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夏日

作者: 袋小路 めいろ

 田では青々とした稲が、両手を右から左へ、左から右へ振り動かしている。蝉の鳴き声が、道途中の木々をステージに、人の歩く動きを指揮者にして、オーケストラの真似をしていた。

 黒髪の長い女性が、その景色を所々で立ち止まりながら歩いていく。

 大切な足音がする。




 神棚の台座の裏側に、小さなヒビ割れを見つけて、少し、頭の中で毛糸が絡まった。いつの間にこんな所がと、考えてしまうのだが、築二十年以上の平屋だと聞けば、納得する人の方が多いだろう。朝から気分が首を傾げているのだが、玄関から女性の声がすると、ハサミで切り取って捨てた。

 家内へ、案内する姿が見えた。




「こんにちは、貴ちゃん」



 ・・・



「彼女は、五歳上の幼馴染の女の子で、夏のこの時期はいつも会いに来てくれるんだ。お互いに、今まで色々とあったけど、それぞれ結婚して、子供が居るのだから楽しくて面白い話だろう。

昔の仲は良かったんだよね、「友達以上恋人未満」という画期的な言葉で表現出来る程に。もちろん、お互いの両親も知っているし、家族ぐるみでの交流があった。

今でもそうなのだ。こうやって来てくれて、父と母に手を合わせてくれるんだ。

大切な、大切な、時間を過ごせてきたという事実が、今ある関係に繋がっているんだと実感できるよ。こういう関係って、なかなか無いよねって思う。

あっ、妻がお茶を出したみたいだね。ゆっくりしていってね」



 ・・・



「またね、貴ちゃん」




 お茶を挟んで、彼女と妻は楽しそうに談笑している。ちょっとした女子会なんだろう。

 楽しい事は、良い事だ。それにしても、あちこち傷んできてる。神棚は、流石に直した方がいいかもな。




 仏壇では、黒髪の長い女性が立てた線香が、ゆっくりと煙のラインを作っていた。

 居間では、座卓のお茶とお菓子で、女性が二人、他愛のない話に花火を打ち上げている。

 その上では、彼の父親の写真と母親の写真が飾ってある。そして、その隣には彼自身の写真が飾ってあった。

 いつ迄もいつ迄も、続いていく笑顔と共に。


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