取材Y班
取材Y班
「おい魔王!今度こそ決着をつけるぞ!」
勇者は抜け身の剣を、豪奢なイスに足を組んで座る魔王に向けた。すると魔王がそれに不敵に笑みかけたそのとき、魔王の部下らしき魔族がさっと魔王の前に立つ。
「これしきの勇者、魔王様がお手をわずらわせるほどのものではありません」
「お……」
「このバルド、勇者など魔王様に指一本触れさせませんぞ!」
そう叫ぶと共に、魔族の中でも魔王の側近の一人であるバルドが剣を抜き、勇者に切りかかると思いきや魔術でサンダーブレードを落とし、その直撃を受けて勇者は倒れ伏した。
実にこの一週間で32回目の敗北であった。
宿屋の庭にて鍛錬を続ける勇者に、レポーターはマイクを向けた。
Q.今回も魔王を封印できなかったわけですが、今のお気持ちはいかがですか?
「すこぶるいいな。俺はまだまだ強くなれる!」
勇者は剣を振る手は止めず、だか爽やかに笑って答えた。
Q.次回は必ず勝つと?
「いや、無理だろう。側近にでさえ手も足もでないんだ。だんだん攻撃は見切れるようになったが、体がついていかない。もっと鍛練しないとな」
Q.では、勝てないのになぜ挑みにいくのですか?
「うーん、知りたいから、だろうな」
勇者は何度も振っていた剣を鞘に納めて腹筋を始める。
レポーターはあわてて勇者の足を掴み、手伝いをした。
「魔族の連中は本気で俺を殺す気で攻撃してくる。だけど毎回、側近が殺そうとするのを止めて、魔王城から最寄りの村の宿屋まで回復させて送ってくれるんだ。魔王がやってるんだろう?」
勇者は戦いの一部始終を間近で撮り続けているカメラマンを振り返った。
私はうなずく。
Q.確かに。私達取材班も丸ごと送ってくれますね。では、その理由を知るために戦いにいくのですか?
「もちろん、この世界のためでもあるぞ。魔王を倒さないとこの世界が滅びるって話だし、俺の家族は魔族に殺された。まあ、ろくでもない親だったけど、魔族ってのは危ない奴だと思う」
Q.魔族を、憎んでいると?
「どうだろうなー。俺自身はよくわからん。みんなが魔族は悪っていうから、みんなからしたらそうなんだろうなー、と思うくらいかな。俺はバカだからな」
Q.そうですね。死にかけても何の装備も手当もせず魔王城に挑んでなおかつ魔王の間までたどり着くのに、そこに行くまでに体力使い果たして32回同じ会話して負けて宿屋に戻されるあなたはバカですね。
「おい!それ質問じゃないだろ!」
Q.そういえば、16回目の挑戦で負けたときから宿屋に送り返されるときに、回復されるようになりましたね。なぜでしょう?
「さあなぁ。でもきっと、俺は呼ばれているんだろう。魔王に。側近であれだけ強いんだ。今から戦うのが楽しみだな」
腹筋を終えた勇者はみすぼらしい見た目の、その実聖剣である自分の愛剣を取り、立ち上がった。
「さて、準備運動も終わったし、いくか!」
我々取材勇者班も、それぞれにかえのテープとカメラ、取材メモとマイク、その他諸々を詰め込んだ鞄を、もって立ち上がる。
俺たちの戦いはまだまだこれからだ!必ずや勇者と魔王の互角の戦いを撮り、視聴率をゲットするのだ。