【昭和刀の斬れ味 7】
最初に述べたように、靖国刀や満鉄刀、高名な作者の昭和期の刀を実際に試していませんので、残念ながら昭和刀の斬れ味に関する総合的な所見は出せません。しかし、軍刀用に大量生産された本鍛錬の刀に関して、ある程度の数の刀の試斬体験が出来た事は、貴重な経験だったと考えている。
そこで、私の狭い経験範囲内に友人関係から聞いた内容をプラスして、斬れ味を中心にした昭和刀の良い所を箇条書きにして上げてみたい。
1)製作年代が最も新しい為、身幅も広く、重ねも適正な刀身が多く研ぎ師に斬れ味が納得出来るまで研いで貰い、充分斬れ味を試す事が出来た。
2)何よりも製作して百年以内の健全な刀身が、在銘で市場に多量に安価に存在する昭和刀の存在は、入門用として有り難かった。
3)反りは標準的に5分~6分(約1.5~1.8cm)の物が多く、極端な棒反の物や古い古刀のように極めて反りの深い刀が少ない為、使い易く、実際に連続斬りを行なっても捌き易かった。
4)中心(茎)の長さが新々刀に似て20cm程度と長い刀が多く、柄を握っていて安定感があり、両手使い、片手使い共に安心して斬ることができた。古刀の場合、時として、末備前のような短い中心の刀があって、握っていて不安定な気がする場合がある。
5)健全な古刀、新刀、新々刀の刀身を試斬に用いるのは、日本古来の伝統ある美術品を後世に残す意味からも問題が多いが、昭和刀の場合、罪悪感が無い。(笑い)
6)江戸時代の拵え附き刀と違って、斬れ味に関連する刀の外装を自分の好みで作成でき、柄の長さや太さも自由に変更できる強みがある。
等の意見が上がった。一方、昭和刀の問題点としては、刀身の長さの短さと刀身の肉の付き具合を中心にした意見が多かった。
1)試斬に適する刀身の希望として、2尺3寸~2尺5寸(約70~76cm)の長さ を希望する方が多いので、最大の問題点が、野戦を想定した比較的短めの昭和刀の長さで、もう一寸欲しいとの声が多かった。
2)昭和刀の2尺1寸余~2尺2寸余(約64~68cm)の寸法は、年少者や女性、小柄な成人男子には向くが、一般男性には短すぎるし、特に、最近の大柄な青年には不向きである。
3)研ぎ減りのない昭和刀の刀身、特に平肉のたっぷり付いた刀身は、試斬に向かず、健全な最初の段階で斬れない場合が多く、研ぎ直して、良く斬れるようになった。
4)外装も軍刀外装か白鞘、あるいは錆びた刀身だけの裸身で保存されている場合が多く、新規の打刀外装を作成する必要が試斬の場合、生じ苦労した話が多い。
等々、色々な意見があった。
その他の意見として、前にも少し触れたが、昭和刀全体では刀身形状(鎬の高さ)、中心(茎)形状共に斬るのに適した姿が多いとの結論だった。
但し、そんな中で、少数ではあるが古い太刀姿の写し物らしく腰反りが異様に強い中心の短い刀だけは試斬用として評判が悪かった。
平安、鎌倉期の古名刀の太刀を写した腰反りの強い茎の場合、正眼に構えても刀の重心が何処か不安定な感じがして、試斬の折りも刃筋が通しにくかった。また、拵えを造った鞘師の話では、
「通常の刀と違って柄造りが難く、満足する出来にならなかった!」
との事だった。刀自体は無地風の地金に古風な小丁字の刃紋だったが、試した所、斬れ味は何れの刀も好ましく無かった。正直に言うと畳一枚巻きが袈裟で両断出来ず、僅かに残った記憶がある。
もっと斬れ味に直結する刀の地金の良さの判断や鍛錬の良さの判断は、専門外なので省略するが、購入時に大きな刃こぼれの有った刀や新しく寝刃を合わせた経験の範囲で、若干、焼刃の良否を個人的に考えてみたい。
現代刀もそうだが、昭和刀でも大きな刃こぼれを修正するためにヤスリを掛けてみて、ヤスリが滑るような刀で斬れ味の良い刀は今までの所無かった。
通常の状態の昭和刀では、私の場合、寐刃は改正砥から始めて順次合わせていく。改正砥で最初刀身を当たってみて、鉄が粘っこく感じる刀は、結果的に斬れ味が優れている刀の場合が多い。
また、個人的な感想で余り根拠が無いが、昭和刀の場合、鍛錬回数の多い、良く鍛錬されて無地風になった刀よりも、鍛え肌が粗くて、大板目や流れ柾が目立つような鍛錬回数が少なく見える刀身の方が斬れた経験がある。
その他には、水戸系のような流れ柾目の強い地金の刀の方が手の内の悪い初心者でも、曲がる事が少ない。特に、腕っ節が強く体力に自信があり、曲げるのが得意な初心者には好ましい気がする。(笑い)
以上、私の狭い経験範囲内と親しい友人と会話した昭和刀の斬れ味に関連する刀身形状の印象である。説明不足の点が多かったと思いますが、ご参考になれば幸いです。