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3.転:設定をひねる

 読者に面白いと思わせる設定。

 誰もが作ってみたいものだと思うのではないでしょうか。


 面白い、という要素にはいくつかの方向性がありますが、その中でも私がが注目しているものが「ひねり」です。設定におけるひねりとは他者と違う切り口であり、ケレン味です。

 

 例えて言えばカットされたリンゴでしょうか。

 ホテルの朝食などでウサギのようにカットされたリンゴをよく見かけますが、普通のクシ切りより美味しそうに感じませんか?

 設定も同じで、ある事象をそのまま引用するのではなく、作者なりに切り口を工夫することでケレン味が生まれます。



 ***



Q21.

 設定にひねりは必要なのか。


A:

 必要があるかどうかは、ひねりのない設定というものを考えてみるとわかりやすいと思います。典型としておとぎ話を使いましょう。


 桃太郎は英雄が悪漢を倒してめでたしめでたし、という物語ですが、その設定は実にひねりに富んでいます。まず何と言っても桃太郎が桃から生まれるという点です。あれは桃を食べた老夫婦が若返って作った子供だという説もありますが、どちらにしても英雄の出自に神秘の果物を噛ませることで、その段階から読者の目を引きます。他にも動物が喋る、悪漢は鬼という魔物など、ひねった箇所はかなりあります。


 もし桃太郎が単なる人間だったら。動物ではなく普通の子分を従えていたら。鬼が魔物ではなく盗賊だったら……。単なる郷土の英雄話がここまで広く普及すると私は思えません。


 私は、設定のひねりは物語にスポット的な魅力を与えると思います。全体を通しての魅力はストーリーが担いますが、その場面ごとに人目を引きつけるのは設定であり、そのためにはひねりが大活躍します。


 読者を引きつけるための、旅の例えを使うなら観光地の美しさを担うのがひねりなのです。



 ***



Q22.

 ひねりやケレン味を作る要素は?


A:

 私はひねりの大半が「意外性」によって成り立つと考えます。

 言葉を話す動物は意外です。鬼という魔物も、人が生まれる桃だって意外です。人は自分の知っているものが別のものに置き換わった時に興味を示します。方向は様々ですが。


 意外性のある設定はとにかく読者の目を引きつけます。例を挙げるなら、科学がある世界で魔法まがいの錬金術が隆盛だったり、銀河帝国の一角に魔法文明の星があったり、現代のイギリスに魔法使いの学校があったりという具合ですね。


 しかし設定において意外性は諸刃の剣となります。意外なものは、それ単体では「説得力」に乏しくなります。意外さだけでは人を納得させられません。成功した設定とは、つねに利かせたひねりに充分な理由を与え、驚いた読者を同時に納得させるものを指すようです。



 ***



Q23.

 「意外性」を作り出すには?


A:

 意外性を産み出すのは作者ですから、当然のように人それぞれ様々な手法があると思います。


 私は意外性を作ろうとする際に次のような事を試します。


 ・別の物に置き換える。

  科学→魔法の定番の他にも、言語や季候なんかも入れ替え可能です。


 ・逆転させてみる。

  前節のQ13で触れましたが、要素の逆転は基礎的な手口です。

  ひねり、という言葉からも連想しやすいですね。


 ・駄洒落のように言葉遊びから入る。

  私はときどき庭の世話を頼まれますが、ある時こんな言い間違いを聞きました。

  「メダカに水をやってくれ」

  メダカにエサを、の間違いだったのですが、おもしろいと思いませんか?

  魚に水を、樹木にエサをやる庭。まさにちょっとしたひねりです。



 ***



Q24.

 ひねりに「説得力」をもたせるには?


A:

 前節からの引き継ぎですが、基本となるのはツッコミです。意外そうな設定を思いついたら、それに数多くのツッコミを入れましょう。


 答えられない項目が多いようなら、いくら意外であっても使いどころは限られてきます。前節からの引き継ぎになりますが、作者のツッコミは設定の模擬面接です。あまり質問に答えられないようなら、採用するのはやめた方が無難です。


 またツッコミの回答は、できる限り他の設定の余白を使うといいと思います。前節の「嘘」の回答にあるように、不合理への理由の付け足しは際限なく膨らむ性質があります。説明のために新たな要素を作るなら、それは常に最小限を心がけるべきではないでしょうか?


 最後に、全ての回答が理路整然としている必要はないと考えます。案外へりくつでも収まる時には収まるものです。延々と悩むより、適度なところで手を抜きましょう。作るべき設定はまだたくさんあります。



 ***



Q25.

 他の作者、作品のマネは許されるのか?


A:

 「独創性」の回答でも言いましたが、全然問題はないと思います。

 ひねり方は人それぞれですから、気に入ったものがあれば模倣すること自体は悪くありません。自分一人の考えに固執するよりは、いろんな人から技法を盗んだ方が、結果的に上達するというのが私の考えです。



 ***



Q26.

