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取材M班

取材M班

「おい魔王!今度こそ決着をつけるぞ!」


勇者は抜け身の剣を、豪奢なイスに足を組んで座る魔王に向けた。すると魔王がそれに不敵に笑みかけたそのとき、魔王の部下であるバルドがさっと魔王の前に立つ。


「これしきの勇者、魔王様がお手をわずらわせるほどのものではありません」

「お……」

「このバルド、勇者など魔王様に指一本触れさせませんぞ!」


そう叫ぶと共に、魔族の中でも魔王の側近の中でも武闘派であるバルドが剣を抜き、勇者に切りかかると思いきや魔術でサンダーブレードを落とし、その直撃を受けて勇者は倒れ伏した。


実にこの一週間で32回目の絶望を浮かべた魔王の顔を私はみた。









魔王の広い私室にて、レポーターは魔王にマイクをむけた。


Q.今回も魔王様が手を出すことなく、勇者を撃退しましたね!今のお気持ちをきかせてください。


「……。なぜ……。なぜ勇者は強くないのだ!聖剣に選ばれし勇者であろう?余を封印する男であろう?なぜ側近如きで負ける!」


執務机に顔を伏せ、魔王は子供のように机をたたく。


Q.勇者が強ければ、魔王様は封印されてしまうのですよね?いいんですか?


「いいに決まっておるだろう!余が封印から目覚めてから約三年。その間ずっと、ずうっと勇者の到来を待っていたのだぞ!」


Q.そうだったんですか?!


「あたりまえであろう!みよ!この悪霊に取りつかれたような隈の刻まれた顔を!」


魔王はさっと化粧落としのコットンを取り出すと、美しい黒髪を後ろに払い顔を拭いた。そのあと現れたのは、どす黒くもはや紫がかっている隈だった。その外見は今までみていた男とは別人だ。


「この美しい余の顔に刻まれた隈!もともとこの美しすぎる顔のせいで魔王らしくないといわれてきたが、この隈のせいで魔王どころか余は幽鬼のようではないか」


Q.確かに。夜中に出て来られると叫んでしまうレベルですね。魔王と幽鬼の違いがいまいちわかりませんが。しかしまた、どうしてそんな隈が?


「魔王と幽鬼を一緒にするな!あちらは死者の国の住人であろうが!……閑話休題、決まっておるだろう。ここ数年眠っておらぬからだ!」


Q.それはいつ勇者に倒されるかと思うと不安で眠れないということですか?


「そういうことならばよかったのだがな!残念ながら違う!もともと余は睡眠不足だったのだ!というか、この部屋の惨状をみればわかるであろう?」


私は魔王の広い部屋をカメラで写す。高級そうな調度品と、ふかふかの絨毯がある部屋だ。


Q.とても趣味のよい綺麗なお部屋ですね。それがなにか?


「そなたらの目は節穴か!みえぬのか?このそこそこ広い部屋に山と積まれた書類が!」


Q.ああ、そっちですか?


「うむ。そっちだ。余は仕事が溜まりすぎて眠れぬのだ!千年前も、今もな!」

「当たり前でしょう」


その両手にはまたたくさんの書類を抱えたバルドが、ノックをしたあとするりと入ってきた。


「もともとは魔王様、あなたの自業自得からはじまったのですよ」


Q.自業自得というのは?


「うむ。今から千年前。巷では魔王と勇者の戦いがはじまったとされる頃だな。実は魔王様はデスクワークが苦手でな。あのときも大量の書類をためこんでおられた。そのため当時の宰相が魔王様を軟禁し、書類処理に駆り出したのだ。ところが、いくらやっても終わらぬその作業にストレスが溜まった魔王様は、ついに爆発してその体に秘められたこの世の生物の誰よりも大きなその魔力を解放してしまわれたのだ。これが人間達に伝わっている、魔王の世界滅亡政策開始であるな」


バルドはしっかりとカメラ目線で自分が映る角度を気にしながら話す。



Q.ほう!では私達が知っている魔王と勇者の戦いの話は嘘であると?


「嘘というよりは勘違いだな。あれはただの鬱憤晴らしで、魔王様にその気はなかった」

「世界滅亡といっても、ちょっと大陸の半分吹き飛ばしただけではないか。それを世界滅亡政策の開始など、勘違いも甚だしい」


Q.いや、それは勘違いされても仕方ないと思いますが。それで勇者が魔王様を封印する旅が始まったのですね?


