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17 ある意味で運命の出会い




 とりあえず特に私を嫌っている人達をいぶり出してみましょう。


「マイア、砂あった?」

「……え、あ、はい。河とか泉とかにあるサラサラした奴ですよね? 庭師のトムさんが知ってたので、一袋用意してもらいましたけど、見ますか?」

「ん」

 こちらに来てからマイアに砂を集めて貰えるようにお願いしました。何に使うのかというと錬金術で使用するのです。

 見せて貰った砂は多少不純物はあったけど普通っぽい砂でした。これなら多分大丈夫かな?

「お嬢様?」

「おクスリ作ります」


 私は温室に残っていた幾つかの葉っぱに自分の魔力を注いで変質化させていました。商業ギルドで聞いたところ、ゲームで使っていたような薬草類は、魔物が発生するような魔素の強い土地で変質化した物なんだそうです。

 だったら、私の無駄に余っている魔力は使えないですか? ここ数日試してみたところ、普通のハーブ類が若干変質したように感じます。

 これくらいなら色々な用途に使えた【薬草A】の代わりに使えるかも。今回はローズヒップっぽい物があったので、それを使いましょう。


 まずは古びた普通の錬金設備に魔力を流しながら「【synthesis(シンサシス)】」と唱えると、錬金設備が輝きだして“錬金合成”が出来るようになります。

 そこに生活魔術で容器に水を注ぎ、砂とローズヒップを魔石で合成すると、あら不思議、硝子瓶に入った『化粧水A』の出来上がりです。

 あの砂はこの硝子容器に使われます。やっぱり不純物が多かったのか、透明度も良くないし多少歪ですが、及第点ではないでしょうか。


「……お、お、お嬢様っ!? 何ですか、今のはっ!?」

「錬金術です。本で読みました」

「そ、そうなのですか?」

 そうなのです。

「これはお肌をぷるぷるにして若さを保つ『化粧水』です。30本あるので、半分は街の商業ギルドで売れるかどうか聞いて下さい。もう半分はあなた達や仲の良い人に配って…」

「本当ですかっ!」

 そこまで言ったところで、何故かその場に居なかったメイヤが現れて、化粧水をまじまじと見つめる。

「……試してみても宜しいですか?」

「ん」

 私が頷くとメイヤは瓶の蓋を開けて香りを嗅ぎ、腕に垂らした化粧水を伸ばしてその効果に目を見張りました。


 これはVRMMOではプレイヤーは使わないのですが、ゲーム内の錬金ギルドに加入する時に必要なクエストで作る物です。

 ギルド長が五十代のおば様で、加入時、スキル30、50、70、100のギルドランクを上げる時に製作を依頼されます。ちなみ全部、美容品です。

 プレイヤーは使っても何もありませんでしたけど、さすがはゲームの力で作った不思議化粧水。前世の化粧水より効果があるみたいです。


「キャロルお嬢様。こちらは私が責任を持って全て(・・)預からせていただきます」

「売って。配って」

「…………かしこまりました」

 いってらっしゃい。無くなったらまた作りますよ。

 商業ギルドでちゃんと評価されるのなら、こちらは冒険者ではない辺境伯令嬢の稼ぎとしましょう。さすがに12歳の寝ているマイアの枕元に忍び寄ってお金を置くのは、少々危なくなってきましたからね。絵面的に。

「疲れました」

「お嬢様は、今日は色々なされましたからね」

「沢山喋ったから」

「……そうですね」


 翌日、メイヤから商業ギルドで試した結果、1本当たり銀貨1枚で買い取ってくれることになったそうです。化粧水としては破格ですよね? この世界の美容商品はまだ良い物が少ないのかもしれません。

