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Ex1.「名前」について

 ここでは番外と称し「名前」にまつわる私の意見と、名付けについての考察を披露したいと思います。なお番外ですので一問一答はありません。そのかわりに四つの段を設けて、名前について詳しく見ていきます。



 ***



1段:名前の後ろにあるもの


 設定の段階にはどこでもネーミングが付きものです。

 人物はもちろん、道具、地名、国家名、必殺技など、おおよそ名前のつかないものはありません。ただ思いつくだけでも大変ですが、さらに説得力や蓋然性まで与えようと思うとネーミングだけで七転八倒することも珍しくはないでしょう。


 作者を大いに悩ませる名前。これを何とかして簡単に作る方法はないものか。


 私もネーミングには苦労していますが、簡単とは言えないまでもガイドラインを持つことで、悩む時間を減らしています。

 参考としているのは現実の名前です。名前はほとんどが理由をもって存在しています。架空の名前を一から想像するのは難しいですが、現実の存在理由を知っておくことがその助けになるかと思っています。


 では具体的にどんな理由があるのでしょうか。簡単ですが主立ったものをざっと上げてみましょう

 

 ・人名:名前を付けた者が、名を持つ者に宛てた願い。


 ・地形:聞くだけで地形を予想できるような特徴。

     例:大阪 オサカ 坂に接頭辞を付けたもの(一説です)

       デスバレー 過酷な(死にそうな)谷地


 ・国家:地理や歴史、政治形態、支配者などの明示。または欺瞞。


 ・器具:用途からくる機能の明示。

     もしくは見た目で判別するための特徴。


 ・奥義:聞けば誰しも技をイメージできる特徴。

     または技からイメージできる現象。


 ざっとこんな感じです。

 もちろんすんなりと当てはまらない名前もありますが、よほど発想が奇妙でない限り、元をたどればこの分類がおおむね有効です。


 人名を除いた四パターンは、どれも聞き手の利便性を考えているのも特徴です。そもそも名前というのは人間が与えた「ニックネーム」ですから、わざわざ付けるなら人にとって何かしらの利便性を持っている方が自然です。聞けばわかる便利な名前というのは、全てに共通するガイドラインだと言ってもいいでしょう。


 つまり現実の名前とは理由があり、かつあることで便利になるものなのです。

 架空の名前を付ける際にこの点を念頭に置くと、余計な作業が減ってスムーズにネーミングが進みます。



 ***



2段:人名のあれこれ話


 キャラクターの名前について悩むことは多いと思います。


 多くの創作ガイドでキャラや特徴を考えて、と書かれていますが、これは読者の利便性に焦点を置いた意見。つまり「物語外の人物にとって便利な」名前の付け方です。また名付け親が作者であるという視点も見えます。つまり命名するのは作者という「神」であって、キャラクターの親や親族ではない。

 それらが一概に悪いとは思いませんが、一歩間違うと見当違いのネーミングの原因になりかねません。「厨二」とか「キラキラ」というのは、つまり名を持つ側の利便性を無視した名前によく投げられる言葉です。


 優しい子だから優子、勇ましい子だから勇子。


 と、どこかのコイルのようなことを言いましたが、このシンプルさがまさしく私の命名の原則です。キャラクターの名前を決めるのは「神」ではなく親もしくは親族。全ての人物はかつては子供であり、託された願いが名前になります。


 作者の都合も、もちろんあります。

 物語の作り手として全ての人名を平凡にするわけにはいきません。私が言いたいのは、キャラクターの名前は作者だけのものではないということなのです。一つの人名を作るには、神(作者)の視点、親の視点、そして本人の視点の三つを作る必要があるということです。


 私の「ブルーバード・レベルナイン」を例に取るとこうなります。


 ミツル〈充〉:親の視点 名字の大幸と合わせて幸運に恵まれるように

        本人視点 ありがちな名前なので気にはしていない

        作者視点 「青い鳥」のミチルから変名


 レン〈漣〉 :親の視点 波のように何度でも挑戦する不屈のチャレンジャーに

             エレノアの愛称としてアメリカでも馴染みがあるから

        本人視点 不屈は言い過ぎだが、洋の東西で使えて便利

        作者視点 映画監督ウォルター・ラングから変名

             初期段階ではラン


 作者と親の願い、そして本人の名前に対する態度が設定として機能していれば、多正シンプルでも気になりません。あれこれひねり回すよりも少ない労力でキャラクターに馴染むのではないでしょうか。


