2. 禅問答と、如月卯野 その一
ある女が私を訪ねてくるらしい。なんでも彼女は、私、如月卯野に関する研究に出資しているお偉いさんの妻か娘か姪か何か、みたいな人らしい。偉いんだか偉くないんだか、よくわからない地位の人だ。でもきっと、研究者たちがお願いを断ることができないくらいの立場ではあるのだろう。
とにもかくにも、彼女は私と禅問答のような会話がしたいのだという。よくわからない。昔から生きている人だから仏教に詳しいだの信心深いだのと思われているのだろうか。心外だ。私は生まれてこの方ずっと庶民であるから、踊念仏踊ったっけ、くらいの記憶はあるけれど、禅なんかには縁がないのだ。あれはたしか、武士とかが実践するものではなかったか。
「禅問答って、何なんですかね?」
会って開口一番、私はその女に聞いた。わからないことは最初に聞いておくのが一番だ、と常々思っている。
「あら、それはわたしにもわからないわ。でも、なんかわからないことを聞いて答えたりするのって、禅問答っぽくないかしら。わたしは、あなたとそういう話がしたいのよ」
春の嵐の色をしたスカーフを首に巻いたその女も、禅問答が何か、よくわからないようだった。よかった、専門知識を問われるのではなくて。でもその代わり、新たな疑問が生じる。この会話、何を聞いてもどう答えても良いんじゃないか?
「じゃあ、質問させていただきますね、如月卯野さん」
今さらかもしれないが、この女、自己紹介もせずに話を始めようとしているな。いささか非常識ではないだろうか。でももしかしたら、非常識の塊だから今まで生きている私みたいな人が相手だから、なのかもしれない。郷に入っては郷に従え? たしかにたとえ自己紹介されても、私は寝て明日起きたら忘れているだろうな、名前とか、顔とか、下手したら話したということも。
それか、私が最初に質問をしたせいで、言う機会を逃してしまったのかもしれない。それか忘れてしまったのかも。
女はちょっと背筋を正した。
「まず、1つめの質問です」
「もし明日地球が滅亡するとしたら、あなたは何がしたいですか」
この質問は、けっこう困ってしまうかもしれない。
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