「そのお金で食材買って」

「でも……かしこまりました」

 私の無表情から何を読み取ったのか、メイヤは深く頭を下げる。

「それと残りの化粧水ですが、良くしてくれた7人に昨日一本ずつ渡してあります」

「ん」

 餌は撒きました。後はどういう反応を見せてくれるでしょうか。

 本当は食材のほうも使用人のほうも、ディルクに頼めば何とかなりそうな気もしますけど、私がアレに頼むのが嫌なので仕方ありません。

 他力本願は嫌いです。ぶっ叩くなら自分の拳に限ります。

 その夕方、早速反応がありました。


「あの、キャロルお嬢様。あの化粧水ですが、三名ほどもっと貰えないかと言ってきましたが、どうなされますか?」

「ダメ」

「……かしこまりました」

 あの瓶の量で、数日で消費するはずがありません。効果を知った貰えなかった人達が欲しがったのでしょう。

「次は、言わなかった四人に、このクリームを渡して」

「こ、これは……」

 錬金スキル30の課題で作った、美肌モチモチクリームです。

「半分は売って」

「か、かしこまりました」


 次の日から屋敷内で私の悪口が囁かれるようになりました。

 メイヤもマイアも何も言いませんが、無駄に性能の良い私の耳には聞こえるのです。忌み子とか亜人とか、貶す言葉も色々ですが、要約すると『ケチ』ですかね。

 化粧水の追加を求めてきた三人も、私に直接謝ってきたので、モチモチクリームを差し上げました。

 貰った女性と貰えなかった女性とで、お肌の艶が違うので一目瞭然です。

 そうしていると、貰えなかった女性達に焦りの色が浮かんできました。悪口にもキレが無くなっていますよ? どうしましたか? 大変ですね。

 商業ギルド直営店なら売ってますよ。卸値の数倍で現在入荷待ちですけど。

 それと、あの三十代の上級侍女が、平民のメイドからクリームを奪おうとしていたので、また【混乱】を掛けたら、今度は十代の男の子を襲っていました。情熱的です。


 ……あれ? いつの間にか楽しくなっていましたけど、やりたいことは違います。

 案の定というか、商業ギルドから情報が漏れたのか、誰かが情報を流したのか、私が美容品を売っていることに目を付けた連中が、敷地内に手の者を忍ばせてきました。

 意外と早かったですね。ここは一応、辺境伯の別邸です。誰かの手引きがないと入り込めません。

 私を嫌っている“誰か”さん、見ていますか?


「【Enperial(エンペリアル)】」


 光の柱が中庭に落ちて、余波(・・)で数人の人影が蒸発する。……消えちゃった。中庭に大きなクレーターが出来ました。きっと原因不明の事故なのです。

 少々騒ぎにはなりましたが、次の日から数人の上級使用人がおどおどし始めて、あからさまな嫌がらせは無くなりました。なんでも『忌み子の呪い』だそうですよ。



 まぁ、少々予定は違いましたけど、良しとしましょう。

 魔法がちゃんと使えればもっと穏便な手段もとれましたが、まだまだアンロックされていない魔法は多いのです。

 私がお金に糸目をつけず、魔導書の覚書を辺境領の商業ギルドに集めさせた結果、そのほとんどは落書きでしたが、中にはちゃんとした物もありました。


 手に入れていた中級魔導書ですが、第三階級の呪文までしか載っていませんでした。

 それで中級ってなんですか? しょぼいです。またしょっぱいプリンです。

 聞くところによると、上級でも第五階級の呪文までしか載っていないそうで、それ以上は王都の宮廷魔導師が第六階級の呪文を取得している噂があるとかないとか。

 まさか、本当に人間の成長限界がスキル50なんですか? 確かに私達VRMMOのプレイヤーも幾つかの『神の試練』クエストをこなして、スキルを100まで解放しましたけど……。


 でもまぁ油断は出来ませんね。スキル制限解放している人も居るかも知れませんし、レベル50程度のプレイヤーでも100人も居たら、全盛期の私も負けちゃいます。

 辺境領だけがへぼい可能性もあるのです。だって、国を守る騎士さんがレベル10の魔狼と互角程度の強さしかないなんて信じられませんよね。


 そんな訳で一つでも多くの呪文の文字を見つけて、アンロック出来る魔法を増やしたのです。現在は買い求めた覚書のおかげで高位呪文の幾つかがアンロックされていますがまだ足りません。

 上級魔法も光と闇は買えましたけど、それ以上は王都で注文してくれと言われていたので、お昼寝したことにして、ウィッチドレスにお着替えして昼間の街に出発です。

 ――と、その前に。


「Set【Marking(マーキング)】」


 ゲームでは死んだらこの“印”をつけた場所で復活出来ます。でもゲームではない現実のこの世界ではたぶん復活は出来ないでしょう。

 アンロック出来た高位呪文の中に第六階級光魔法【Resur(リザレ)rection(クション)】――死者蘇生の呪文がありました。ありましたけど……これ、この世界だと蘇生は出来ないんです。

