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10 冒険者ギルド



 こっちの屋敷にまで意地悪メイドのイラリアがやってきたと言うことで、私とマイアの子供組は二階に退避です。

「「…………」」

 微妙に空気が重いですね。初級魔導書の続きを読みたいところですが、マイアがイラリアと対峙するメイヤを心配して気もそぞろになっていました。

 魔導書には第一階級の呪文しか載っていませんでしたが、今のところ読んだ部分は全てアンロックされているので、私も続きは気になりますが仕方ありません。

 ふと窓の外から微かに声のようなものが聞こえて、そちらに意識を向けると、無駄に性能のいい私の長い耳が窓のほうから話し声を捉えた。


『――イラリア様、中でお茶を用意いたしますが…』

『どうしてわたくしが、あの呪い子がいる家に入らないといけませんのっ!? わたくしはここに来るだけでも嫌ですのにっ」

『……も、申し訳ございません』

『アレの今月の生活費ですわ。受け取りなさい』

『あの……これは?』

『あら、あの忌み子にはこれでも多いくらいよ。文句があって?』


 これはいけません。どうやらイラリアは私の生活費を持ってきてくれたようですが、随分と少なかったようです。

 お父様の意地悪か、イラリアが着服しているのか分かりませんが、放っておいて良い事態ではありません。

「まど」

「え、お嬢様っ」

 私が窓辺によると、慌てて付いてきたマイアが息を飲む。

 お外ではイラリアだけでなく、ここに来るまでの彼女の護衛なのかチャラそうな騎士が居て、二人掛かりでメイヤを威圧していました。


「――お嬢様の教育もなされないとはどういう事ですかっ」

「いずれ売られる忌み子に必要ないでしょう。アレは、わたくしに呪いの黒い化け物をけしかけてきましたわっ。こんな場所まで、わたくしが来てあげているだけでも、ありがたく思いなさいっ」

「それは精霊が……」

「精霊ですって? 嘘をおっしゃい!」

「ははは、イラリア殿。もし精霊だとしても忌まわしい闇の精霊でしょう。そんなものは私が斬って捨てますよっ」

「まあ、騎士様、頼もしいですわ」


 闇の精霊? 魔銃の暴発のことでしょうか? 確か闇の精霊も普通に敬われているはずですけど、貴族の認識は違うのですか? イラリアは、何故かいきなりチャラ騎士とイチャコラ始めましたけど、何がしたいのでしょう?


「とにかく、これ以上は渡せませんわ。それでやりくりしなさいっ。それと再来週に、ディルクお坊ちゃまが騎士達を連れて“鹿狩り”に参ります。あなた達三人は城に戻って手伝いをするように」

「お嬢様は……」

「あんな忌み子を城に入れられる訳無いでしょっ! 食べ物さえ置いておけば、一日くらい放っておいても死にはしませんっ! これは旦那様の決定ですっ、逆らうことは許しませんっ!」

