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【昭和刀の斬れ味 9】

 前回の話は試斬に自信のある方や太い仮標の試し斬りに秀でている方々には相当ご不満だったと思います。確かに、半分以上は小学生でも出来そうな試し斬りの内容でしたので、退屈された方も多いと思いますが、今回は、更に軟弱な内容の話で『紙、斬り』の話です。


 まず、何時ものように失敗した話から致しましょう。30年近く前、新聞紙を3cm位に丸くして試斬の台の上に立て、刀を4振(末古刀、新刀、昭和刀、現代刀)用意して袈裟で斬りました。

 所が、斬れる刀2振と斬れない刀2振の二つの傾向が出てきて、不思議に思ったのが、昭和刀の斬れ味を考える始まりだったような気がします。


 良く斬れたのが末古刀と新刀で、斬れ味の悪かったのが昭和刀と現代刀でした。事前の試斬では、巻藁や竹に対して昭和刀と現代刀の方が良く斬れた記憶があるので、不思議に感じた記憶があります。

 今一つの斬れ味が悪かった2振りの刀の昭和刀と現代刀の差は、長さ以外には殆ど無く、刀の横手下の身幅も2.2cmと広く、両刀共に鍛錬は少し荒く大板目の肌に、刃紋はのたれに互目足の入った刀でした。


 巻藁2本を左右に立てた連続斬りにも、真竹の袈裟斬りにも安心して仕える両者でしたが、柔らかい新聞紙の試斬では、上記のように余り良い結果を示せませんでした。これは、

仮標が段ボールや新聞紙一枚に替えて、それを袈裟や水平で斬った場合も同様の結果だった。


 良く斬れた傷身の末古刀と新刀の方は、古刀が数打の備前長船、新刀が関系の有名刀工の偽銘刀でしたが、両方共に研ぎ減って重ねの薄くなった刀で、研ぎも戦前と思える古い研ぎでした。

 強いて両者の違いを探してみると差異は研ぎ上がりの状態と『寝刃』位の気がしました。末古刀と新刀は綺麗に研ぎ上がっているのに対して、昭和刀と現代刀は藁用の寝刃で改正砥石を用いて試斬用に少し粗めで合わせてあった記憶があります。


 そこで、昭和刀と現代刀で斬った新聞紙の切り口を丹念に見直してみると、何処かザラ付いているように見えた。確かに、末古刀と新刀の切り口もザラ付いてはいるが、ザラ付き具合が今ひとつ小さいように感じたので、数日掛けて、両方の刀を中名倉と細名倉の砥石で、時間を掛けて、再度、寝刃を合わせてみた。


 結果は、あっけない位、単純に答えがでた。寝刃を直した昭和刀、現代刀共に今までの結果が嘘のように巻いた新聞紙が良く斬れたのである。どうも、紙を上手に斬る為には、当時は知らなかったが、竹や巻藁用の少し粗めの寝刃では不十分で、しっかりと細名倉の砥石で最終に近い程度まで寝刃を合わせておく必要があったのである。

 その後、細名倉砥を用いて、しっかりと最終的に寝刃を合わせた刀は、竹や巻藁の試斬に使用しても、何処か、刃筋が合った時の斬れ味が、粗砥で寝刃を合わせた刀よりも、今一つ上の斬れ味のように私は感じている。


 末古刀から現代刀まで4振の刀のどれもで、新聞で造った筒の袈裟に成功した後、再度、4振の刀の斬れ味の相違を詳細に検討してみた。

 そうすると、やはり、4振の刀に微妙ではあるが若干の差が感じられた。末古刀と新刀は切り終わった時の残心の段階で、抜けがスムースに感じるのに対して、昭和刀と現代刀は製作年代が新しく、刀身が健全で物打の重ねが厚かった関係か、抜けが若干ではあるが悪かった印象だった。


 そう言えば、以前、友人が鎬の肉を落として研いだ昭和刀でスパスパ斬っていたので、借りて斬ってみたが古刀と同様の抜けだったことを思い出した。

 多分、皆さんが現在、試斬に常用している昭和刀も、後、百年も立つと地金の鉄も落ち着いて、若干、研ぎ減って重ねが薄くなり、この時、試した末古刀や新刀と同様、「抜けの良い」刀に変身するのかもしれない。


 さて、昭和刀の紙に対する斬れ味は、刀身の出来と寝刃だけが100%の原因かと考えると、どうも単純にそうとも言えないような感じが私には有る。

 腕達者の皆さんはそうでは無いと思うが、私の場合、特に、大判の紙の真直斬りや水平斬りの場合、そう感じたので、その後、コピー用紙、上質の包装紙、書道用の和紙等を色々と当時、試してみた。

 けれども、昔の記憶を掘り返してみても、最終的に、残念ながら私の所持していた当時の昭和刀では、末古刀、新刀レベルと同等の斬れ味の満足行く斬れ味を味わう事が出来なかった思い出がある。


 多分、多くの刀匠や刀剣の先輩達のおっしゃるように、「刀は良い地金が第一、次が鍛えと秘伝の焼き入れ」の言葉のように、昭和刀にも新々刀並の良い地金の刀が無い訳では無いが、新刀、古刀に比較すると、その時代全体の刀に対する良質な地金の刀のパーセンテージは、鎌倉時代の古刀をピークにして、時代が新しい程、低下傾向にあるように聞く。

 しかし、新刀以降は同様な玉鋼を用いているので、新々刀鍛冶に出来て、昭和の刀鍛冶に出来ないはずも無いので、きっと優秀な昭和刀に巡り会う機会もあると信じている。


 その後、何年も紙斬りをしなかったが、先日、後輩の紙斬りに付き合った折りには、以前と同様に昭和刀と共に新刀と古刀でも斬らせて貰ったが、長い年月のブランクがあった割には気持ちよく抜き打ちで水平が斬れたので、少々安心した心境である。

 しかし、20数年振りの紙斬りを冷静になって振り返ってみると、残念ながら、現在の所持刀の範囲内では、年月の割には所持する昭和刀のレベルは当時とそんなに変らず、新刀や末古刀の試斬に用いる刀のレベルの方が逆に少しだけ高くなってしまった(笑い)ように感じている。

 しかし、それ以上の問題点は、私の紙斬りに対する練習が足りなくて、刀の時代的な比較をするのに十分なレベルに腕の方が追い着いていない点だろうか。(笑い)


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