表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私の体には転生者の魂が、私自身は婚約者の猫の体に入ったようです。

作者: ありま氷炎

 目覚めたら猫になっていた。

 最初は驚いて夢であれっ、と願ったけど、だんだんと落ち着いて状況が見えてきた。

 私はどうやら婚約者の飼い猫の体に入り込んだらしい。

 というのは、私の体自体が動いているのを見たから。

 でも猫の私を「私」が見ても何の反応もなかったから、多分、魂が入れ替わったわけではないと思う。


 私の体、猫の名前はヨーデル。

 なんていうか全身裸だし、最初は物凄い違和感あったけど、慣れって言うのは怖くて、一週間で気にならなくなった。

 それで、ヨーデルの状況を把握しようとして、わかったこと。

 どうやら本当に、ヨーデルは死んでいたらしい。

 私はどうやら死んだ猫の中にはいったみたい。

 生き返ったヨーデル、私を、飼い主のジェームスが泣きながら抱きしめた。

 目を覚ましたら、婚約者のジェームズに抱きしめられた状況だったので、抵抗した。

 逃げ出そうとして、彼を引っかいたけど、彼はまったく動じていなかった。

 凄い猫愛。


 私がヨーデルに入ったから、私にはヨーデルの魂が入っているのでは?と思ったけど、「私」は普通の動きをしていて、何も違和感がない感じ。

 猫であればあり得ないと思う。

 そうなると、私に入ったのは?

 猫ではない。

 行動が普通だし、猫のような動作を一度もみたことがない。

 それにとても善良に見える。

 私のように我儘を言って困らせることもないし、両親にも好かれている。

 あんな風な優しい目をする両親を久しぶりに見た気がする。


「ヨーデル。君はいつも隣の屋敷を見ているね。しかも、ウェンディ―ばかりを見ている。もしかしてヤキモチかい?」


 私に話しかけててくるのは、私の婚約者のジェームス。

 この人が猫を愛していることは知っていたけど、ここまでとは驚いた。

 私はいつもそんなジェームスにブチ切れていたけど、私の中にはいった人はそうじゃないみたい。


「私」はジェームスと一緒に猫の私を可愛がる。

 意識は私だけど、体は猫。

 だから撫でられてるすると気持ちよくて、猫の感覚で喜んでしまう。

 二人は楽しそうにそれを見ている。


 怒らない「私」と話すジェームスも笑顔だ。

 彼は私と話す時、いつも険しい顔をしていた。

 それは多分、私が猫を嫌っていたからだ。

 だって、猫、ヨーデルはいつも邪魔をしてきたから。

 やっぱり、ヨーデルはジャームスのことが好きだったんだ。だから、私と彼のお茶会にはいつも入ってきて、当然とばかりジェイムスの隣に座る。

 私はジェームスの向かいに座り、忌々しそうに猫を睨んでいたのを覚えている。


 ヨーデルは、どうやって死んでしまったのかな?

 やっぱり「私の中」に入っているのがヨーデルなのかな?

 気になってしまって、私は隣の屋敷、私の家に侵入した。


「ジェームスとの関係も悪くないし、ざまあをされることはないはず」


 窓を伝って、どうにか私は自分の部屋にたどり着く。

 猫の体って本当に身軽で動きやすい。

 猫の体に入って一か月たったので、かなり慣れてきていると思う。


 何かを書きながら、ぼやいている「私」を発見する。

 ざまあ?


