荒神と悪心 2
また結界に取りこまれないようにと開け放したドアを、兄が自らの体で固定させる。娘の断続的に痙攣する肉体を、毛布に包んでさすった父は、
「持衰と話をしてみてくれないかね?」
と晴彦に持ちかけた。
簡単な状況説明だけを飲みこんだ少年は、美耶の前にしゃがみこんで、前髪に埋もれた双眸を掻き分けた。赤みを帯びた瞳が、戸惑ったように見返す。
「……持衰さん?」
確認すると、ふいっと視線を外した少女は、無言の肯定を返した。
「よかった。1回話がしたかったん」
そう穏やかに語りかけると、再び視線が向く。
表情や態度から、明らかに美耶のそれとは別の様相を呈している持衰は、晴彦の目にもずいぶんと幼い人格に映った。小学生。それも学年の浅い年代に見える。
「……お前がいると『ミヤ』が目を覚ます」
不機嫌を露わにした持衰は、感情を隠そうともせずに愚痴った。
「お前たちは『ミヤ』が戻ってくればいいのかもしれないが、それは解決にはならない。荒魂を消さぬかぎりは、『おれ』も消えることができない。御霊を地に還すまでの間だというのに、なぜ、そう急いで『おれ』を消そうとする? 『おれ』が『ミヤ』でいることは、そんなに忌むことか?」
まるで、仲間はずれにされた子どもが泣き言を言うように、唇を震わせて、目を潤ませる。
持衰が美耶の中に存在すること。それはたしかに歓迎すべきことではない。けれど、
「オレは持衰さんに会いたかったよ」
と少年は本心から伝えた。
「持衰さんも美耶ちゃんの一部やし。実際に在るものを、消えててくれればいい、とは、思えんかった」
この考え方は、或いは、美耶の父や兄とは相反するものなのかもしれない。案の定、
「晴彦は身内じゃないからな」
と崇志から非難が飛んだ。
でも、晴彦は言い続けた。
「持衰さんの話を聞かせてほしい。転生する前はどんな暮らしをしていたのか、とか、どうして持衰になったのか、とか」
美耶の肉体から去ってもらうためではない。持衰自身のことを教えてほしい、と思った。不遇の過去の記憶を持ったまま生まれ変わってしまった目の前の幼い人格に、純粋な興味と、それから、
「オレな、美耶ちゃん見るたびに、巫女さんみたいやって思ってた。美耶ちゃんと持衰さんは繋がってるんやろ? 美耶ちゃんのことは助けたいし、協力もする。おんなじで、持衰さんのことも助けたい」
多大な同情を持ったからだ。
「『おれ』を、助ける……?」
持衰は、意味を咀嚼するように、ゆっくりとくり返した。
「『おれ』はいなくなったほうがいいのではないのか?」
確認する口調には期待がこもっていた。
「美耶ちゃんも、自分がいなくなったほうが、お父さんたちや崇志兄のためになると思ってた」
オレそういう考え方嫌いなん、と晴彦が言うと、持衰は堰を切ったように号泣を始めた。
バツが悪そうに、兄が離れた位置で頭を掻く。