 おそらく瀕死、もしくは仮死状態でないと効力は発揮しません。倒したモンスターで試しましたが、死んで10分までなら蘇生出来ましたが、30分も経つと蘇生出来ませんでした。

 多分ですが、地球医療の電気ショックで心臓が動き出すくらいの感覚でしか使えないのではないでしょうか。

 だから復活は無理ですが、だったらどうして印なんか付けたかと言いますと、解放された呪文の中に、【Warp(ワープ)】――空間転移の魔法があったのです。

 ただし、自由に転移は出来ず、このマーキングした地点に跳んじゃいます。今の私のレベルだとマーキングは五カ所付けられますけど、この王都の自室と、あの辺境領の屋敷の隠し部屋、それと王都の城壁の影の計三カ所です。

 だってそれ以上付けても、咄嗟に跳ぶ時に迷うんですよ。危険です。


「【Warp(ワープ)】」


 ワープは第六階級の闇魔法です。この世界の光と闇の第五階級までアンロックしたことで光と闇はそれなりに解除出来ました。何しろたった一つですが、第八階級の光魔法もアンロック出来ているのです。

 私の身体が闇に包まれ、頭の中に浮かんだ地点を選ぶと、目の前に見える景色が一瞬で切り変わる。

 やっぱりそれなりに魔力を消費しますね。ギリギリで逃亡に使うとMPが足りないとかゲーム時代も良くありましたから気をつけましょう。

「さて」

 どちらに行きましょうか? 上級の呪文書を買うのなら、商業ギルドか魔術師ギルドです。

 属性ごとに分けているのに一冊大金貨1枚もしますからね。商業ギルドで買うと経費で小金貨2枚上乗せになるのできついのですが、魔術師ギルドは身分提示をしないと売って貰えないそうなので、冒険者の魔女じゃダメですよね?

 でもでも魔術ギルドなら、研究中で意味の分かっていない文字とか沢山あるかもしれません。

「魔術師ギルドに行きましょう」


 実力があれば見せてくれるかもしれません。ダメなら素直に他に行きます。

 真っ赤な魔女のドレスで昼間の街を歩くとやっぱり人目を集めますね。格好的には辺境領よりも大らかですが、亜人的には否定的な視線は多いかもしれません。

 途中で目に付いた屋台にも寄ってみます。

「おじさん。その串焼き10本ください」

「……まいど。ハーフエルフなのに肉が食えるのか?」

 ブツブツ言いながらおじさんが焼き上がって冷たくなっている串焼きに手を伸ばす。

「そっちの今焼いてるの10本」

「はぁ? 味は変わらねぇよ」

「だったら、焼きたて10本。味は変わらないんでしょ?」

「……ちっ」

 おじさんは通行人から意味ありげな視線を向けられて、舌打ちをしながら焼きたてを包んでくれました。

 こうして見てみると、亜人に否定的なのは2~3割程度ですか。次は他の店で買いましょう。

 この謎肉の串焼きは私が食べる訳ではありません。いつマイア達を連れて逃亡しても良いように、すぐに食べられる物を99個ずつ買い集めています。個数の意味はありません。

 そんな事をしながら歩いていると、親切なほうの謎肉屋台で聞いた、魔術師ギルドが見えてきました。


「……ん?」

 何だか、ギルドの外に屋台があって、そこではお婆さんがプレッツェルを売っていましたが、やたらと混んでいます。

 そんなに美味しいのなら私も買おうかと思って近づいてみると。


「おじさん、まいどありがとうございまちたっ」


 五歳くらいのやけに可愛い金髪の女の子が、キラキラとしたあざとい笑顔と仕草で男性に接客していました。女から見るとあざといですが、非常に効果的で見習いたいくらいです。

 でもわざとじゃなくて天然でこなしているようですが、この子……でも、どこかでこんなシチュエーションを見たことあるような気がします。


 いやいやまさか……『ヒロイン』じゃないですよね?




 ついに最強のヒロインに出会ってしまうのか。


次回、魔術師ギルドと謎の少女。 次は月曜更新予定です。

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