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11 傾奇者冒険者




「お母さんっ、また枕元にお金があったのっ」

「まあっ」

 早朝、寝間着姿のまま現れたマイアに母のメイヤは目を丸くする。母として辺境伯家に仕えるメイドとして、はしたない娘を叱ろうかと思ったが、今はそれよりも確認しなければいけないことがあった。

「また置いてあったの?」

「うんっ、ほら見てっ」

 マイアは指でつまんだ小金貨を誇らしげに母に見せる。

 先週から数日置きにマイアの枕元にお金が置かれるようになって、今回が三度目になる。前の二回は銀貨が数枚程度だったが、今回は小金貨になっていた。

 小金貨は大金ではないが少ない額でもない。実際、10歳の見習いメイドであるマイアの月のお給料より多いのだ。

「きっと、精霊様がお嬢様の為に下さったのよっ」

「精霊様がねぇ……。でも、ご先祖様がキャロル様の為にって考えると素敵ね」


 今の貴族はアレだが、この屋敷に隠居していた先々代は、獣人でも普通に屋敷で雇っていた。だが、ケーニスタの王族が彼に嫁いだことで亜人の使用人はいなくなり、早々に隠居した彼が早死にしたのは、その夫人が手を下したと言う噂もある。

 亜人達からも信頼されていた領主様だったので、キャロルにあの銀貨を残したようにハーフエルフの彼女をあの世から不憫に思ったのだろう。――とそう思考放棄ぎみに解釈することにした。


「先々代様、キャロルお嬢様は私達がきっと守ってみせますから、見守り下さい」

「精霊様、ありがとうっ!」


   ***


「やあ、君が噂の『薔薇の魔女』だね。少し僕らの話を聞いてくれるかな?」

「嫌です」


 ナンパっぽい金髪銀ピカ鎧のど派手なお兄さんのお誘いを速攻でお断りした私は、その横をすり抜けて買い取り窓口へ向かう。

「トーマスさん、葉っぱ取ってきました」

「おお、ケセラ草ですね。最近納品が少ないので高く買い取りますよ」

「薬草Cじゃないんだ」

「……そんな単純な名前ではないですが、どこに生えてました? 近くの群生地には最近、魔狼が――」


「ちょ、ちょっと待って、君っ」

 受付のおじ――お兄さんと商談していると、あの銀ピカ金髪お兄さんが割り込むようにまた声を掛けてきました。

 ナンパは困りますね。こう見えて私、前世も黒髪ロングの無口系でしたから、ストーカーの類は途切れたことがありませんでしたが、だからといって対処に慣れている訳では無いのです。

「とりあえず話を聞いてくれないかなっ? 君にとっても悪い話じゃないと思うよ」

「知らない人についていったらダメって言われています」

 学校の先生がそう言っていました。私は特に何度も念を押されました。

「そんな長い話じゃないからっ。ほら、そこのテーブルに仲間がいるし、すぐに済むから、ね?」

 チラリとそのテーブルを見ると、戦士っぽい人族男性と、魔術師っぽい人族女性と、盗賊っぽいネコ獣人の女の子が居ました。

 獣人の女の子はパッと見、ケモ耳で可愛いのですが、とても毛深いのが特徴です。

 冒険者ギルドで女性は珍しいですね。女の子が居たことで安心したのも確かですが、私も初めて見る女性冒険者に興味がありました。

「……少しだけなら」

「そうかっ、良かった。じゃあ仲間を紹介するよ」


 私はとりあえず残りのケセラ草を渡して査定して貰っている間に、ホッとしたような銀ピカ兄さんの後に続いてそのテーブルに向かう。

 私が歩くと夜中なのに最近多くなった若い冒険者達が、体勢を低くして私を目で追っているのはいつものことです。


「じゃあ紹介するよ。こっちのごつい戦士がケニス。綺麗な女性が魔術師のマリーで、この子がレンジャーのヘルガだよ」

「よろしく」

「よろしくねぇ、マリーよ」

「…………」

 何故か獣人の女の子が睨んできます。あと、この世界では盗賊ではなくてレンジャーでしたね。VRMMORPGではみんな『シーフ技能』とか言ってたので、それが普通になってました。

「そして僕が自由騎士のジミー。で、こちらが『薔薇の魔女』さん。お名前は?」

 自由騎士……自称騎士ってことですね。それはいいのですが……

「……ところでその『薔薇の魔女』ってなんですか?」

 VRMMORPG時代の“痛い”二つ名である『薔薇絹(ビロード)の魔女』を思い出すので、やめて下さい。

「みんな、そう呼んでいるけど?」

「みんな……?」

 私が辺りを見回すと、何人かがあからさまに顔を背ける。顔は覚えました。


 ダンッ!

「私は反対だよっ! 今まで私らだけでどうにかなってただろっ」

 テーブルを叩くようにして立ち上がったネコ獣人のヘルガが突然大声を出した。

「どういう事ですか?」

「ヘルガ、落ち着いて。あのね魔女さん、僕達は君をパーティメンバーに誘いたかったんだけど、」

「大人しそうな顔して、そんな男を誘うようなヒラヒラした格好している奴なんて、どうせまともな奴じゃないよっ」

「あなたには言われたくありません」

 ヘルガは十代後半くらいでしょうか。速度重視なのかやたらと軽装で、ホットパンツから(毛深い)生腿出しているあなたのほうがよほど破廉恥でしょう?

