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田の神の悪意 1
10時を回った頃、階下から母親の呼ぶ声が響いた。
「崇志、石積さんのところの門松作り、手伝ってきて」
崇志の部屋で、『生まれ変わり』の実証例をパソコンで調べていた晴彦と美耶も、気に留める。
「門松、買ってくるんじゃなくて作るんだ」
「門松って作れるんだね」
高校生2人のハーモニーを聞き流し、崇志は座を辞して、上着を羽織った。
「旧家だからな。もともと家族でやってた行事らしいが、いまは爺さんと婆さんしかいないし、手が足りないんだろう」
部屋を出ていきかける青年の背後で、パソコンの電源を落とす音が鳴る。
「美耶ちゃんも行く?」
当たり前のように同行を示唆する晴彦に、
「うん」
当たり前のように美耶が付き添う。
「……一緒に行くか、とは一言も聞いてないんだが」
崇志の呟きは、当たり前に無視された。