 これは異世界ものでも充分使える考えです。

 公用言語や風土、歴史によって多少変わりますが、親の願いはある程度同じです。「少年機関士」のリンテは、設定した架空言語で「優しさ」の形容詞形ですから、彼女は優子ちゃんなのです。


 もし異世界などで洋風の名前を付ける場合、注意点として由来を押さえておくことが肝心です。マリア、ジョン、ミシェル(ミッチェル)、ポール、ガブリエル等ポピュラーな名前がありますが、これらは全てキリスト教、さかのぼればユダヤ教が由来です。従ってキリスト教と無縁の世界でこれを採用した場合、何らかの補足設定が必要になるでしょう。

 とはいえ使えるのは使えます。異世界転移ものなら「過去の転移者の名前から」という理由付けができますし、それが偉人だったりすれば三者視点としては完璧です。そこからさらなる設定を膨らませる余地すらあるでしょう。



 ***



3段:ネーミング手法


 ネーミングの手法は人それぞれ、作者さまごとに様々な方法があると思います。

 ここでは一例として、私が主に使う三つの手法を紹介します。もちろんこれらは個別に使うよりも混合して使っている事が多いです。



I .理詰め

 和名を付ける場合や、設定の他の部分がおおむね固まっている時によく使います。

 現実や世界設定をバックグラウンドとし、リサーチしながらその人物に適当な名前をでっち上げます。

 

 先に挙げたミツルとレンの名字はこの方法で、いずれも難読かつ平易な綴りの実在する名字です。

 例:大幸〈おおさき〉 東田〈はるだ〉


 この手法の利点は、なんといっても破綻の危険が少ないことです。

 現実にある、または設定として完成しているため、命名の時点で説明も完成します。また例に挙げたように方針次第では特徴のある名前を付けることもできます。難読、ギャップ、珍名など、これらはキャラクターの性格付けにも有用です。


 一方、欠点としては柔軟性に欠ける点があります。

 たとえば東田と書いて「あずた」とは読めません。あずま+た、で読めそうな気もしますが、人名データベースをひっくり返してもそのような呼み仮名は出てきません。「あずまだ」はあるらしいのですが、語感がイマイチです。自分で作った設定にしても、人名一つでルール変更が必要になってはコトです。


 結果的に、理詰めの命名は堅実ですが面白味に欠けます。


II.言葉遊び

 理詰めではカバーできない面白味を出すのが言葉遊びです。

 手法としては簡単で、元ネタとなる人名やキャラの特徴、物語の役回りなどから人名を作り出します。戦隊もののメンバーに色名が入っていたり、元ネタの人名をアナグラムしたりするやり方ですね。


 またさらに上を行く手として、本格的に駄洒落にしてしまうという方法もあります。映画「ガメラ 大怪獣空中決戦」には頼りない刑事が出てきますが、彼の名前は「大迫 力(おおさこ つとむ)」です。迫力の欠片もない人物に大迫力と名を付けるとは、なんともウィットが効いています。


 地名ではさらに秀逸な例があります。タツノコプロの「逆転イッパツマン」には「オストアンデル」という地名が出てきますが、実はこれ「押すと餡出る」という饅頭をネタにした駄洒落、ハナモゲラ語です。余談ですが偶然にもこの地名は、ドイツ語で説明ができます。オストは東、アンデルは人名か異国という意味に取れ、全体としては「東アンデル地方」とか「東部の異郷(日本?)」という意味になるから驚きです。


 言葉遊びの利点は、名前そのものが特徴というわかりやすさと憶えの良さにあります。

 名前に読者を注目させキャラを印象づけることで余計な説明が省きます。特に漫画的な表現においてこれは重要で、キャラクター説明で削った分を他の表現に割り振ることができます。


