地母神の棲家 3
葉月が祖母から聞きだしたという、その社の跡は、もう頂上に近い位置の、山道から外れた藪の中にあった。
半分、埋もれるように残された鳥居は、80センチほどの丈しかない。材木も細く、その奥に安置された石製の祠に合わせて後付けされたような適当な造りだった。
「これじゃあ、神さんを守れないね」
晴彦が嘆くとおり、結界としての機能を持つはずの門構えは、本来、もっと、どっしりとした安定感を持っていなければならない。上を渡す横柱は、まだ辛うじて生きているが、下を渡す貫の柱は、片方の支えを失って斜めにかしいでいる。
祠に関してはもっと酷かった。土台が割れ、縦に大きくヒビが入っている。観音扉は閉ざされていたが、その隙間からは雑草がはみ出していた。
「この状態じゃ、ご神体はもういないんじゃないかな。どっかに移されてない?」
言いながら、少年は扉に手を触れた。
「開けるの?」
自分で誘っておきながら、葉月は不安そうな目で晴彦の行為を咎める。
「気になるやん」
好奇心旺盛な少年は、笑って、歪んだ戸の隙間に指を入れた。
ががが、と、石材の軋む嫌な音が響く。見た目よりも重い感触に眉をしかめながら、晴彦は力任せに扉をこじ開けた。暗い空洞を予測しているだけに、神仏の住処を荒らしているという罪悪感はない。
が。
「…何かあるな」
隙間が大きくなるにつれ、中に黒い固まりがあるのが見えてきた。
「ご神体? 残ってるの?」
葉月も小柄な体をねじこむように顔を近づける。
2人の少年少女の見ている前で、祠に取り残されていた物体が白日に晒された。
「…地母神」
晴彦が顔をしかめながら呟く。
「…気持ち悪…。蛇…?」
葉月が晴彦の背中に隠れながら言った。
黒い光沢のある、おそらく黒曜石でできた神体は、うねって絡みついた2匹の蛇を模していた。大きな口を開けて天を仰ぐ1体の口に、もう1体が頭を突っこんで、自ら呑まれようとしている。