「なんだと、このっ」

「まあまあ、ヘルガも落ち着いて」

 いきり立つヘルガを、二十代半ばの女性、マリーが宥めながら私に目を向ける。

「この子がごめんなさいねぇ? 私達、あなたが回復魔法を使えるって聴いて、次の仕事を手伝って貰おうと思ったの。私って二属性(ダブル)だけど土と火しか使えないのよね。でも……ハーフエルフでも、そんな『絵本の魔女』みたいな格好して本当にちゃんと(・・・)魔術を使えるのかしらぁ?」

 マリーは私の格好をジロジロ見ながら、試すような視線を向ける。

 そんな彼女の格好も全身魔女っぽい黒いローブだったけど、胸元を不自然なほど大きく開けて谷間を見せつけている。

 受付のお兄さんが言ってた傾奇者(かぶきもの)って、こんな人ばっかですか? 銀ピカ鎧のジミーと寡黙なケニスは、こんな仲間に何もフォローしてきません。


「ジミーさん」

「こんな感じなんだけど、気はいい連中だよ。どうだい? 次の冒険にお試しで、」

「絶対にお断りです」

「ええっ! 実力に自信がないのかい? じゃあちょっと試験して、ある程度の実力があれば緊張しなくても平気だよ?」

「そうよっ、そいつ、武器も杖も持ってないじゃないっ! 魔術だってインチキよっ」

「もう、ヘルガったら困った子ね。魔女さん? 何なら私が『試験』をしてあげてもいいのよ? ふふ」


「あ、忘れてました」

 どこかの宇宙人と交信している人達を無視して、私はトーマスさんの受付まで戻る。

「お嬢さん……あの人達は、結構実力のある…」

「群生地にいた魔狼でしたか? ついでに狩ってきたので査定お願いします」


 私はカバンから、斬り落とした魔狼の頭をカウンターに乗せていく。

 あ、そうそう、私がカバンだと思っていたのは『カバン』ではありませんでした。

 100個しかアイテムが入らないカバンは装備やアイテムでパンパンのはずなのに、なんで他にも色々と物が入るんだろうと思っていたら、個人携帯用『カバン』ではなくて、なんと“拠点”の『収納』だったのです。

 まぁカバンって呼びますけど、その中には全拠点の全アイテムが入っていました。

 どうりで色々と持っていたはずです。銃弾を全部持っていた時点で気付けよ、って感じですね。

 でも、ゲームだとアイテム一覧が出てきましたけど、現実だとそんなのありません。思い出せた物しか取り出せないのはめんどいです。

 どんどんどんどんどん……と頭だけで50センチもある角付き狼の頭を並べていくと、五個あたりで載せきれなくなり、トーマスさんの顔が青くなっていきました。


「どれが素材か分からないので、頭だけ持ってきました。角や牙とか売れます?」

「……つ、角が一番高く売れます。これだけをたった一人で?」

「半分くらいは逃げて行きましたから、まだ居ると思うんで注意してくださいね」

 毛皮も売れそうですが、血が苦手なので解体とか出来ません。並べた頭からも少し離れます。

「丸ごと持ってきてもいいですけど」

「……確かに普通の狼よりも高値はつきますが、角が全体の七割なので……。それよりもどこに仕舞っていたのですか?」

「乙女の秘密です」

 大量に荷物を仕舞えるアイテムバッグとか無いのでしょうか?

「そ、そうですか……? それにしてもこれ程とは。あの魔銃があれば何とか倒せるのでしょうか?」

「いいえ? 弾が勿体ないです」

 私はカバンから全長180センチの斬馬刀リジルを取り出し、60センチもある柄を利用して薙刀のように頭上で振り回すと、魔狼の頭を見に近寄っていた冒険者達が悲鳴をあげて離れていきました。

 そう言えば、周りに人が居ましたね。アイテム自慢は嫌われますから自重します。

 そこで私がさっきのパーティを思い出して振り返ると、全員がポカンと口を開けて私のほうを見ていました。

 そう言えば『試験』とか言ってましたね。私が片手でリジルを一回転させて肩に担ぎながらマリーに視線を向けると、彼女が顔を引き攣らせる。


「……素晴らしいっ」

 唖然としていた銀ピカ鎧の派手ジミーが、感動したようにキラキラしたお目々と笑顔を私に向ける。

「一般の冒険者なら一体を五人がかりで倒す魔狼を五体もっ! 【回復】を使える魔術師で、卓越した剣士だなんて、何て素晴らしいっ!」


 あの魔狼って角狼は、そこまで強かったですか?

 VRMMORPGだとレベル10前後の敵でしたけど、リジルの間合いにも慣れてきたので楽勝でした。ゲームだと何度か斬りつけないとダメでしたが、現実の世界だと、首ちょんぱすれば死んじゃうので、慣れるとゲームより簡単です。


「もう試験なんて言わないよっ。誰も君に文句を言ったりしないさ。君は僕のパーティに相応しい人材だっ! さあ、僕達は君を歓迎するよっ」

 爽やかな笑顔で両手を広げる派手ジミーに、私もあまり使ってない顔の筋肉を動かして少しだけ微笑む。


「絶対にお断りです」




必要の無い解説

獣人の女の子は、ケモ耳とケモ尻尾で見た目は大変可愛らしいのですが、とても毛深く、全身に産毛が大量に生えています。

この世界では猫と犬の獣人が一般的で、人間とのハーフは若干毛深い人間か、若干毛の薄い獣人になるのでその場合は、普通に人間か獣人として区別されます。

獣人は毛深いので、獣人が作る料理には注意が必要です。

そして春は若干臭います。


次回、キャロルの自由時間。


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VRMMORPGシリーズ
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― 新着の感想 ―
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