 欠点は、やはり説得力を欠く点でしょうか。

 例えばやたら長い名前で、それをネタにしたキャラを想定してみましょう。その長い名前の一つ一つに説明を求められたら大変です。「……エリザベート・マウリシア……」のように異言語混合にしたら、その理由まで必要になります。駄洒落が入っていたらもう手が付けられません。前出の二例のように言葉遊びに説得力があるのは、実は珍しいことなのです。



III .語感、音感

 名前を決めるのに実は結構見落とされがちな要素、それが語感と音感です。

 すこし前に語感についてのエッセイ書が出ていましたが、あれとはちょっと目線が違います。ここでは名を持つキャラクターに着目して、イメージの段階で考えます。


 音がしっくり来ないと、人間は違和感を憶えるように思います。

 つまりキャラクターには、その演じる役割に応じてしっくり来る音があるということです。ちょっと例を挙げましょう。


  ガドヴェド

  リュッチェンス

  セラー


 これらの三つの名前には、それぞれキャラクターを想起させる響きがあります。力強いキャラには太い音や濁音が似合いますし、繊細で神経質なキャラには跳ねるような音が、流れるような音なら優雅さや臆病さが見えます。

 名前はその響きだけでイメージを作ります。ニャホニャホタマクローと聞いてヒゲモジャの実業家に結びつかないのはこのためです。


 さて、物語に登場する人物は架空の存在ですから、このイメージを活用する事ができます。現実にはレアな「イメージ通り」あるいは「イメージと違う」という極端な反応を、キャラの特徴に盛り込めるわけです。


 言葉遊びと似ていますが、より感覚的で無意味な点が違います。

 ヤッサバと聞いてあの人物以外に当てはまるものがないように、ジロンと聞いて男の子が出てくるように、語感の世界を重視して作られた名前は、ときに言葉の意味より遙かにキャラクターを写します。

 (例に出したように、この分野の第一人者はあの監督です。彼の作ったキャラクターが妙に憶えやすいのは、ひたすら意味より語感を重視しているせいではないでしょうか)


 語感で名前を付ける場合、圧倒的に楽なのは異世界です。言葉そのものが違うと設定すれば、多少遊んでも説得力は問われません。

 もちろん現代でも有効です。難読だったり難しい漢字だったりを使い、語感からキャラを特別視させる手法は近年とてもポピュラーですね。


 どうしてもネーミングに困った場合、語感や音感から名前を付ける方法は非常に有効であると感じます。



 ***



4段:名前の使いやすさ

 頭の中でキャラクターを想像できる作者と違い、読者には書かれた文字こそが全てです。名前は単なる名札ではなく、いわば文字にした顔写真と言えるでしょう。


 しっくり来る顔写真を見つけたなら、次はそれを生かす方法を考えましょう。


 まずは憶えやすい事。つまり読者の側からの使いやすさです。無駄に長かったり難読に過ぎる名前は憶えにくいですから、もっと簡単にするなり愛称にするなり変形が必要です。

 ギャップを狙う場合を除いて、名前のイメージとキャラ像は同じであることが望ましいでしょう。ギャップを付ける時は中途半端にせず、完全に正反対ぐらいひねったほうが見栄えします。


 次に作者としての使いやすさを考えます。これは書きやすさと呼んでいいかもしれません。

 私の場合、三音節以上の名前はあまり使いません。もし超えるようなら短い愛称を付け常用します。長い名前は工夫しないと誤記を誘い、さらに文字数を食います。特に字数を気にする作品では取り回しに苦労します。


 そして最後に、キャラクターの使いやすさを考えてあげてください。

 私たちに名前があるように、彼らにとっては作者の作った名前こそがそうなのです。呼ばれて恥ずかしかったり書きにくかったり、他人と間違われたり性別を誤解されたり。それもまたキャラクターを作る要因になりますが、本当にそんな苦労を背負わせる必要がありますか?

 必要がないようであれば、どうかちゃんとした名前を、設定に沿った名前を彼らに与えてあげてください。


 本当によいネーミングとは読者にも作者にも、そしてキャラクターにも使いやすいネーミングであると思います。

 それはけして楽な作業ではありませんが、作者にもキャラクターにも唯一無二の個性を発揮させうる素晴らしい作業です。


 さて、今日も名を記すとしましょうか。

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