 聞き耳を立てて聞いてみると、どうやら私の中の人は別世界からやってきたらしい。

 事故にあって、私に転生したと思い込んでいるみたい。

 魂が入り込んでいるだけなんだけど、彼女は生まれ変わったと思っているみたい。

 彼女には私の記憶がわかるみたい。だから生まれ変わったって思っている。

 このヨーデルの記憶も私は見ることができるので、その感覚はわかる。

 だけど、私は「私の体」を見ることができるから、生まれ変わりなんて思い込まない。

 あと、猫のヨーデルは私と同じ時を生きていたから、生まれ変わりではありえない。


 猫のヨーデルはどうして死んでしまったんだろう。

 もしかしてまだ魂はどこかにあるのかな。


 ジェームスの猫愛を見ていると、なんだかむず痒い。

 私はヨーデルじゃないのに。


 やはり「私」が気になって、たまに屋敷に侵入するけど、見る光景はとても穏やかでみんな笑顔だ。

 私はいつもイライラしていたので、みんなに当たっていたし、我儘だった。

 屋敷の雰囲気は最悪だったと思う。

 だけど、今は違う。

 それはジェームスも感じるらしく、猫の私に話しかける。


「ルーシーの様子が変わって、屋敷の雰囲気が変わった。なんだか不思議な感じなんだ。ヨーデル」


 彼は私に話しかける。


「……ルーシーは別人みたいだよね。君もそう思うだろう。君のことを可愛がるなんておかしい」


 ジェームスは「私」の変化に気が付いている。


「前はさあ、君と張り合っていたよね。本当にルーシーは変わっていた。今はなんか普通だね」


 普通がいいと思うけど。

 猫の体になって、自分を客観的に見るようになって、自分がかなり嫌な奴だったことに気が付いた。

「私」が普通になって、みんな喜んでいるみたいだ。


「まあ、普通だけど、結婚したら君のことを邪険にしそうもないから、いいのかな」


 結婚、そうだよね。

 彼は「私」の婚約者だ。

 あの体を私のもの、だけど、他の人が入ったあの体のほうが、みんなに喜ばれている。

 だから、きっとこの状態がいいんだろう。

 でも、なんか私自身が否定されているみたいで嫌だな。

 一緒になんて暮らしたくない。

 だけど、ジェームスはヨーデルのこと愛しているし、いなくなったら泣きそう。


 本当にヨーデルは死んでしまったのかな?

 使用人やジェームスの言葉を聞くと、死んでいたみたいなんだけど。


 それから数か月経過した。

 ジェームスたちは学校に入学した。

 猫の体にもなれてきて、屋敷を散策するのも楽しくなってきた。

 ただ虫がやっぱり嫌い。

 猫の目から見たら、結構おっきいんだよね。

 ほかの猫がうざい。

 いろいろ聞いてくる。

 なので、屋敷に外には出ないようにしている。

 だけど、隣の家、実家は気になるので時たま遊びに行っている。

 最初は恐る恐る、見つからないようにしていたけど、使用人は猫が好きみたいで、私を見たら近づきてくる。

 猫の体にすっかり慣れた私は、撫でられるのがとても気持ちいいことを知っているので、使用人にされるがままだ。


「ジェームス様との婚約どうなるのかな?」

「ルーシー様の様子がお変わりになって、まさか殿下が興味を持たれるとは思わなかったわ」

「略奪?王族には逆らえないでしょ?」

「ルーシー様もまんざらではなさそうですし」

「殿下はとても凛々しい方だもの。気持ちはわかるわ」


 え?

「私」は婚約者がいるのに、殿下といい仲になってるってこと?

 善良に見えていたけど、結構酷い。

 ああ、でも王族だから。

 しかも家にとってみればいいことだよね。


 使用人たちの噂話を聞いてから、二週間後。

 学校から戻ってきたジャームスが突然、私を抱きしめた。


「ヨーデル!」


 く、苦しい。

 もうすっかり猫なので、照れとかまったくないけど、苦しい。


「僕は、結婚しなくてよくなった。これで自由だ」


 え?婚約解消?

 でも自由って?


