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【昭和刀の斬れ味 5】

昭和軍刀の問題点の一つとして、成瀬関次氏も著書の中で指摘されたように、刀身と柄が分離している為、実戦で損傷し易い大きな欠点があります。

 中国戦線の中国国民党軍の青竜刀の場合、刀身と柄が一体構造で丈夫なのに対し、昭和軍刀では青竜刀よりも柄が損傷し易かったと同氏は書いている。

 その他、目釘使用の欠陥も大きい。確かに、刀身の茎(中心)と柄の木の間に隙間が無く緊密に保たれている柄の場合は問題が無いが、少しガタついている柄では、数十回の素振りを繰り返した位でも、目釘周辺のガタつきが大きくなるケースが多い。


 増して、実際に相当数、堅い物(竹や金属等)を斬ってみるとガタガタになってしまい目釘穴と目釘の篏合も思わしくなくなる事が結構生じる。

 特に、速成軍刀の場合、刀身と柄の間に隙間が出来る好ましくない状態の刀が、終戦から時間が立っているせいか多く見受けられる。特に、家伝来の刀を軍刀に直して出征したケースでは、柄が江戸時代の儘の為、木の乾燥や柄鮫の収縮、柄糸の劣化による好ましくない状態の軍刀が多かった。


 これは、軍刀では無いが、江戸後期の綺麗な外装が付いた刀を2カ月ほど居合に使っている内に柄糸が予想以上に弱っていて、ボロボロになってしまい、直ぐに柄巻に出した経験がある。古い柄は外観上、大丈夫でも刀身との隙間や使用材料の劣化が進んでいる場合が結構あり、最初の使用段階では慎重にチェックした方が安全である。


 次に、刀身と柄が中国の青竜刀の様に一体の材質の方が強度的にも優れている話に関してですが、一理ある指摘だと感じます。世界的に見ても中国初めやヨーロッパ諸国、トルコ等のイスラム圏の刀剣の殆どは刀身と柄の基本材質が同じで一体構造の剣が殆どです。日本刀のように、刀身と柄が分離した構造の刀剣の方が少数派に属します。

 柄が刀身と一体構造の場合、外装との強度上の問題はないのですが、青竜刀のように別の問題が生じる可能性があります。


 青竜刀を素振りしてみると手に反動が伝わってくる大きさが、日本刀の場合よりも大きい気がします。青竜刀で物を斬った人の話では、

 「斬れ味が悪いので、日本刀と違って刀の重量と青竜刀の広い身幅に頼ってしまう」

そのせいか、「斬った時の手への衝撃と反動が予想以上に大きかった」とのことでした。


 確かに、日本刀の歴史を振り返ってみると奈良から平安時代初期には一体構造の蕨手刀が発生し、平安時代中期から後期には毛抜型太刀が有ったのに、いつの間にか消えていってしまいました。

 そして、脆弱な柄の構造を持つ現在の太刀拵や打刀拵が何故残ったのか、考える必要があります。それでは、なぜ室町時代に完成した打刀形式の刀身と柄が分離する構造的脆弱性を抱えながら昭和軍刀の外装にまで生き残ったのでしょうか? 

 この問題の分析解明にはかなりの実験と議論が必要な気がしますが、少ない経験の範囲内での個人的な意見で恐縮ですが、私見を申し上げてみたいと思いますので、ご批判下さい。


 日本刀の斬れ味の秘密は、日本刀独自の形状と脆弱な柄の構造に占める比重が大きい気がします。もちろん、刀の素材や斬り手の技量等、多くの関連するファクターは当然存在しますが、この項では、『日本刀独自の脆弱な柄構造』を中心に推論してみたいと考えます。


 まず、物体を切断する場合の衝撃の吸収性ですが、刀身と柄が同じ材質の諸国の刀剣に比較して、格段に日本刀は優れていると考えます。衝撃は斬る物体から順に、


  刀の刃=茎 ⇒目釘 ⇒柄木 ⇒鮫皮 ⇒柄糸 ⇒手(斬り手)


 と斬り手に伝わっていきます。どうもこの数段階の衝撃の伝搬過程で、微妙ですが各段階で斬撃時の衝撃と共振が少しずつですが、緩和されて行く気がします。

 硬い鉄の刀身から、やや硬い竹目釘へ、そして、柔らかい朴の木の柄木、硬い鮫皮(漆を塗った鮫皮はもっと硬くなります)、外側を巻く柔らかい柄糸。これ等の硬軟、硬軟の連続する組み合わせは、想像以上の力を日本刀に与えているのかも知れません。

 特に、楕円形状に巻かれた柄糸部分の長径約38mmx短径約22mmでの衝撃吸収力は、実際測定した訳では有りませんが、日本刀独特の手の内と共に衝撃吸収に結構大きな働きをしているように感じます。しかし、それ以上に日本刀の持つ引きながら切断していく驚異的な力を刀身から引き出しているのかも知れません。

 どうも、『日本刀の脆弱な柄構造』も日本刀独自の斬れ味の秘密の一端を担っているようです。


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