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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

突発小説『結婚』

作者: 書きたいところを詰め込んだ




『その結婚、待ってくれるー?』


 のんびりしたような、それでいて、怒っているような声が辺りに響いた。辺りはザワザワとして、乱入者に眉をひそめている。声をした方を見てみると、ポッカリととても風通しが良さそうになった入り口と、光の加減で青とも、銀とも取れる厳つい顔をした竜。それと。


 バッサリと肩まで切られた髪を風になびかせ相変わらずの阿呆みたいな面を晒してぽけーとこちらを見ている愛しの人。


 「まさか、乗り込んでくるなんて」


 嬉しいような、呆れてしまうような。あぁ、でも嬉しいんだろう、ゆっくりと近づいていった。







 空はどんよりくもりぞら。少し体を動かすと、金属音が首元から響く。


 失敗したなぁ。


 何をしても割れない窓から外を眺めながら呟いた。


 こんな事になるなら自国に帰ってくるんじゃなかった。最悪だ。ナリアに連絡を取ることも出来ない。ドジったなぁ。


 自分に繋がる鎖を見て、思わず下唇を噛んでしまう。口の中に広がる鉄の味に何も感じず、ただ、時間を無駄に過ごした。脱出することも、言葉を伝えることも出来ず、日が傾き、沈み、昇る。


 窓から見える景色が、どんよりくもりぞらから、キラキラとした太陽が輝く青い空が広がっていた。街を照らし、部屋の中も照らす。ガチャ、と扉が開く音がした。ノックなど、されずに。


 「行くぞ。来い」


 他の言葉は無く、短く男はそれだけ投げかける。自分は何も言わず、窓際に座り続けようと、動くもんか、と思ったのに、体は勝手に動いていて。驚きの表情は消されて面白くもないのに薄く笑っているようになっているのが分かる。


 一体何が、と言われなくても理解した。首に着けられているモノのせいだ。憎たらしいが、行動も制限されている自分では、何も出来ない。拳を握ることも出来ず、よく、知っている背中を追いかける。嫌いだ。どっかに行ってくれ。そう思っても、体が強ばって何も出来ない。心の中で睨みつけながら、着いた先は衣装部屋。


 「ここにある服に着替えろ」


 中に入り、そう言われ、着替えたくもないのに、体は動いて服を着る。少し青みがかったシルバーの服。黒色の靴。


 「……着いてこい」


 着替え終わると、目の前に立っていて、首元に手を当て、そう言った。相変わらず体は思い通りに動かず、言われた通りに動く。が、首に見えていた鎖が姿を消した。どうやら、見えなくしたらしい。


 そりゃそうか。晴れ舞台に首輪なんか着けてるのは見せれない。そのまま外れてくれたら良かったのに。


 相変わらずの作られた笑顔を貼っつけて、歩いて行くと、街から賑やかで笑い声が溢れてここまで届いている。


 何がそんなに楽しく、面白いのか。望まぬ結婚など拷問でしかない。


 心の中でしか吐き出せないものを考えながら進んでいく。監禁されていた場所から出て、馬車に乗り、ついた場所は。


 真っ白で大きな教会。


 入口に止まり、馬車から降りる。と、ちょうど相手方も到着したようで、馬車から降りて来た。真っ白で豪華な刺繍がされているドレスに、丁寧に結い上げられている金色の髪。蒼色の瞳がこちらを見て、ニッコリと細められる。自分は返したくもない笑顔を返し、近づいて、手を差し出した。


 フワリと重ねられた手を握り、中に進む。自分と相手方の親族が一同に揃って、祝福の拍手を送られた。内心吐き気を催しながら一番奥まで進んだ、その瞬間だった。


 言い表せないような音と、衝撃が背後からもたらされる。親族はギャーギャーと騒ぎ、混乱していた。そこに響くのは、聞きたかった声で。


 「その結婚、待ってくれるー?」


 のんびりしたような、それでいて、怒っているような声が辺りに響いた。辺りは騒がしかったものが、ザワザワとして、突然の乱入者に眉をひそめている。声をした方を見てみると、ポッカリととても風通しが良さそうになった入り口と、光の加減で青とも、銀とも取れる厳つい顔をした竜。それと。


 バッサリと肩まで切られた髪を風になびかせ相変わらずの阿呆みたいな面を晒してぽけーとこちらを見ている愛しの人。


 「まさか、乗り込んでくるなんて」


 呪縛が解けたのか嬉しいような、呆れてしまうような声が漏れる。あぁ、でも嬉しいんだろう。


 「近付いて、殺せ」


 いつの間にか、近くに寄っていた、男の言葉に動きたくもないのに動く。近付きたくない。殺すことなど。自分の意思で殺せないなら、殺すことに意味なんてない。気付け。気付け。


 そう念じても、彼女に届く気配はない。ニッコリ嬉しそうに笑う彼女を見て、心が苦しみ、悲鳴をあげているよう。はやく、逃げてくれ。口に出したくても出せない。


 彼女は腕を広げ、こちらに手の平を向けてきた。そして、のんびりした声で言うのだ。


 「ねむねむびーむ」


 全く、意味が、わからな……すやぁ。




 そこから記憶がない。しかし、竜の丘の花畑で、すりすりされている現状を見れば、どうやら助けられたみたいだ。全くどういうことか分からないが。でも、まあ、彼女とのんびりと過ごせるなら、良いかな。


 事の顛末を聞いて、ツッコミを入れるのは大変そうだし。


 「カリー。大好きだよ!」


 ごろごろー、すりすりー、しながら彼女は嬉しそうに言う。自分は彼女を抱きしめて、頭を撫でながら返事をした。


 「私も大好き。愛してる」

 「……私も! 好きで大好きで愛してる!」


 ちゅ、と軽いキスをして照れる彼女。普通のことは恥ずかしがるんだから。苦笑して、自分もキスのお返しをした。


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