01 悪役お嬢様
新作になります。大好きな悪役令嬢とVRMMOの転生ものです。展開はテンプレを多く含みます。
主人公の性格はのんびりしていますが、とても“いい性格”をしております。
物語は基本的に主人公の一人称で進みますが、主人公の台詞は、抑揚なく淡々とお読み下さい。
それではよろしくお願い致します。
初めましてコンニチハ。わたし、死にました。
いきなり何言ってんだコイツ。と思うでしょうが、私だって死にたくて死んだのではありません。
私の家はそれなりに裕福でした。事業家のパパ。お料理研究家をしているママ。優秀でカッコイイ長男。モテモテのカワイイ末娘。なんと理想的な家庭ではありませんか。
――――兄妹で真ん中の私が居なければ。
私はあまり感情を出さないので怒ったり笑ったりしません。だから家の中では私だけが浮いていました。ぷかー…と。
別に感情がない訳ではありません。ただ面倒くさいだけなのです。
あまり表情を出さない私ですが、仲の良い友人などは裏表がない分、ある意味分かりやすいと言ってくれます。単純明快。
問題があるとすれば、それを家族が理解してない事くらいですか。
こんな性格なのに地味に気が強いので、口論になると淡々と正論で反論して、感情論的な兄や妹からは嫌われていました。パパやママなんて中学くらいから私を視界に入れなくなっていましたね。
煩く言われなくなったので、私はゲームばかりするようになりました。食事にも呼ばれなくなっていたので、時間は沢山あったのです。
そんなある日、高校の担任に進路はどうするのかと問われて、私は以前から考えていた家から出る決心をしました。兄妹達の態度が面倒な感じになっていましたからね。
半年ぶりにパパと会話すると、次の月には小さなマンションを与えられました。
えっと、卒業までまだ二年近くあるんですけど……?
そんな感じで一人暮らしが始ま――りませんでした。
心配してくれた友人達と一人暮らしの物を買いに出掛けた時、外国人の小さな男の子に会いました。迷子かな? 困ってますね。
その時、私の視界の隅で大きな外国人の男性がナイフを持っているのを見て――気付いた時には、男の子を庇うように抱きしめていた私の背をナイフで刺されていました。
ちなみに私の死因は、ナイフが刺さったまま暴漢の股間を私が蹴っ飛ばしたせいで、内臓が傷ついたからです。私、好戦的。
まあ、仕方ありませんね。死にたくはありませんでしたが、最後に人の為に死ねたのなら上出来ではないでしょうか?
家を出る時、家族全員の鞄にこっそり忍ばせた“やおい本”は、形見だと思って大事にしてください。
どうして死んだ私がこうして話しているのかと言うと、奇妙な白い空間で、私の目の前に居るこの優しそうな“お爺ちゃん”が私が死んだことを教えてくれたのです。
「もしかして神様ですか?」
『少し違いますよ』
少し違いました。
普通の人は死んだらすぐに魂になって、輪廻転生をするか世界に還元されるらしいのですが、私は特別にその前段階で止められているそうです。
私が庇ったあの男の子ですが、なんと【神の子】さんだったとか。
千年ごとに世界に出現する【神の子】は、世界を救済する為に“人”として生まれてくるそうですが、今回は油断したところを邪悪に襲われたそうで、もしあの子が死んでいたら大変なことになっていたらしいのです。大変ですね。
そしてこの神様とは少し違うお爺ちゃんは、千年前の【神の子】さんで、後継者が生まれたことから、ようやく安らかに眠れると喜んでいました。
ですが、その為に若い命を散らした私に、お爺ちゃんは大変悲しんでくれました。
『ですから、私の最後の力を使って、あなたを“好きな場所”に生まれ変わらせてあげましょう』
「ゲームの世界にお願いします」
お爺ちゃんが数秒ほどフリーズしました。
私は中学時代から某VRMMORPGをしていました。立派な廃ゲーマーです。
友人達には悪いですが、またあの家族と関わる可能性はいりません。もしゲームの世界があるのなら、私はそちらを“現実”にしたいと思います。
迷いもなく言い放った私に、お爺ちゃんが少し困った顔になる。
『ゲームの世界なんてありませんよ?』
「まじですか」
お爺ちゃんが言うには、『ゲームと酷似した世界』はあるけど、『ゲームの世界』はないそうです。
ゲームと酷似した世界とは、その異世界を予知夢のように視る事が出来た人物が、偶然ゲームクリエイターだったりすると、その世界観のゲームが作られることがある。
要するにそんな既存のゲームのような魔法や技能があったりする世界のことです。
そんなゲームのような『剣と魔法の世界』はあるけど、そんな世界は危険も多くて、一般人の死亡率も高い。
それは困る。私がしたいのは、やっていたVRMMOみたいな、暢気で楽しい冒険がしたいのです。私、ワガママ。
『分かりました。出来るだけ、あなたの願いを叶えてみましょう』
「お爺ちゃん、ステキです」
なんでも運が良いことに、私がやっていたあのVRMMORPGと酷似した世界があるそうな。
あのゲームでは、スキルを成長させることで力を上げて、スキル経験値でレベルが上がる感じだったのですが、その世界はゲームではなくリアルなのでレベルの概念はないそうです。
成長させたスキルと内なる魔力が結びついて生物限界まで力が上がるらしい。よりリアルになった感じですね。
転生に伴い、今の意識は出来るだけ残してくれるそうですが、でもそのまま転生したら、ある程度の記憶があっても生存率は低い。
そこでお爺ちゃんは、私がやっていたゲームの『総プレイ時間』『育成したキャラクターへの情熱』『苦労して手に入れたレアアイテムへの想い』など諸々ひっくるめて魂の力に変え、転生した身体を普通の人よりも強化してくれるそうです。
もう一度言います。お爺ちゃん、ステキです。
『それでは、向こうの世界に君の魂を送る。この世界の為にありがとう。私も心置きなく逝くことが出来る。……今度こそ、新しい人生で長生きして幸せにおなり』
「お爺ちゃん……。うん、頑張ります。絶対長生きして幸せになるから」
少しだけ泣きそうになりましたが、身体が無いと泣けません。そんな私にお爺ちゃんは優しく微笑むと、私を孫のように頭を撫でてくれました。
「お爺ちゃん、ありがとう。大好き」
『うんうん、そうかそうか』
そうして私の魂はその世界に渡り、私は新しい世界で生まれ変わりを果たしました。
脳の容量も体力も少ないからでしょうか、赤ちゃんの頃はぐーすか寝てばかりいて記憶が混濁していましたが、三歳になってようやく【私】の意識が明瞭になって、周りのことが分かるようになってきました。
私の名前は、キャロル・ニーム・アルセイデス。この剣と魔法の世界で……
あれ?
何かどこかで聞いたことあるような……――――
「あ――――っ」
なるほど合点がいきました。これって中学時代に少しだけやった【乙女ゲーム】に出てくる登場人物の名前ですね。でも一言だけ言わせてください。
神様、死亡フラグ満載の“悪役令嬢”だなんて、話が違いますよっ?
お読み下さり、ありがとうございました。
一章分書きためているので、ストックが尽きるまでは毎日夕方に更新いたします。
第一話は短いので、夜にもう一つ更新予定です。
本格的に攻略対象やヒロイン達と絡むのは第二章からになります。
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