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4.結:設定を使う

 一つの作品を作る上で、設定と物語は両の車輪となります。どちらが欠けても作品はなかなか上手い具合に進行しません。

 しかし両者は、その帰する所が作者か読者かという点で時たま衝突します。特に作品を文字に落としている時は、この衝突に悩まされる事も多いでしょう。


 この節では作った設定をどう使うか、どう生かしていくのかについて考えていきます。



 ***



Q31.

 設定と物語、どちらが優先されるのか。

 (pecoさまより)


A:

 私としては物語が常に優先されるべきだと思っています。


 「起」の節で示したように設定は骨に対する肉、作者のための旅行手引書ガイドブックであって旅程を左右する力はありません。物語に暴走が許されるのは読者にとって有益だからであり、設定の暴走が読者に有益かというとちょっと微妙なところです。



 ***



Q32.

 設定をどこまで作品に使うのか。

 (GAUさまより)


A:

 私としては執筆の許す範囲、つまり物語で露出するところまでです。

 とはいえその範囲をピタッと決めることは難しいと思います。設定を作る時に最初からここまで、と決まるのが理想ですが、現実にはそう簡単にはいきません。設定というのは個々に独立していない要素をチマチマ組み上げていくお手製のジグソーパズルのようなもの。何かのピースが物語に出ないからといって、まったくの空白で残すと周囲の要素に影響が及びます。つまり本文で使わない設定も、ある程度は必要になるわけです。


 ですから私に言えることは、明らかな蛇足部分を見いだすこと、ぐらいでしょうか。「有用」の範囲より「無用」の範囲に着目して、必要になるまでそこに手を付けないようにするわけです。本文中でもし触れそうな場合は、新たに周囲から設定を導くか、あるいは意図的に書かないかです。



 ***



Q33.

 どう本文に流用させるのか。

 (pecoさまより)


A:

 やはり説明文という形が、いちばん文章に流用しやすいと思います。

 地の文、もしくは台詞という形で要素を俯瞰で説明してしまえば、設定した範囲について過不足無く描写できます。

 説明文の最大のメリットは、推敲段階でのカット候補として一番有望だということです。説明文は文章のウェイトになることが多いので、推敲段階で文字が多いと思えばバッサリやってテンポを上げられます。要約したり説明しなかったとしても、展開によってはそう不自然にならないことも多いです。


 次に説明文を使わないパターンですが、もし余裕を持って(つまり絵に描けるほどに)設定を組んでいた場合であれば、さりげない描写で設定を取り入れることができます。花の色、硬貨、建築手法、街の規模や雰囲気。これらは全て設定から導くことができます。明示するよりもかえって効果的な場合もあるでしょう。


 どんな流用であっても、設定が作者に帰する限り誤読が発生します。そして誤読はむしろ歓迎すべきです。違った切り口で物語を見るのは読者の特権であり、そして彼らこそ次世代の作者なのですから。



 ***



Q34.

 設定と物語がぶつかった場合、齟齬が出るならどうしたらいいか。

 (pecoさまより)


A:

 特に根幹に関わるものでない限り、設定の方を修正した方が早く確実です。


 物語は作品の骨格と例えたのは、曲がってしまうと作品がぶれ、大筋が壊れてしまう恐れがあるからです。一方設定を肉と称したのは柔軟に変化するがゆえです。もし骨と肉がぶつかったなら、肉を曲げた方がより自然ではないでしょうか。


 ただし何事にも例外はあります。


 設定のほうが「説得力」がある場合、私は物語の方の修正を考えます。説得力は設定を作っている時に常に念頭の置かれますが、物語の場合はの限りではありません。特に「こうあるべし」と先入観を抱いている場合、気付かずに「説得力」を失っていることもしばしばです。


 ですから齟齬が出たときは設定を変えますが、より「説得力」があるのは、より自然なのはどちらかと考える作業は必要でしょう。



 ***



Q35.

 あとで設定を付け足すのは有りか?


A:

 執筆を開始してから設定が加わるのはよくある事です。

 設定も物語も事前に作ったものですから、書き進めていけば当然お互いに足りない場所が出てきます。付け足すのをためらう理由はありません。書くのに戸惑う前にさっさと付けてしまいましょう。


 設定を付け足す場合、作る段階で取った余白が重要です。付け足し部分を余白にはまるように調整できれば、わりとすんなり穴埋めで設定が付け足せると思います。


 もし余白がない、もしくは齟齬が出る場合は?


 その時は付け足すのではなく、今ある設定を馴染ませた方がいいかもしれません。付け足した要素が「明かな後付け」として悪目立ちするような事態は避けた方がいいでしょう。



 ***



Q36.

 もし資料を公表するとしたら?