「そうだ。人間の国の王が余を封印しろと、聖剣に選ばれし者に依頼したのがはじまりだな」


Q.これは私達は歴史的に重要な話をきいているのではないでしょうか。教科書の内容が変わりますね。それで、なぜ魔王様は勇者を心待ちにしていらっしゃるのですか?


「それはもちろん。寝るためだよ」


Q.寝るため、ですか?


「余はもともと寝付きが悪くてな。眠りに落ちるまでに時間がかかるのだが、眠ること自体はすごく好きなのだ。そして封印は余に強制的に眠りをもたらす。余にとってはちょうどいい睡眠薬だな。しかも一度眠れば誰にも邪魔されない。だが封印から目覚めて三年、余は一睡もしておらぬ。眠らずとも余は死なぬから、部下共が余を眠らせてはくれぬのだ」

「当然でございましょう。魔王様が最後に封印という眠りの世界に逃げ込んでから約367年。その間に溜まった仕事をこなしてもらわなければ困ります。再封印されたらまた次の目覚めまで、仕事は持ち越されてしまうのですから。これ以上遅れると城の機能が停止してしまいます」


Q.それは魔王様がしなければならない仕事なのですか?他の方が代理でやるとか……。


「そうだそうだ!」

「魔王様は黙っていてください!基本的にこの部屋にあるのは魔王様自らやらねばならない仕事なのだ。その他は部下が総出ですでに処理している。もとは宰相が魔王様の代わりに仕事をしていたのだがな、2人で処理すべきものを魔王様が封印されてしまったために1人で処理しなくてはならなくなってな。あまりの仕事の多さに心が折れて、書置きを残して家出した。いや、この場合城出か?」


Q.ああ、その宰相さんお気の毒ですね。


「そうであろう。彼の者は私の親友でな。今では連絡もとれないのだ。非常に残念である。というわけで、魔王様。我ら魔族は簡単には勇者にあなた様を渡しはいたしませぬぞ。あなた様がこの部屋の仕事を終わらせるまで、死ぬ気で魔王様をお守りいたします」

「うわー、やめるー。魔王なんてやめてやるー!」


魔王は長い髪を振り乱し、逃げようとして書類につまづき転んだ。


Q.もしや勇者の旅の中で立ちはだかっている、世にいう中ボスと呼ばれる方たちは、勇者を魔王様に近づけないための足止めですか?


「そのとおりだ。少しでも遅らせなければ、仕事が終わらぬからな」


「ううっ。どうして今代の勇者はバカなのだ。何度バルドに負けてボロボロのままで、再び魔王城に挑戦するとか、バカとしかいえないであろう。こっちはなんとしてでも勇者に生き延びてもらわねばならぬから、死ぬ気で負けた勇者を宿屋に転送しているというのに。なんのための宿屋だと思っておるのだ。充分英気をやしなってから再挑戦がふつうではないのか!」


Q,ああ、なるほど。毎回勇者をわざわざ生かしたまま転送していたのはそういうことだったのですね。


「あー、魔王様。勇者が再びこの城に入ったようですよ」


気配を感じ取ったバルドが魔王にいうと、魔王は目をキラキラと輝かせた!


「なんと!もう来たのか!では早く用意せねば!」


魔王はさっと化粧セットを取り出すと、隈を隠すために顔に化粧を施す。


Q.それにはどんな意味が?


「うむ。余が隈だらけなら勇者が気の毒に思って手加減してしまうかもしれぬだろう?それではこまるからな。余が健康体であると示さねば」


その言葉に、バルドがそっと補足する。


「魔王様はなんやかんやいって、勇者と戦うのは楽しみにしているのでな。体を動かすことはお好きゆえ」


Q.なるほど。苦手なのはデスクワークですもんね。




「勇者よー!早く魔王の間まで来い!早く余を封印してくれーーーーー!」



部屋から飛び出す魔王様を追って、われわれ取材魔王班は、重いカメラとマイクをもって全力疾走した。



この魔王と勇者の一週間に及ぶ因縁の決着がつくのをみとどけ、世の中の教科書の内容を変えるほどのネタを持ち帰るために。絶対に取材勇者班には負けない!












というわけで、魔王様は睡眠不足。実は封印されるのを望んでる!みたいな話をかいてみました。しかも取材風に。


このネタは私の拙作である勇者だが、勇者なんだが、勇者だけど…!のボツにした結末案のうちの一つです。あちらの主人公が不眠症で悩む魔王を助けるために封印を施す、というのを考えたりしました。現在はまったく違う話を結末に設定しています。まあ、くだらない終わり方という意味では同じかもしれませんが。


ここまで読んでくださった心の広い読者様、ありがとうございました。

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