そのころの飼主さん
もう着いたころかなあ。
穏やかな陽射しの降りそそぐ窓辺で、午後のティータイムを楽しんでいる。
お気に入りのクッションを抱えこんで、皿から取りあげてかじるクッキーは、生地にキャラメルを練りこんだ、ここ最近の定番のおやつ。
「……やっぱり無謀だったのではないかと……」
風を取りこむために窓を開けているおかげで、今が盛りの濃い緑の薫りが風に混じっている。いやあ、穏やかな日常って大事だよね。
「いえあの……せめてもう少し気にするとか、心配してみるとか……」
このあとは、特に急ぎの仕事って入ってなかった気がする。あー、久しぶりに買い物とかもいいかなぁ。
「……あのー……だからですね……」
こくこくとお茶を飲んでから、もう一枚クッキーに手をのばす。次は、生地にクルミも混ぜ込んでみようかな。
ああそれにしても美味しい。
「…だから無視しないでくださいってば」
「うるさいなあ、さっきから」
せっかくお茶を楽しんでたのに、後ろでブツブツ、ブツブツと…。ティータイムを楽しむくらい、心おきなく満喫させてくれてもいいと思うんだけど。
「聞いてらしたんなら、せめて反応くらいしてくださいよ…」
「やだよめんどくさい」
ひどっ、とか叫ばれたけど、無視だ無視。今は楽しいティータイム。ティータイムってのはお茶を楽しむためにあるんだからね、うん。
だいたい行き先を考えたら、真面目に心配するほうが無駄な労力を消費するだけって、なんでわからないかなぁ。
「……ふだんはあんなに可愛がってらっしゃるのに、なんで今回はそんなに放任なんですか。飼うのなら最後まで責任を持って、ってご自分で言ったんでしょうに……」
「え、別に放任じゃないし。つか、なんかその言いかただと、何かあるのが前提になってない?しかも主に生命の危機的な」
「…だからそういう心配をしなくてはならないような状況に、ご自分で送り込んでたでしょう…!」
なんでわからないんだ、と言いたげな顔をされたけど、…いや、それ、こっちのセリフだよ?
「……そういう心配をする必要そのものがないんだけど……」
宛先が無敵の最凶神で、場所が永世中立地だってのに、そこへおつかいに行っただけのわたしの鳥のなにを心配する必要があるんだか、それこそ本気でわからない。
あーとかうーとか唸りながら頭をかかえる二の側近は放っておくことにして、わたしはお茶を飲みながら、もうひとつ、クッキーをつまみ上げた。
二の側近のラエルは、光主の愛鳥カークの世話係さんをしています。…世話係、だけではないですけどね?
光主はカークのことを「カー君」と呼んでます。
カークは食肉種の鳥で、ちょっとした高級食材な種類の子。大きさは雉鳩より少し大きいくらいで、羽根の色は白く、冠毛がきれいなオレンジ色をしています。
この種は繁殖力がつよく、肉は非常に美味、だったり。