 マネをする時の注意点は?


A:

 模倣自体は悪くない、と書きましたが、悪いと思える手法は私にもあります。


 絶対に避けなければならないのは「丸ごと拝借」つまり丸パクすることです。上辺の名前や要素だけ変えて他人のひねり方を「ひねりもなく」流用するのは、マネではなく盗作です。


 他人のやり方をマネしたいと思った以上、なぜマネしたいのかをよく考え、他者の技法をよく分析してください。特に人にマネをさせたくなる設定ほど、作者はじっくり考えて作っているはずです。それを上辺だけ取ってきても、中身が伴わないのではマネにすらなっていません。


 マネすべきは上辺ではなく、そのひねりに込められた作者の技法と精神です。伝統芸能を目で盗むように、盗む過程こそが設定を作る力の向上に繋がります。そして盗みきったと思ったなら、そこにあなたなりの「ひねり」を利かせ、我がものにすればいいのです。



 ***



Q27.

 神話や伝承、著名なドラマなどを出典に使ってもいいのか?


A:

 私は、当然いいと思います。


 既存のイメージは「共通認識」として使うことができます。「神の名」という力強い要素、「変身するヒーロー」の一般的な認識、「入院している恋人」という悲劇の土台。それらはすべて読者の「共通認識」であり、いちいち作者が説明しなくとも設定の雰囲気作りに使えます。


 出展を使う場合は、そんな共通認識を使いこなす事を意識すると設定が面白くなります。ストレートに使えは余計な設定を増やさなくて済みますし、逆にキツくひねることで意外性を演出できます。



 ***



Q28.

 出典を持つ場合、作品にどこまで組み込んだらいいのか。

 (陽雪さまより)


A:

 組み込む範囲については、作者の自由であると思います。


 例えば「アキレス」という戦艦があるとして、別に弱点がある必要はないですよね? 軍がギリシャ神話から名を取っているだけと言えばそこまでです。(にしても不吉な名前ではありますが)あるいは組み込みを増やし、弱点を突かれて轟沈する設定でも面白いと思います。


 注意すべき点があるとすれば、どんな引用であっても原典を自分なりに理解する努力は必要だということです。

 名前の語感だけ、雰囲気だけ、設定が楽だからなど、安易な取り込みは作品を安っぽくしてしまいます。例えば神話を原典とするなら最低限その大筋を追えるだけの読み込みがないと、流用に説得力が生まれません。前の例を引くなら、不朽であるべき戦艦にアキレスと付けるだけの理由を作る必要があります。


 ヒーローものをベースにしておきながら徹頭徹尾ちゃちで情けないヒーローが出てきた場合、あなたは釈然としますか? 悪の組織を書きたいからという言い逃れは通用しません。善ありての悪、悪ありての善です。悪が派手に活躍するなら、善もまたそれに拮抗するほどでなければ。少なくともヒーローと呼べるだけの何らかの理由が必要です。


 ですから組み込みの範囲よりその深さ、理解こそが重要だと私は考えます。



 ***



Q29.

 ひねりが平凡だと思ったら?


A:

 私は自分から見て設定が平凡だと思ったら、いったんトコトンまで尖らせます。人目を引きそうな派手な特徴を付与し、どこかの要素をギンギンに目立たせてやると、その他がわりと平凡でも何とかなるかも知れません。


 例えば最近、終末後サバイバル防衛のジャンルが流行ったりしましたが、成功作と呼べる作品ほど一部分が突出しているように感じます。雲を突くような巨人が攻めてきたり、くどいほどSFとロボットを強調したり、戦うのを幼女に限定してみたり。


 平凡さを隠す、というより和らげるためには、作者から見てオーバーなくらいケレン味を突き詰めた方がいいように思われます。



 ***



Q30.

 仮に尖らせたとして、注意するべき点は?


A:

 他の設定との釣り合いをないがしろにしては、尖った設定もただのお飾りです。


 どこかが尖ったなら、同じだけどこかが凹みます。あまりに敵が強大すぎて死者続出、戦う存在が異質すぎて差別される、などなど尖った点に見合うだけ凹みを作らないと、設定は単なる八方美人になります。主人公がチート能力を得るなら、それでも物語が成立するだけのウィークポイントが必要だと思うのです。


 いかなる時でも「説得力」を見失わないように気をつけ、物語を損なうような尖り方はさせないように考えましょう。



 ***



まとめ:

 ひねりやケレン味は読者を物語に引きつけ、引き留めておくだけの力を持ちます。

 

 ひねりの重要な要素に「意外性」があります。思いこみを破られると人は注目しますが「説得力」がなければ使いどころが限られます。


 人のマネや、何らかの引用をする時は原典をよく理解しましょう。薄っぺらい引用は設定の足を引っ張ります。

 

 尖った設定には同時に引っ込んだ部分が必要です。「説得力」に気をつけ、物語の釣り合いを失わないように。

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