「…………はい」

「では、イラリア殿。そろそろ戻りますか? それと今度、街でお食事でもいかがですかな? 良い店を知っておりますよ?」

「まあ嬉しいっ。丁度(・・)纏まったお金が入りましたので、お酒は私にご馳走させて下さいませ」

「はは、それは楽しみですね」


 随分と愉快な人達です。脳みそが桃色になっている彼女達が談笑するのをカーテンの影から見ていた私は、少し開いた窓から彼女達を指さし、口の中で小さく呟く。


「【Aero(エアロ) Cutter(カッター)】」


 私の詠唱に小さなつむじ風が巻き起こり、鋭い【風刃】が正確にイラリアの腰帯(・・)だけを切断した。

「「…………は?」」

 微かな違和感に二人が声を漏らすと、それと同時にイラリアのロングスカートが足首までストンと落ちる。ナイスショット。

「きゃあああああああああああああああああああああっ!!!?」

「イラリア殿っ!?」

 イラリアが真っ赤な下着を隠すように手で押さえ、チャラ騎士は動揺しながらも、その視線はイラリアの下半身から離れませんでした。


「ひぃいっ! また忌み子の呪いよぉおおおっ!!!」

「あ、ま、待ってっ」


 イラリアは下半身丸出しで逃げていき、チャラ騎士も慌ててイラリアが残したスカートを拾って、ちょっぴり走りづらそうに彼女を追っていきました。

 ……赤のTバックですか。お盛んですね。

「精霊のご加護が……」

 違いますよ。

 後ろでマイアが何か呟いていますけど、普通に風の属性魔法です。

 風の第一階級の攻撃魔法、エアロカッターです。ちょっと硬い鎧を着けただけで弾かれちゃうような魔法ですけど、私なら隙間でも狙えます。

 三歳児の状態でも、この程度なら使えるようでホッとしました。


 でもまた、忌み子の呪い(笑)ですよ。

 順調に悪役令嬢への道を進んでいますけど、メイヤ達が苛められるより、私に悪意を向けられるほうが私の気が楽です。

 それにしても、放置はともかくお金は問題ですね……。そう言えば私ってゲーム内通貨を持っていましたけど何かに使えますか?


「メイヤ、これ」

 どことなく唖然とした顔で外から戻ってきたメイヤに、私はカバンの中から取りだした500円玉くらいの“1クレジットコイン”を渡す。

「あら、キャロルお嬢様、隠し部屋にでも落ちていましたか? それは他の大陸の銀貨ですよ」

「たいりくぅ?」


 聞いてみると、この世界には三つの大陸があり、この銀貨は大きな帆船で半年くらい航海したところにある、遠方の『イスベル大陸』の供用銀貨だそうです。

 なんでメイヤが知っているのかと聞いたら、数年前にそのイスベル大陸から商船団が来て、その銀貨や金貨で交易をしていったそうで、メイヤも一度だけ見た機会があったとか。

 イスベル大陸って……本来のVRMMORPGの舞台ですよね? 本気で場所を間違えましたね、お爺ちゃん。


 こっちの大陸でもあっちの大陸でも、基本は国ごとに通貨がありますが、だいたいは大国が鋳造した『供用通貨』を使っているそうです。

 このケーニスタ王国とその周辺国は、ケーニスタが鋳造した通貨が供用通貨ですね。

 供用通貨は混ぜ物がない金や銀を使う事になっていて、他の国が抜き打ちで硬貨に混ぜ物がないか調べているそうです。

 そして大雑把に通貨の価値を教えてもらったら、こんな感じでした。

 大金貨1枚=小金貨10枚。小金貨1枚=銀貨10枚。銀貨1枚=小銀貨10枚。小銀貨1枚=大銅貨10枚。大銅貨1枚=銅貨10枚。

 だいたい小金貨が二~三枚で、庶民の若い夫婦が一ヶ月暮らせるそうです。

 と言うことは、銀貨1枚が1万円? 100ドル? 100ユーロ? 大雑把にそんな感じらしい。

 そして私が持っているイスベル供用銀貨ですが、交換レートは同じケーニスタ銀貨1枚だそうです。

 えっと、1クレジットが1銀貨?


「キャロルお嬢様。その銀貨は以前のご領主様がお嬢様に残された物ですよ。大切に仕舞っておいてくださいね」

「……あい」


 私、初期組のゲーム廃人だったので、あと三億クレジット程あるんですけど?

 ま、まあ、こっちの大陸だと、現在は王都にある大手の商会でしか使えないそうなので問題はありませんねっ。……や、やっぱり、ゲームのお金を現実で使ったらダメですよね。これは、どうしようもなくなるまで封印しておきましょう。

 でも、お金は必要なので……。ここはVRMMORPGでのお金稼ぎの定番である、『冒険者ギルド』に行ってみましょうか。


   ***


 この大陸には各種の『ギルド』が存在し、その一つに『冒険者ギルド』がある。

 だが“冒険者”を職業とするかは微妙だ。

 冒険者を自称する者達は、そのほとんどが地方で仕事にあぶれた者や、まともな教育を受けていない荒くれ者達で、一般人は彼らを『荒事専門の日雇い労働者』として見ている。

 そんな冒険者達を相手にするギルドには、綺麗どころの受付嬢など居るはずがなく、多少の掲示板と、多少の椅子とテーブル、そしてずらりと並んだ“格子付き”の受付があるだけだった。


