【昭和刀の斬れ味 10】
昭和刀の斬れ味に関連して、あちこちと寄り道をしながら書かせて頂いたが、そろそろ、まとめの時間になったようです。お陰様で、連載中、皆様や友人達から種々の新鮮な角度のご意見や私の不勉強な点へのご指摘を頂きました事を、厚く御礼申し上げます。
確かに、靖国刀や満鉄刀、高名な作者の昭和刀に関して、斬れ味を殆ど試しておりませんし、無鍛錬の素延べの昭和刀やステンレス刀でも実際に殆ど斬っておりませんので、狭い範囲での個人的な体験談が主になってしまった感があります。これからも機会があれば、友人の協力も得て、違った種類の昭和刀を試して行きたいと思います。
平和な時代の畳水練的な試斬経験でしたので。昭和軍刀が中国戦線を始めとする酷暑や酷寒での最悪の環境条件下で使用した軍刀を見た成瀬関次氏的な実体験は皆無ですので、刀身と柄の問題や斬った後の手入れに関しては、お話し出来ませんでした。
実際の94式軍刀以降の各種軍刀外装数振でも斬ってみましたが、個人的には余り良い感触を得られませんでした。金属製の鞘は重くて扱いにくい上、尾錠で釣った刀身は走ると足の間に絡んで転倒する危険が生じ易く、やはり、打刀のように袴の腰に差す方が楽でした。
更に、軍刀の半太刀拵えの柄の兜金は緩みやすく手の内を不安定にさせました。特に、戦時急造型の3式軍刀外装では、試し斬りに使った軍刀だけかも知れないが、頭の金具が大きすぎるようで、手に馴染まない気がしました。中国戦線などで、軍刀の金属の重い鞘を嫌がって、長い行軍に耐える軽量な木の鞘を革ケースに入れて使ったり、柄を布で巻いて使用している写真を今でも良く見ますが、現場での実用性や機能美からその様に変化していった物と考えます。
その為もあって、軍刀外装での昭和刀の試斬は初期段階で止めてしまい、その後は通常の一般的な打刀外装を用意して試し斬りを行ないました。
結局、江戸時代の後期の打刀拵えに近い一般的な大小の大刀外装での試斬が一番やり易かったので、殆どの昭和刀の試斬をそのような普通の大刀外装で行ないました。
変った所では肥後拵と尾張拵の模造外装で斬りましたが、両者共に使い易く、特に、片手抜き打ち時の感触が良かった記憶があります。
ただ、正式の肥後や尾張に近い柄は、現代人にはやや短く、両手使いの場合、柄頭を手の内に包み込むように握らざるをえない可能性があります。その為、現代製のこれらの拵えの柄は、長目で作成される場合が殆どでしょうか?
柄の形状に関しては、また別の機会にお話しする時があると思いますが、平肉と寝刃に関しては、多くの皆さんが寝刃の砥石等で聞き慣れない専門用語が多く困惑されたと思います。
寝刃に関しては、ご専門の研ぎ師の方が多くいらっしゃいますので、差し支えの無い範囲でお聞きするのも良い経験だと思います。現在、私が自己流で寝刃合わせに使用している砥石の半分は目黒区の並川商店さんの物です。
また、武道との関連のご質問やアドバイスを幾つか頂きましたが、的確にお答できたとは思っておりません。過去に中国の伝統武術や合気道、空手、剣道、居合等の多くの先生方のご意見をお聞きする機会がありましたが、私の武道に対する素質が不十分な為、貴重な先輩方のお話しを完全に吸収でき無かったと残念に思っております。
特に、武器を持った武術家と素手の武術家の格闘戦では、両者の間合いの距離感が全く異なりますし、両者が武器を持った場合でも、武器の種類や長短が異なる場合、違った相関関係と間合いになります。
昔から、技量が同等の長刀の女子に刀の男子は勝てない場合が多いと伝えられていますし、訓練の不十分な初心者の場合、戦場では日本刀よりも銃剣での突撃の方が有効だったとも聞いております。
また、昭和刀を否定する訳では決してありませんが、第1次世界大戦の塹壕戦や太平洋戦争のフィリピン戦で、エッジをグラインダーで研いだスコップの殺傷力は凄かったと読んだ記憶があります。近接戦における間合いではスコップは、どうも、有利だったようです。(笑い)
昭和刀の間合いの勉強のために25年ほど前、長さの違う軍刀身3振を用意して斬ってみた事があります。一番長いのが、2尺2寸5分(約68cm)、次が2尺1寸5分(約65cm)、最も短いのが2尺程の(約61cm)でした。
実際に斬ってみると僅か3cmか4cm、刀の長さが違うだけで、相当、間合いが変るのにビックリしました。数センチ踏み出す足の位置が足りないだけで、巻藁や竹が両断出来無かった失敗経験がありました。
特に、足場の悪い傾斜地の竹林や河原に置いた巻藁台では、予想以上に上手く行かないケースが私の場合ありました。当時、常用していた刀は2尺5寸(約76cm)の現代刀でしたが、荒れ地や茂みの中での使用条件下の場合、個人的には2尺2寸5分(約68cm)前後の刀が最適な印象を受けましたので、今でも、手元に斬れ味の優れた2尺2寸程(約66cm強)の打刀外装の昭和刀を所持している次第です。
昭和刀と新刀や古刀との斬れ味の比較検討も不足だったと思っていますが、折を見て勉強してお話したいと考えております。今日の段階での個人的な感想ですが、昭和刀は、間合いも含めて、長さも良く似た戦国時代の末古刀に近い刀では無かったかと機能上から、個人的には考えています。
皆さんの中には、
「いやいや、健全な末古刀の斬れ味は優秀ですよ!」
とおっしゃる方も多いかも知れません。しかし、良く鍛錬された昭和刀は適切な研磨さえ経れば、新刀や新々刀同様に実用的に全く問題の無い良い刀である実態をご報告出来たかと思います。
実際の試斬用としても現代刀の打ち下ろし状態に近い、健全な日本刀が安価に入手できるのも昭和刀最大のメリットだと思いますし、若干、常寸に足りない長さ以外大きな欠点のない昭和刀は、初心者の入門用の試斬刀や小柄な人の愛刀としては、最適な刀だと思っております。
昭和刀の斬れ味 完




