【昭和刀の斬れ味 2】
前回、昭和刀の斬れ味の概要を述べさせてもらったので、今回は少し専門的になってしまうかもしれないが、昭和刀の形状的な特徴と斬れ味に関連して少ない経験範囲内ではあるが述べてみたい。
昭和刀、特に今、残っている昭和刀の大分を占める昭和9年頃(94式軍刀以降)から終戦までの昭和軍刀は一つのルールによって作成された為に、形状的に見慣れると直ぐに分かる外見的な特徴がある。
まず、長さであるが、2尺1寸~2尺2寸(63.7~66.7cm)前後の物が多く、江戸期の常寸とされる2尺3寸5分(71.2cm)から見ると相当に短い。江戸時代の侍と違って、長身の人の多い現代人から見ると確かに物足りない寸法である。特に剣道から試し斬りに入った人は、最初、竹刀と昭和刀の長さによる間合いの違いに困惑する。柄の長さの違いも相まって、予想以上に斬る仮標の巻き藁や竹が遠く感じる。古人が言った『相手の股の間に片足を踏み込むほどにしないと敵を両断出来ない』との表現が実感できる寸法である。
次に、刀の厚みであるが、刀の重ねは古刀や新刀の様に鎺元から切っ先に向かって自然に狭くなって行く優美な日本刀本来の姿と異なって、元先の重ねの逓減率が少ない刀も多く、印象として重ねが厚く感じる。特に、松葉先、横手の所の重ねが従来の日本刀に比較して厚く、新刀や古刀の重ねが物打ちと横手の重ねに違和感なく優美な形状に対し、物打ちよりも極端に厚く感じられる昭和刀が多く。すなわち、棟の先重ねを見ただけで、頭でっかちの印象があり容易に識別できる場合が少なくない。これは、陸軍の打撃試験や野戦での折れ、曲がりに対する耐久性を考慮した結果で、これ等の諸点は逆に見れば、折れ曲がりに対する斬り手の安心感に繋がる。
刀身がやや短い割に中心は新々刀に近い長い中心が多く、両手で柄を握ってみると安定感があり、古刀の末備前などの短い中心の刀を使用した場合の頼りない感じとは大きく異なる。水心子の刀剣武用論などで取り上げられている斬り合いの際、末備前の短い中心が原因で柄折れして負けるような心配は無い。
斬れ味に直結する所では昭和刀の場合、平肉がたっぷり付いている状態の刀身が多く、なお且つ研ぎが速成の中途半端な研ぎの場合も多い。この為、時代的な健全さもあって、昭和刀を戦前の研ぎのままで試すと感触として斬れ味が物足りない事もある。この場合は、中名倉か細名倉相当の砥石で寝刃を合わせ直すと半分以上の昭和刀が良く斬れる刀に変身する。しかし、研ぎの悪い平肉の異常に付き過ぎている刀はこの程度では斬れ味は改善出来ず、所有者をガッカリさせるケースもあり、基本から研ぎ直す必要が生じる。
次に姿、特に反りであるが、昭和刀の場合、均一に反った試斬に使い易い姿の刀が多い。時代的な反りの感覚として、古刀は反りが深く、新刀は浅い反りが多いと認識されているが、昭和刀では新々刀以来の流れを受けて、適度な反りの4分~5分(約12~15mm)の物が多数を占める。この程度の反りは万人向けで使い。
その他の日本刀の反りの特徴として刀の一部に強い反りが付いた先反り、腰反りがある。これらの反りは日本刀の歴史と共に時代と用途に適応して変化してきた。昭和刀でも、少数ではあるが鎌倉期や応永期の古刀の太刀姿に倣った腰反りが強く、中心も太刀風に反りの強い形状の刀がある。この場合は銘も往々にして太刀銘に切っていて刀匠の太刀への願望の強さを感じさせられて、ほのぼのとした感情が湧いてくる。しかし、この形状の場合、私見の範囲ではあるが、腰反り、柄反りが強いと両手使いには、どうも不向きで、目付の位置通りに斬れ無かったり、斬るタイミングが均等に反っている刀に比較して少し遅れる気がした。もちろん、私の腕の悪さのせいかも知れないので、その点はご容赦頂きた。
昭和刀で先反りの刀が無い訳ではないが、末古刀等の先反りに比較して、目だたない先反りが多く、何となく作成者の意図した反りと見るよりは、焼き刃渡しの際の自然な温度分布の悪戯のような気がする。私見では昭和刀の先反りは試斬にもほとんど影響無かった。
以上、昭和刀の刀身形状に関する個人的な印象の概要を述べたが、殆どの場合、研ぎ直しによる寝刃の付け直しや柄の再製作時に於ける補正で、昭和刀は十分に試斬に使用できる場合が多かった。