 冒険者ギルドは、単なる“買い取り窓口”に過ぎない。

 魔物が生息する魔素の多い地域から、魔物の素材や、魔素によって変質した薬草類、危険地帯の情報等を冒険者から定額で買い取る。

 これは、冒険者ギルドの母体が『商業ギルド』であり、冒険者ギルドで買い取った素材を商業ギルドで販売する為のシステムなのだ。

 表通りに商業ギルドの建物があり、その裏側に事務所や倉庫が建ち並び、裏通りの冒険者ギルドに繋がっている。

 買い取られた魔物素材は商業ギルドからギルド加盟の各商会に、1割増しから3割増しで販売されていて、商会による冒険者からの直接買い取りは禁止されており、違反が発覚した商人はその地域では商売が出来なくなる。


 冒険者とは、ただ魔物素材を売り日銭を稼ぐだけの荒くれ者達だ。

 冒険者ギルドは買い取りしかしないので、冒険者のサポートはしない。ランクごとに分けたり、仕事の斡旋も行わない。

 冒険者の命は安く、魔物で死んでも自己責任であり、ギルドは一切関知しない。

 魔物関連で村や町に問題が起きた時は、領主が騎士や兵士を送って対処する。それをするからこそ住民は税金を払うのだ。領民を守らない領主に価値は無く、わざわざ身銭を切ってまで冒険者に頼むのは、官憲を頼れない後ろめたい者達だけだった。


 アルセイデス辺境伯領の街にも冒険者ギルドはある。

 五つの買い取り受付があるだけの簡素な倉庫のような場所では、昼間から安酒を飲んで騒いでいる輩も居た。

 本来なら冒険者仲間を募ったり、簡単な商談などを出来るようにと設置したテーブルを占拠して酒を飲んでいるのは、彼らが単純に金がないからだ。

 冒険者ギルドでは酒を売っていないが、そう言う者達が増えてからは建物の外で一般人が口にしないような、魔物の肉を焼いた物や捨てるような安酒を、冒険者を引退した者達が屋台を引いて売るようになった。


 冒険者を名乗る者は大きく分けて二種類いる。

 その大部分が日銭を稼ぐだけの荒くれ者達だが、中には元傭兵や騎士崩れなど戦闘訓練を受けた者も居て、そう言った者達は少ないが、それ故に日雇い連中と同一視されるのを嫌い、派手な鎧や奇抜な格好をするようになった。

 そう言った傾奇者(かぶきもの)と呼ばれる者達と、日雇いの荒くれ者達は当然の如く仲が悪い。

 魔法を使える魔術師も多く、武器も装備も充実して、日雇い連中の数倍から数十倍を稼ぐ傾奇者を妬み、酒の力を借りて絡む者達も少なくない。


 冒険者ギルドは一日中営業しているが深夜に売りに来る冒険者はまばらで、その二つしか空いていない買い取り受付の一つで、中年の男が暇そうに欠伸を噛み殺す。

 彼、トーマスは商家の三男に生まれ商業ギルドに勤めて15年になるが、この冒険者ギルドの勤務は所謂“閑職”だ。

 鉄格子付きのカウンターが必要な荒くれ者ばかりの冒険者ギルドに、女性を配置できるわけないと理解しているが、トーマスは社会の理不尽さを感じて重く息を吐く。

 今日も馬鹿共が、ただアルコールが入っているだけの酒かどうかも怪しい物を呑んで騒いでいた。彼らが後片付けをするはずもなく、それをするのは比較的まともな引退冒険者を雇った警備員と職員である彼の仕事なので、見ているとまた溜息が出る。


 その時、冒険者ギルドの玄関が開くと、新鮮な夜の外気と共に奇抜な格好の傾奇者らしき女冒険者が入ってきた。

 冒険者にも女性はいる。そのほとんどが傾奇者だったが、入ってきた女はまだ少女と言っていいほど年若く、その可憐な美しさに誰もが思わず息を飲んだ。

 その格好もかなり奇抜だ。傾奇者の中には魔物の角を兜に付けたり、大きな羽根で飾り立てる派手好きもいるが、その少女の格好は奇抜ではないが、ある意味誰よりも人の目を惹いた。

