夢
ああ、そうだ。
管制室。目の前の画面で赤い炎を出し、轟音を立てて飛び立つロケットを見て、俺は確信した。
「お前は、夢をかなえたんだな」
周囲の歓声を尻目に、あいつの夢をじっと目に焼き付けていた。
***
「私、宇宙飛行士になるんだ」
二人での下校。赤い煉瓦が敷かれた歩道を歩く。少し冷えた空気に金木犀の香りがする。
西宮が言った言葉を理解するのに時間がかかる。
「宇宙飛行士?」
あまりにも突飛な話に面食らってしまった。
「冗談か?」
「本気だよ! 今まで宇宙の話散々したでしょ!」
「したし天文学者にでもなるのかとは思ったけど、まさか宇宙飛行士とは」
「何か文句でも?」
「ないない。すごい夢じゃんか。すげえな」
素直に尊敬する。
俺にはそんな夢も目標もないから。
ただ毎日を過ごしているだけだ。学校に行き、友達と遊び、ゲームをして、宿題をこなし。常時平穏で変化なし。
「でしょ。だからどうすれば宇宙飛行士になれるか調べていろいろやってるんだよ」
「ふうん。勉強ができればなれるもんじゃなさそうだもんな」
「勉強はいるよ? だけどそれだけじゃダメなんだよね」
それを聞いて西宮の英語の単語帳はボロボロになってたなとか、朝時々ランニングする西宮に会って、無理矢理走らされそうになったなと思い出す。
「ふうん。まあ、西宮の問題は予想外のことが起きた時にパニックになるくらいだもんな」
「……それはいいじゃん。偶にだし。皆そうなるでしょ?」
「それはそうだ。失礼しました」
「田島は何かないの?」
「え?」
思わず高い声が出てしまう。
「何か、夢とか」
「……」
考えるふりをする。腕を組んで空を見上げる。青空が見えるだけだ。
「ないな」
「ふーん。もったいない。田島勉強できるのに、進路も何も考えてないの?」
「まあな。別に進路はまだ先だろ。俺たち高校1年だぞ」
「だけど早めに決めた方がいいよ。そっちの方が早く準備できる」
「母親かよ」
「幼馴染だけど」
「知っとるわ」
俺の言葉に西宮がクスりと笑うと、急に真面目な顔をする。
「じゃあ一緒に宇宙飛行士にならない?」
「はあ?」
「いいじゃん。決まってないんでしょ?」
「いや、そこまで思い切れねえよ」
「えー? いいじゃん」
二人でそんな話をして帰った日だった。
***
管制室にて思わず過去を思い出していた。
発射スイッチを押した指が少し熱い。
宇宙飛行士じゃなく、こうしてあいつの夢をかなえる仕事をしていた。
幼馴染。いや、妻が夢を叶える協力をずっとしてきた。
それが今、報われた。
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