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【番外編】味覚

 道蓮には味覚が無い。


 灯子が死んだショックで味を感じる機能を失ったのだ。


 だから食事は苦痛でしかなかった。

 味のしないものを咀嚼して飲み下し、味覚があるフリをする。

 それがどれだけの苦しみか、なってみた者にしかわからないだろうと思っている。


 だが、その所為で家庭科の授業でバレかけた。


 マキリが燈次郎の料理を食べて、椅子から転げ落ちたのだ。


「グゥエエエエエエエエエエエエエエ~! マズィズィーーぞ!」


 マキリから聞いたことがないような絶叫が出ている。

 しかもゴムマリみたいに飛び跳ねて苦しんでいた。

 同じ物を食べた鬼壱は真っ白に燃え尽きている。


 そんなに不味いのかと思ったが、食感がネバネバしているのが不快なくらいでよくわからない。


 平然とパクパク食べていると、燈次郎に「道蓮さん……!」と、熱い眼差しで見つめられた。

 しまった、味覚が無いのがバレる! と思った道蓮は咀嚼し終わってから告げた。


「食感に問題があるんじゃないか?」

「そうか、食感かあ~」


 二人で話し合っていると、マキリが「そ、そういう問題じゃねーぞ……」とピクピクしている。

 あの健康優良児のマキリをここまでボロ雑巾のようにするとは……。

 大した奴だと道蓮が感心していると、将雪に怒られた。


「ヲ組! 何を騒いでいる!」

「とーちゃん! おれ、泣いていいか! ビエンビエエ~ン!」

「もう泣いているだろう! 家庭科の実習で何を泣くことがある!」


 マキリが差し出した黒い煮物らしきものを将雪が味見する。


「……」


 将雪が目を閉じて遠くを見つめるように顔を上げていた。

 相当の激痛だったのか、眉間の皺がいつもより深く刻まれている。


 あの箪笥の角に小指を激突させても表情を変えない将雪の苦痛の姿に、道蓮は『ちょっと俺もダメージを受けたふりをした方がいいのか?』と困惑した。

 しかし燈次郎がしょんぼりしているのを見ると、そんなことは出来ない気がした。


 だが燈次郎の薬膳料理()は効果覿面なのか、しばらくの後にマキリの動きが早くなったし、なんか腕だけがやたらムキムキになっていた。

 鬼壱は目視するのすら難しい的を狙撃できるようになり、肌がツヤツヤになっていた。

 将雪は少し若返ったような気もする。


 自分は、というと、身が軽くなった気がするし、鬼を殺しまくったせいか肩こりに悩まされていたのが解消された。


(無駄に凄すぎる……!)


 その効能に道蓮は燈次郎を少し尊敬した。


 そんな道蓮は、燈次郎のお陰で灯子の魂と会話することが出来た結果、味覚が戻った。

 お陰で食堂の料理がおいしくて、また筋肉が育ってしまいそうだが……。


 味覚が戻った結果、燈次郎の料理の味がわかるようになってしまったのだ。


「ブフッ!」


 意識が遠のき、噴き出しかける程の不味さだった。


 が、今まで道蓮だけは燈次郎の料理をパクパク食べていたせいか、今更『マズイ』とも言えず、苦行のような食事を脂汗を流しながら食べるのだった。


(まぁ、力が増すし、燈次郎が喜ぶなら別に良いか……)

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