1.起:設定をはじめる
第一部は「設定、起承転結」と題し、設定の始めから終わりまでを通して探っていきます。
なお、質問を作るに際して多数の方からご協力をいただきました。
皆様、本当にありがとうございます。
採用した質問には質問者さまのお名前を添えさせていただきます。
まずは取っかかりの部分から始めていきましょう。設定とはいったい何で、どこから手を付けたらいいのか。それを十の質問で見ていきす。
では早速まいりましょうか。
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Q1.
そもそも設定って何なの?
A:
私は設定を、作品の肉であると考えます。骨に当たるのはストーリーやプロットです。
物語をしっかり立たせているストーリーにくっつき、作品をより魅力的に見せるために設定があるわけです。
どんな美脚も骨だけでは美しくありません。適度に肉を付けることで、作品全体がより魅力的になる。その手段が設定だと思います。
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Q2.
ストーリーやプロットと設定はどちらが先か。
(GAUさまより)
A:
私の場合、あらすじやプロットは設定に先んじてある程度作ります。
先にも書いたように、作品をしっかりと立たせるのは物語の役目です。
肉だけを盛っていくと、どこまで盛ったらいいのか、どう整えればいいのかがわかりづらく、時間ばかりかかって書き始められないことも多いです。
設定する範囲の目星を付けるためにも、主役は物語ということを絶えず念頭に置いています。
ただしこの順序は絶対ではないです。特に、書きたい作品の傾向やテーマによって先に設定から入ったほうが楽という事もあります。
具体的には、アドリブで展開する小説や大河ドラマ、シェアードワールドなどがそうです。これらは世界そのものがドラマを作り出すので、設定から作った方がかえって楽になります。
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Q3.
設定はどこから組み始めるのか。
(pecoさまより)
A:
一番最初に取りかかるのは大枠です。
大まかな部分は最初にざっと(一日ぐらいで)考えてしまいます。まだ細かいことは何も決めずに「A国とB国は仲が悪い」みたいな数行のメモで収まる範囲です。
そして決まり次第、やおら最も細かい部分から、ストーリーという骨に接する部分から組んでいきます。
大枠から掘り下げる方法には時間と根気が必要ですが、小さな部分から積みあげていくなら、万が一途中で止まっても書き始められますし、それでもある程度は見栄えします。さらに決めてない部分は書かないという選択肢も取れます。
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Q4.
どの程度の組み上げ、掘り下げが必要か。
(pecoさま、GAUさまより)
A:
私の基本的なスタンスは「時間が許す限りどこまでも」です。
たとえ読者の目につきそうにないところでも、ふとした拍子に描写に盛り込むことで字数や行数が稼げますし、空気感の演出に使えます。
ただしあくまでも時間が許す限りです。
一つの作品にかける時間には限りがあるので、肉付けもある程度で止めます。
私の場合、とりあえず先に作った物語に合わせ、目につくところを埋めたらひとまず区切りをつけて本文に取りかかります。余裕ができたら(あるいはヒマな時に)細部をじっくりと仕上げにかかりますね。
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Q5.
作った設定は書いておくのか?
A:
記憶力に抜群の自信がない限り、書いておいた方が無難だと思います。
それに書くという行為によって新しい発想が生まれることもあるので、私は書くことを推奨します。
書きとめる際には、細部まで書かずに段階的にメモを重ねていくと楽です。
私が普段使用しているのはこんな書き方です。
例:設定ノートより抜粋
世界〈ふりがな:ゲ・アルグ〉
水没地帯の多い異世界
水位が上がった原因は不明だが、温室効果が発生している
(海面積の上昇によるアルベドの減少が主原因か?)
人類の生息域はおおむね温暖湿潤、雪や氷は極地でしか見られない
嵐や雷雨など天候が荒れる時は本当に酷いんじゃないか?
〈余白〉
大陸は数えるほどしかなく、おまけに狭い
海に依存した文明が発展している
〈余白〉
塩害があるため穀物はほぼオオムギ、根菜は少なく葉物が中心
トマト(に似た何か)は水分としても重宝される
(塩害や高温に強く、水分量が多い)
改行はトピックごとに、空白は項目の親子関係で開けます。
いつでも書き加えられるようにしておくのが大事です。疑問符で終わってるツッコミや補足などが入れやすくなり、いろんな段階で重宝します。
肝は余白とツッコミです。次の節で詳しく語りますが、どの段階でも余白とツッコミは設定の命綱になります。
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Q6.
設定資料集は必要か?
