルートに進んで欲しいのですが、このゲームが厄介なのは、一番簡単なのが『逆ハーレムルート』と言う点です。
主人公が天然ビッチ過ぎて、逆にバッドエンドや純愛路線が高難易度になっている、とんでもゲーなのです。
ちなみに先ほどの処刑フルコースが、その逆ハーレムルートでした。
「……はぁ~」
思わず溜息も出ます。これで悪役令嬢が勘違いだったら良いのですが、現状証拠だけでもそんな甘い期待を許してくれません。
黒髪だけでなく『忌み子』である証拠もあるのです。
私はお部屋をてくてく歩いて姿見の前まで移動する。鏡に映った私はまだ三歳ですけど、かなりの美幼女と言ってもいいのではないでしょうか。
金色のぱっちりお目々にツヤツヤの黒髪。
透き通るような白い肌に健康そうなほんのりと桃色ほっぺ。
顔立ちは前世の“私”の面影があるけど、そのパーツ一つ一つが整っていて絶妙のバランスで配置されています。
正に前世の、理想的な自分の姿ですね。
そして『忌み子』の証である特徴的なぴょこんと伸びた長いお耳。自分でも言うのも何ですが、妖精と言われてもしっくりします。
でも、何か――違和感? いえ、既視感でしょうか。
前世と似ているのだから見覚えはあるのでしょうが、それとはまた違う感じで不思議な既視感が――――
あ~~~、なるほど。
「この顔って……VRMMORPGの、プレイヤーキャラクターと同じ顔です」
次回は明日からの更新になります。
この物語のゲームシステムは、複数の某有名ゲームを参考にしております。
次回、VRMMOプレイヤーの力とは?
宜しければご感想とブックマークをお願いいたします。