A:

 二つの方法が考えられます。


 一つは略式の設定資料です。

 人物紹介ならハヤカワSFのように一~二行で収まるように、世界設定もパッと見の範囲に収めます。これは読者のための備忘録として使えますし、特にSF分野や群像劇では助かる代物です。


 二つめは本格的な設定書として独立させる場合です。

 シェアードワールドや大長編の場合、設定自体が重要な役割を持つこともあるので、時にこの方法が有効です。この方法の注意点は、本文から独立させる以上、設定書もまた「読み物」として成立する必要があるということです。メモの列記ではなく文章として完成されている方が好ましいでしょう。


 どちらの場合でも注意して欲しいのは、これらをまとめる作業はあくまでも本文とは別の作業だということです。つまり、メインの執筆を削ってまで取り組む価値は薄く、それを書くなら本編を書くべきではないか、ということです。



 ***



Q37.

 グラフィカルな資料、つまり年表や地図などは作ってもいいのか。


A:

 作成に手間がかかるという点で、私はあまり必要でないと思います。

 グラフィカル資料に落とし込めるほど作者が設定を整理しているのであれば、実際のところあまり書く必要はないように思われます。


 特に年表は、作り始めるとかなり擦り合わせに気を使います。

 余談ですが、年表というと「ファイブスター物語」を思い出す方もいらっしゃるでしょう。あの作品の年表はかなり特異なもので、読み込むとまさに「余白つきメモの集大成」であるる事が分かります。(現に初期と後期には年数にズレがありますし、大戦役であるマジェスティック・スタンドのことは一文字も書かれていません)先にエンディングを書いているからの荒技であり、一般化できない匠のわざとして見るべきです。


 地図に関しては詳細なものは必要ありませんが、見取り図的なものがあると便利だと思います。人物の移動を目に見える形にすることで、いろんな発見ができます。海を渡ったり山に登ったりするのは描写として見栄えしますし、気付かなかったイベントに気がつくこともあるでしょう。

 特に異世界を舞台にした場合、風景などの描写に見取り図は威力を発揮します。



 ***



Q38.

 作り終わった(見切りを付けた)設定は、作品ごとに使い捨てか。


A:

 設定の使い捨てはしませんし、するべきではないと思います。


 一つの設定を作るのに使った時間の大半は、作者が自分の想像を形にするためのもの。従って作品ごとに一から作り直したとしても、気付かぬうちに根底が似通ってきます。ならばいっそのこと、流用することを考えた方が楽です。


 同じような設定を思いつくのに時間を割くくらいなら、思い切って流用してしまいましょう。特に作らなかった(まだ作っていない)作品の設定は、今のうちに使っておくのもいいでしょう。いつか書ける日を夢見るより、いま最高傑作を書く方が重要ではないでしょうか。


 余談になりますが、私の「ブルーバード・レベルナイン」の場合、他の三つの企画から作りかけの設定を合流させています。(オンボード、レンの過去、国防陸軍、海鮮風の重機などは別企画の設定でした)


 設定は作者の写し鏡です、捨てることなく大切にしましょう



 ***



Q39.

 他の作者と設定を共有するのは?


A:

 私はいいと思います。シェアードワールドのように、多数の作り手で共有でき、楽しめる設定は最高だとも思っています。クトゥルフ神話やペリー・ローダンなどは、複数の作者による切り口の多様さによって一つの世界にかなりの厚みが出ています。積極的に共有を考えてみてもいいかもしれません。


 もし共有を考えている場合、他の作者の思いつきを阻害しない枠組みを作る必要がありますし、それは非常に難しいといえます。先に挙げたクトゥルフ神話の場合は、ラヴクラフト本人の設定がスカスカで、後年多数の追加設定が生まれたがゆえに共有が成されました。ペリー・ローダンの場合、作者の皆様は綿密に打ち合わせをして設定を擦り合わせるそうです。



 ***



Q40.

 設定だけはできたのだけど。


A:

 人間万事予定通りとはいきません。

 物語ができない! というときは、どんなに惜しくとも設定をある程度で打ち切りましょう。メモの山を整理し、一つのファイルに収めて寝かせておきます。きっとそのうちピッタリの物語が出てくるはずです。


 例えば「ハウルの動く城(小説)」の作者は、動く城という設定は早くに思いついたものの、十年近く物語が出てこなかったそうです。ある日ハウルが突然現れ動く城の主であると告げたことで、ピッタリの物語が生まれたそうです。



 ***



まとめ:

 主役は物語、設定は作者の化身です。

 作品をしっかり立たせるためにも、設定が一人歩きしないように気をつけましょう。


 労力をかける時は見合う結果が出るように、払った努力は捨ててしまわないように。どんな設定も巡り巡って無駄にはなりません。


さて、設定の始めから終わりまでを40問で考えていきましたが、いかがだったでしょうか。


もちろんじんべいの私見であり、こうあるべし、と人に言う気はありません。

というか設定の書き方なんて借者により千差万別なので、そこに踏み込む事はできません。


区切りがついたところで、次は番外「名前について」を挟んでケーススタディをやっていきます。

世界設定に当たってのごく基本的な要素をさらっていきたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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