【昭和刀の斬れ味 6】
さて、本題の昭和刀の斬れ味に直接関係する刀の外装に話を戻しましょう。
今回は、実際に所持する昭和軍刀の中から、98式外装を打刀拵に改装した前後での斬れ味の変化を中心にお話ししたいと思います。
手元にある昭和の陸軍軍刀の刀身の寸法と外装特に柄の大雑把な寸法を次に示します。この刀身と外装は戦前から戦中に掛けて岐阜県の関市で同時期に製作された物です。
刀の長さ : 64.0cm 、 茎(中心)長: 23.0cm
元身幅 : 3.12cm 、 元重ね : 0.80cm
先身幅 : 2.15cm、 先重ね : 0.51cm
外装の柄の長さ : 25.2cm、 鞘の長さ : 75.0cm
縁金具の所での楕円形の柄糸の外形寸法ですが、長径約37.3mmx短径約23.0mmです。短径の23mmは捻巻きの高い所の寸法ではなく、平均的な径(厚み)です。
全体の印象としては、薄錆はあるものの健全な刀身で、特に、重ねが通常よりも若干厚目の感じを受けたので、斬った時の刀の抜けを心配しながら軍刀での試斬に入った。
最初にこの軍刀外装のままで、畳表一枚巻きの巻き藁を斬ってみました。軍刀外装ですので袴に差す訳にもいきませんから鞘は抜いて、道場の片隅に置いて試斬を始めたのですが、柄も8寸余と長く手持ちも問題ありません。両袈裟を普通に斬って、次に逆袈裟に移りましたが、これも特に、違和感無く斬れました。重ねの厚さで心配していた抜けも問題ありませんでした。
袈裟、逆袈裟共にきれいに両断できましたが、軍刀拵を握った時の手の触感から個人的な印象を述べると、右手は良いのですが、左手が半太刀拵の兜金に掛かってしまい、巻き藁切断時の手の内に若干違和感を覚えた程度でしょうか!
次に、水平に挑戦してみたのですが、これには失敗しました。
この軍刀も、多分、打ち下ろし状態でもたっぷり平肉をとって製作されたと想像されます。研磨時の寝刃の状態も多分陸軍の試験を考え合わせて研磨されたと想像できるふっくらした形状でした。
斬る前の印象として、古刀や新刀に比較してやや平肉が余分に付いている感じがありましたので、
「水平は無理かな!」
と思った。
結果は、予想通りの失敗でした。刀は、巻き藁の3分の2を切断して止まり、手に大きな反動が残った。友人の抜刀道7段の方にもチャレンジして頂きましたが、同様の結果で終わった。当然、私の未熟な腕のせいとお考えの方も多いと思います。(笑い)
2ヶ月後、刀身の物打ち前後の平肉を若干刃先から約7mm幅で改正砥を用いて落とし、中名倉、細名倉で仕上げ研ぎの上、内曇で寝刃あわせをし、柄も殆ど同じ長さと太さながら江戸期の打刀風の一般的な柄に変更してもう一度斬ってみることにした。
但し、大きく変更したのが柄の形状で、軍刀の並反りの柄から、居合い抜刀に適した刃方一文字、片立鼓の形状にした。立鼓は余り大きくとらず、目抜きの位置も普通で製作して使用した。
当然ながら、鍔も軍刀の太刀鍔から江戸中期の刀の透かし鍔に替え、切羽も大中小6枚の軍刀切羽から通常の2枚の切羽に変更している。
正眼に構えてみると、同じ構えなのに前回よりも柄の形状の変更で若干、切っ先の位置が下がり、個人的には構えが微妙ではあるが楽になった気がした。
そのまま、仮標前に進み、再度、袈裟から連続の水平斬りに挑戦した所、問題なく両断出来た。水平切断時の感覚として、以前の巻き藁に食い込んだ刀の反動が残るような斬れ方ではなく、新々刀の中位の斬れ味に感じられた。刀身の抜けも左手の全部の指が柄糸に密着しているため、全く気にならなかった。
再び、7段の友人とベテラン1人にも水平にチャレンジしてもらったが、両人共に今度は前回と異なって、易々と斬る事が出来、好印象を与えたようであった。
二人の印象としては、
「安定して良く斬れて、問題点はなかった」
「茎(中心)が新々刀のように長く、握っていても安心感があった」
「小柄の初心者向けか、特に女性向けには合うのではないか!」
の意見だった。少し物足りなかった点としては、やはり、2尺1寸余の長さで、
「出来れば、2尺2寸欲しかった」との事。
もちろんこの刀は小板目肌詰んだ地に互の目の連続した出来の長銘の鍛錬刀で素延べの昭和刀ではありません。
終わった後で、友人と今日、試した刀に関して雑談をしてみた。
「刃の焼き入れの加減も小沸出来で、刃も硬くなく丁度良かった」
「以前試した昭和刀は刃が硬く、硬い竹を切ると刃こぼれする物が小数ではあったが、
この刀は竹にも大丈夫だろう!」
「今日のこの刀の鍔は全体のバランスを考えると、少しこの刀には軽すぎる」
「もう少し、重量のある鍔の方が振り易いのではないか?」
等の意見があった。
後日、若い直径4cm強の真竹を数本試したが、誰が斬っても気持ち良く斬れた。
斬れ味に納得が行ったので、自宅で10枚ほどの江戸中期から後期の鍔を出して、入れ替えながら素振りを繰り返して、最終的に使用する鍔を考えることにした。
確かに友人のアドバイス通り、やや重めの鍔が良かった気がして、最終的にその鍔に決めた。