A:
私は基本的に不要だと思っています。
旅行の例に直すなら、添乗員がいるのにガイドブック無しでは楽しめないツアーは明らかに変です。想像の世界のツアーガイドとして、作者は設定資料集無しで楽しめる旅を目指すべきではないでしょうか。
設定は作者のためのもので、読者のための物ではありません。
登場人物が多くてややこしい場合にはハヤカワSFなどの人物紹介ぐらいでも役に立ちます。
わざわざ細かい点を見せびらかしたり、時間を割く必要はないと考えます。
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Q7.
設定にはリアリティ(現実感)が必要では?
A:
よく「設定にリアリティがない」という言い方がされますが、私はこの言い方があまり好きではありません。なぜかというと、リアリティ(現実感)という言葉の範囲が曖昧だからです。
現実に則するという意味なのか、それとも説得力があるという意味なのか。
ちなみに私は現実に則するという意味のリアリティは必要ないと考えています。想像で組み立てた世界を現実という枠で固めてしまったのでは、せっかくの想像が窮屈でかわいそうです。
しかし説得力であれば、これは十二分に必要であるとも思います。説得力がなければ、想像は妄想と同じでどこか空々しく、空疎になってしまいます。
現実に縛られず、しかし読者を納得させられる設定。
それこそがリアリティのある設定ではないでしょうか。
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Q8.
現実とファンタジーの共通点、そのちょうどいいバランスは?
(旋風寺勇気さまより)
A:
世界をどの程度ファンタジーにするべきか、また書く際にどの程度反映させるべきか。私は書きたい作品によって違ってくると考えます。
世界を書きたい物語ならファンタジーを強くした方が迫力がありますし、ドラマを書きたい物語ならほどほどにしないと字数を食います。
ここでも旅の例えを引きますが、二泊三日のパックツアーで添乗員がしゃべり倒すようでは旅行客はたまりません。かといって数年以上のロングステイでガイドブックがないのは困りものです。
設定の分量、設定の塩梅も似たようなもので、語られる物語の密度によってずいぶん変わってきます。なので一概にちょうどいいという塩梅はないと思った方がいいかもしれません。
ただしどんな場合でも「人間のドラマである」という共通点はしっかり押さえるべきでしょう。人間関係に説得力を持たせればハイスペックなファンタジーでも受け入れられるはずだと、私は思っています。
再三になりますが、設定は読者ではなく作者のためのものです。
設定のちょうどいい塩梅とは、すなわち作者が一番使いやすいバランス、ということになるでしょうか。
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Q9.
ジャンルごとに設定に違いはあるのか?
(pecoさまより)
A:
私はあると考えます。
どこが異なるかというと、ザックリ言えば範囲と深さです。
現代を舞台にしたフィクションの場合、わざわざ字数をかけて現代社会を語る必要はありませんから、範囲は小さくなります。逆にボリュームのあるハイファンタジーでは、世界そのものが創作として意味を持つので設定の範囲は広くなります。
そしてローファンタジーなどでは「ここだけが現代と違う」という書き方をするので、設定の深さ、作り込みの密度が低いと説得力に響きます。逆にハイファンタジーやスペースオペラでは「世界全体が違う」ので、細部はある程度ぼやけてきます。
設定は現実に近づくほど狭く深く、離れるほど広く浅くというのが、私の考えるジャンルの違いです。
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Q10.
設定でジャンルが複合してよくわからない場合どうすれば?
(陽雪さまより)
A:
あくまでも私見ですが、読者の先入観を裏切らないようにジャンルを分けると楽ができます。
例えばファンタジーを掲げて中身がSF寄りだとします。
この場合、SFというのは科学という大枠を使ったファンタジーとも呼べるわけで、少なくともウソはついていません。最悪でもサイエンスファンタジー、すこしふしぎ、などの言い逃れができます。
逆にSFの旗を立てておいて中身が剣と魔法のファンタジーだとすると、よほど上手く立ち回らないかぎり読者は違和感を拭えません。科学といいつつ科学の香りがしないのでは、続きを読ませるのは至難の業です。
設定としてジャンルが複合してしまうと思ったら、作者の言い分より読者の先入観を優先する方が、より書き手にとって楽だと思います。
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まとめ:
設定は物語という骨に付ける肉です。
作品はまずストーリーでしっかりと立たせましょう。
全体の体型が決まったら細かく骨に盛っていくと、設定の一人歩きや頓挫が少なくて済みます。基本は細部から、それも物語で絶対目につく場所から。
書きとめる時は他人に見せる事を意識せずに。メモを積み重ねるとあとで重宝します。リアルかどうかより説得力の有無が大事です。
ジャンルの違いは設定の広さと深さ。現代的なほど狭く深くしていきます。
ジャンルで迷ったら読者の判断を取ると楽です。