 王都の一流服装店でもお目に掛かれないような光沢のある真っ赤なドレスには、薔薇の花と茨の黒い刺繍が施され、傾奇者の女の中にはわざと胸元や脚が見える装備を着ている者も居たが、清楚で可憐な少女の短いスカートからチラリと見える脚に、若い冒険者の男共が身を乗り出すように見入っていた。

 静まりかえった冒険者ギルドで不思議そうに辺りを見回していたその少女は、まっすぐにトーマスのいる受付まで歩いてくる。


「ここ、冒険者ギルドですか?」

「え、ええ、そうですよ」

 受付のトーマスはそこで初めてその少女がエルフ種であると気付いた。

 黒髪と言うことはおそらくハーフエルフなのだろう。純粋なエルフであるハイエルフは全員が白銀色の髪をしているそうで、他種族の混じり物が入った通常のエルフでも普通は金髪や亜麻色程度なので、濃い髪色のエルフは大抵がハーフだと思っていい。

 だが、ここまで見事な漆黒の髪は、例えハーフでもあり得るのだろうか……。

「ギルドに登録したいです」

「え、登録なんていりませんよ。ただ買い取るだけですから」

 少女の声にトーマスの思考が中断される。格好から王都か他の都会から来た冒険者かと思ったが、金持ちの道楽でこのような格好をしているのだろうか?

「カードとかないの?」

「会員証ですか? 身分証明が欲しいのなら他のギルドをお薦めしますよ」

 とんちんかんなことを言い始めた少女に、金持ちの道楽に付き合わされていると思ったトーマスの態度がおざなりに変わる。

「それじゃ、こちらから提示する物は何も無いですか?」

「ええ、そうですよ。魔物素材や魔素の多いところに生えている薬草でも持ってきて下さい。いくらでも買い取りますから」

「うん。わかりました」

 少女は育ちが良いのか、トーマスのおざなりな説明を聞いても、丁寧に頭を下げてお礼を言い、トーマスを驚かせた。

 この少女は単純に世間知らずなのかもしれない。物語しか知らない子供は英雄と冒険者を一緒にして奇妙な憧れを持つことがある。

 その結論に達したトーマスから、目の前の少女に対する苛立ちが消えていく。


 エルフは五百年、ハーフエルフでも三百年以上の寿命があるが、年老いても三十代程度の見た目にしかならず、死ぬまで若い外見を保っている。

 だがこのハーフエルフの少女は、それを考慮しても二十歳にもなっていないだろう。そんな世間知らずの若い娘に、見ず知らずの間柄でも心配になってきた。

「君、とりあえず何か知りたいなら、表の商業ギルドに行きなさい。ここは君のような綺麗な娘さんの来るところでは――」


「おい、そこのねえちゃんっ、随分と気合い入った格好してるじゃねぇかっ!」


 注意するのが遅れて、酒の入った冒険者が絡んできた。

 その冒険者はこのギルドでも粗野で有名な大男で、実力はあるが頭が悪いせいで儲けが少なく、それを安酒で紛らわして稼ぎの良さそうな傾奇者に絡むような厄介者だった。

 今日に限ってこの大男がいるなんて少女は運が悪い。

 基本的に冒険者同士の諍いはギルドも街も関わらないが、この世間知らずなお嬢さんが慰み者となるのはさすがに気分が悪く、トーマスが警備員を呼ぼうかと考えはじめた時、少女は特に気にした様子もなくまた彼に話しかけてきた。


