4)お説教と休息
急いだ甲斐もなく、四人揃って遅刻という大惨事。
通常なら退学モノだし、鬼を一体倒した時点で報告に来いと先生に叱られて渡された紙……。
そこには『ヲ組』と書かれているのに、私は頭を抱えていた。
(ヲ組……、最底辺の……組……)
目眩がした。
既に同級生は組配属が終わっているらしく、教室には私と道蓮様、マキリさん、鬼壱さんしか居ない。そして全員の手の中の紙に同じ単語が記されていた。
担任である将雪先生――『将雪おじ様』は私の親戚筋である。ただ、学園では一生徒と教官として接すると入学前に決めていた。
教官は、ヲ組の通知を手にする私たちを見て、眉間の皺を深く刻んでいた。
落ち込んだ空気の中、マキリさんが明るく話しかけてくる。
「おう! オマエらも同じ組か~! ヨロシクな! で、ヲ組って何だ? いちばんサイキョーの班か?」
私と鬼壱さんはマキリさんの言葉に返事ができずにいた。一人、冷静だったのは道蓮様だけだった。
「……俺は、鬼を殺せればそれでいい」
その沈んだ様子に教官が微かに眉をひそめる。
「お前達のような無茶をする問題児を普通の生徒と混ぜられるか」
先生の言葉にマキリさんと鬼壱さんがワアワアと騒ぎ出した。
「おれ、問題児じゃねーぞ! 良い子だぞ!」
「教官! 安倍君は僕を守ってくれた人だから、危険じゃないですよ!」
二人の様子に先生は軽く咳払いをすると、理由を説明し始める。
「鬼が増え続けている今の世では、優秀な陰陽師の存在が不可欠だ。だがそれだけでは足りない。今、お前たちに必要なのは、規律の意味を理解することだ。今回は結果こそ良かったが、まずは学園に報告に来るべきだった。学生の身で鬼に立ち向かおうとするのではなく、な」
先生の言葉にマキリさんも鬼壱さんも、シュンとしてしまった。
そして二人が口を開いた。
「……わかった。ごめんな、とーちゃん」
「教官、申し訳ありま……とーちゃん?」
驚く鬼壱さん。
そこで教官がまた咳払いをした。
「……マキリ、此処では『父』ではなく『教官』と呼ぶようにと何度も……」
「とーちゃんはとーちゃんだろ?」
そうこうしている間に予鈴が鳴った。
教官が時計を確認すると、私達全員に向かって告げる。
「もうこんな時間か……。続きは今度だ。食堂に行きなさい。それから寮へ向かうように。次からは気をつけなさい」
皆で食堂に行くという声掛けを無視していた道蓮様。
しかしマキリさんがキラキラした目でじっと見上げてくる小動物のような『圧』に抗えなかったのか、結局、渋々ながらも私たちと一緒に食堂へ向かうことになったのだった。
◆◆◆
陰陽學寮の食堂は学校と寮の間に併設されているとのことだった。
学園の建物はどれも洋風建築を取り入れたもので、私にとっては馴染みのない雰囲気だ。
食堂の入り口傍で御霊府君が、私に手招きして話しかけてくる。
『灯子灯子、見本があるぞ。こっちの味噌汁と焼き魚の定食にせい。南蛮の飯なぞ、パサパサして脂臭くて食えたものではないからのう』
御霊府君は食べるのが大好きだ。実体化できない状況だと、食事中の私に憑依してくることもある。
今日も当然のようにそうするつもりらしく、熱心に献立を見ていた。視線の先に『焼き魚定食』『マカロニグラタン定食』と書かれた札と、それぞれの見本料理が並んでいた。
まかろにぐらたん……? まかろにって何……? ぐらたんも、何なのだろう?
味の想像がつかない料理と、食べ慣れた料理を前に私は首をひねる。
マキリさんや鬼壱さんには御霊府君の姿は見えていないはず……。
なのに、なんとなくその気配を感じ取っているのか、彼の隣に立ってメニューを見て話し合っていた。
「おぉー! どっちもウマソーだな! キーチ! これは悩むな~! キーチは、どっちにするんだ? 魚か? こっちの白い泥か?」
「え? キーチって、ぼくの事? あ、あの、ぼくの名前、キイチって読むんじゃなくて、オニイチって読むんだけど……っていうか、グラタンは泥じゃないよ! だめだよ、食べ物をそんな風に言っちゃ!」
食堂は西洋の方式を採用していると聞いたけど……
どうやって食事を受け取るのかわからなかった。
なので、道蓮様のやり方を見て同じようにしてみようと凝視する。
道蓮様はこの食事形式に慣れているのか、そつなく注文して料理を受け取る。そして振り返らずにスタスタ歩いて行ってしまった。
その後、厨房に居た女性が仕切り越しに私に話しかけてくる。
「おやまぁ! とんでもない男前の後に、今度は凄い美少年が来たねぇ!」
厨房の女性陣が道蓮様を見て黄色い声を上げていた。
けれど、次に私を見て
「あら! 可愛い!」
「女の子みたいに可愛い子がきたわぁ!」
と騒がれ、笑顔が硬くなる。出来る限り低い声を出そうと、気合いを入れた。
「ぼっ、僕は、び、びぃ定食? なるものをッ、いっ、頂けッ、ますッか?」
ああああああぁあ! 緊張して思いっきり噛んでしまった!
けど、厨房の女性達は歓声を上げる。
「こりゃあ、また、真っ赤になって可愛い子だねぇ!」
「女慣れしてない美少年とか最高じゃないか!」
「お姉さん達を見て赤くなるなんて、初心な子だねぇ!」
「いっぱい食べて、早く良い男におなり!」
何だか違う方向に勘違いされたけれど、バレなかった!
料理の乗ったお盆を手に、空いている席を探していると、鬼壱さんが立ち上がって手を振ってくれる。
「あ、あの、ここ、良かったら……」
席は埋まっていたけど、鬼壱さんがマキリさんと自身の席の隣に制服を置いて、私と道蓮様の為にとってくれていたようだ。
「ありがとう、助かったよ。待っていてくれたのも、ごめん。ありがとう!」
とりあえず一番近かったマキリさんの隣に座って、そう伝える。
すると鬼壱さんが少し空気を沈ませた。
(あれ……? 何かまずかったのかな?)




