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黒い神  作者: 小春日和
巫女の正体
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荒魂の正体 2

 持衰さんの話によると、と前置きして、さらに、説明せんでも簡単に協力してもらえそうやけど、とつけ加えてから、晴彦は荒魂の除霊に関する詳細を語りだした。

「崇志兄の実のお母さんは、事故のあとから、ずっと崇志兄に憑いていたそうです。持衰さんの覚えている1番古い姿は、まだ小さかった崇志兄のことを心配して離れられないといった様子だったらしいんですが……」

実母の話に、相変わらず動揺を見せない青年の態度を確認して、続ける。

「崇志兄がこの家に馴染んでいくのと並行して、だんだんと、嫉妬で禍津神(まがつがみ)……つまり祟る心霊となっていってしまったようなんです」

そこまで話して3人の顔色を窺うが、誰からも反応はない。言葉を継ぐ。

「崇志兄が、大した理由もなく、この家から離れようとしていたのも、もしかしたら実母(おかあ)さんの影響があったのかもしれん、って持衰さんは言ってました。残りの人生を全部、実のお父さんとお母さんの供養のために使う、いう決断は、いくら頭の固い崇志兄でも、おかしな選択やと思いますし」

兄の信念が死霊によって歪められていた、と伝えても、崇志は特に抵抗は示さなかった。ただ、

「この家から出ようと思ったのは、母さんたちの供養のためだけじゃない。実子の美耶を妬みまくっていた俺には、この家にいる資格がないと思ったからだ」

理由の一部を訂正する。それから、

「頭が固い、は余計だ」

と認識の一部を非難した。

「それは認めて当然やろ」

少年は呆れて言葉を返す。


 気を取りなおして、進めた先の話は、持衰と実母の膠着に関することだった。

「怨霊化した実母さんは、崇志兄をあの世に引っ張ることを何度も試みていたそうです。持衰さんは美耶ちゃんの中からそれを見咎めて、牽制してくれてた、とのことでした」

持衰ちゃんはやっぱりいい子ね、と喜ぶ美律子に笑顔を返して、話を再開する。

「その力の均衡が崩れたのは、持衰さん側と崇志兄側の両方に原因があります。まず、持衰さんが精神的に不安定になってしまったこと。そのせいで、当たり前に使えていた霊力をコントロールできなくなったらしいんです」


 美耶の体の成長に伴って訪れた、古代の歓迎されない記憶。それまでは条件反射のように『家族である兄を守る』ことを疑わなかった持衰の意識は、このあたりから、『身内である美耶の部分』と『他人である古代人の自分』に分裂してしまった。妹として兄を守護していいのか、それとも巫女として実母の霊を慰めたほうがいいのかを悩むようになったのだ。

 男社会の中で虐げられてきた持衰にとっては、崇志は性別だけで排除する対象になった。異性に対する嫌悪感は凄まじく、わずかでも穢れた記憶を取りもどす瞬間があれば、浴室にこもって半日にも及ぶ『ミソソギ』を行った。肉体に対しての絶望感から、自傷もくり返した。そうして己の悔恨を鎮め、かろうじて日常を保っていたのだ。

 『おれ』が『タカシ』を嫌っていたなんて、いまでは考えられない。毛布を握りしめて身悶えしながら、持衰は後悔を口にした。そして、少年を睨みながら、

「このことは、絶対に『タカシ』には言うな」

と口止めを施す。蛇神の神域で、兄の救済に心を開いたからこそ、警戒心を持っていた当時のことなど知られたくないのだという。


 それをあっさりと破った晴彦は、兄に問う。

「そんなことで持衰さんを軽蔑したりせんやろ?」

「むしろ、どこを軽蔑していいかわからん」

青年は困った表情で頭を掻いた。


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