「ここって、揉め事が起きたらどうなります?」

「基本的に死なない限り、何もしても――、あ、いや、君、早く逃げなさいっ」

「このガキ、無視するんじゃねぇ!!」

 掴みかかってきた大男の手を、少女は半歩横にずれただけで軽く躱す。

「死人が出ない限りは、ギルドは見ない振り?」

「いえ、その、冒険者同士の諍いには、ギルドも街の官憲も関知しません……」

「なるほど、それを聞いて――」


「てめぇ、このっ」

 酒が入って頭に血が上ったのか、大男がいきなり少女に殴りかかり――

 ガシッ。

「――安心しました」

 体重が倍以上も違う大男の拳を片手で受け止め、無表情な少女が微かに浮かべた育ちの良さそうな微笑みにトーマスは一瞬見蕩れて――ゾッとした。


「…て、てめぇ…このっ」

 大男が真っ赤な顔で力を込めるが、その腕を掴んだ少女の細い手は微動だもせず、次第に真っ赤だった大男の顔が青くなっていく。

「や、やめろっ、折れる……」

「このアマぁっ!」

「放しやがれっ!」

 そこに大男の仲間である二人の冒険者が声を張り上げながら剣を抜いた。

 ギルド内での“喧嘩”なら冒険者ギルドもいちいち関与しないが、さすがに武器を抜いたことで見守っていた警備員も慌てて飛び出した。

 少女は近づいて来るその二人の冒険者をチラリと見て、


「Set【Break(ブレイク) Revolver(リボルバー)】」


 ドォンドォンッ!

「ぎゃあっ!」

「ぐああああっ!」

 轟音と共に突然脚から血を吹き出し、悲鳴をあげながら転げ回る冒険者達。

 トーマスは少女の手に持つ物が、他の大陸からもたらされた『魔銃』だと看破した。

 イスベル大陸の交易船の船長から、大金貨数千枚で数挺だけ取引された『魔銃』は、国家と魔術師ギルド、鍛冶ギルドを中心に解析が行われ、現在では王国の近衛隊や将軍などのお抱えの部隊に数百挺が配置されている。

 数が揃わないのは、魔銃を製造するには非常に高度な鋳造技術と錬金術が必要である事と、取り扱いが面倒な点にある。

 魔石を粉にまで砕き、特殊な魔術錬金を施した『魔粉』を銃口から定量入れ、そこに金属を加工した『銃弾』を込めて、使用者が魔力により魔粉を弾けさせて撃ち出す。

 慣れている者でもその工程だけで10~20秒ほど掛かるので、とてもではないが個人の戦闘では最初から用意していても一発しか使えない。

 だが、ハーフエルフの少女は、それを連続で撃った。

 しかも強度と精度を保つ為に銃は両手で構える“ライフル型”が基本だが、少女の持つような片手で使え、脚を貫通するほどの威力の魔銃はどこでも見たことがなかった。


「ぐえっ」

 少女が手を放し、大男が後ろに下がるようにして尻餅をつく。

 のたうち回る仲間達を見て、青い顔で痛む腕を押さえながらも、憎しみに満ちた目でそろりと腰の片手斧に手を伸ばし――

 ドォンッ!

「ひっ」

 その瞬間、脚の間の床を撃たれて、大男は股間を濡らしながら気絶した。


 その後少女は、脚を撃たれた二人に死なない程度の【回復(ヒール)】らしき魔術を掛けると、その場にいる唖然としたままの人々に丁寧に頭を下げて去って行った。

 それから冒険者ギルドでは、その可憐な容姿に似合わぬ容赦のない攻撃と、その奇抜な格好から、彼女を『薔薇の魔女』と呼び、畏怖するようになったという。


   *


「当たらないなら、当たる距離で撃てばいいのです」


 あれから数日、偶に遠くの森で見つけた薬草っぽい何かや、魔物素材を換金しに冒険者ギルドに顔を出すと、冒険者達が受付を譲ってくれるようになりました。

 やっぱり最初に丁寧な態度で接したのが良かったのでしょう。あの絡んできた三人も受付のおじさんによりますと、冒険者を引退して肉体労働者になったと聞きました。真っ当な仕事に就けて何よりです。

 それにしても夜中なのに初めの頃よりも随分と人が増えましたね。

 するとその中から銀ピカの鎧を着た騎士風の金髪お兄さんが、爽やかな笑顔を浮かべて近づいてきました。


「やあ、君が噂の『薔薇の魔女』だね。少し僕らの話を聞いてくれるかな?」





次回、傾奇者冒険者とのテンプレ。

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