「ルーシーのことは嫌いじゃなかったけど、結婚とか嫌だったんだよね。僕は振られた可哀そうな人だから、もう結婚したくていいんだよ。あとは弟に任せよう」


 ジェームスには弟がいる。

 だけど、まだ三歳だけど。


「これからも一緒に暮らそうね」


 その言葉の通り、ジャームスは誰とも結婚しなかった。

 弟が十八歳になると、彼は家督を譲って、田舎の領地に引っ込んだ。

 私も一緒だ。

 猫の寿命は短いはずなのに、私は死ななかった。

 ヨーデルとして十年は生きているはずだから、今は二十五歳。

 猫年齢で、百歳以上だ。

 あり得ない。


 私は猫として、十五年生きた。

 人間としても十五年だから、ちょうど半々だ。


 ちなみに「私」は殿下と結婚して、王子妃になった。

 略奪婚は印象がよくなかったけど、「私」は努力家で尽くすタイプなので、国民の支持が上がっていったみたい。

 すごいよね。


「ヨーデル」


 ジェームスは三十歳だ。

 まだ結婚できる年齢なのに、彼は領地でのんびりしている。

 弟の仕事を手伝っている感じだ。

 ジェームスが領地にいるおかげで、弟君はちょくちょく領地に来なくても済んでるから、助かっているみたい。


 ジャームスに呼ばれて、ニャーと返事をしてからその傍に行く。

 彼は私を膝の上に載せる。

 秋が終わろうとしていて、寒くなったので、私の体はちょうどブランケットの代わりにいいらしい。

 私のジェームスにくっつくと暖かいのでちょうどいい。


「……君、本当はルーシーなの?」


 ジェームスに突然聞かれて、体を強張らせてしまった。

 それが返事の代わりになったらしく、彼は溜息を吐く。


「僕のせいだね。きっと。ヨーデルの体は冷たくなっていくのが怖くて、生き返ってほしいと願ったんだ。願いは叶ってヨーデルは生き返った。でも違ったんだね」


 ジャームスはとても悲しそうで、私も悲しくなる。

 やっぱりヨーデルに会いたかったよね。

 私と一緒にいても楽しくなかったよね。

 代わりにはなれなかった?


「ルーシーの様子が変わったのと、ヨーデルが生き返ったのは同じタイミングだ。ルーシーの変わりようはまるで別人みたいだった。最初からおかしいと思ったけど、僕は気にしないようにした。君の様子もおかしかったのにね。僕はヨーデルの代わりに君がいてくれるのが嬉しかったんだ」


 ジェームスがゆっくりと私の体を撫でる。


「ありがとう。だけど、本当にごめん。僕が願わなければ、こんなこと起きなかったはずなのに」


 謝る必要はないのに。

 私の体は、私ではなく、別の人が入ったことで、周りを幸せにしたと思う。

 本当に屋敷の雰囲気を変わったし、ジェームスには悪いけど、娘が王子妃になって、両親も喜んでいたと思う。

 ジェームスが気にすることはないのに。

 私は人の言葉は話せない。

 なので、にゃーにゃーと鳴きながら、その指を舐める。


「許してくれるの?」


 もちろん。

 気持ちが伝わるようにと、鳴いたつもり。

 分かってくれるかな。


「ずっと一緒にいれくれてありがとう。ルーシー」


 彼は私の本当の名を呼んで、頭にキスを落とす。

 くすぐったい。

 猫の体では何度もされたキス。

 でも自分の名前を呼ばれたのは初めてだ。


 その年、猫の私は死んだ。

 ジャームスを悲しませるのがとても嫌だったので、生きているうちに他の猫を連れて来たけど、ジャームスが他の猫を飼うことはなかった。


「ジャームス伯父さん」

「カタリナ」


 私は、ジェームスの弟の娘に生まれ変わった。

 これは本当に生まれ変わったと思う。

 赤ちゃんの時から、記憶があったから。

 ジェームスの義妹のお腹にいると知って、嬉しかった。

 彼にすぐに会えると思ったから。


 この世に生まれおちて、言葉が話せるとすぐに私はジャームスに会いたいと言った。

 ジェームスと再会したのは、猫として死んでから三年後。

 領地で再会したジェームスは、ヨーデルそっくりの猫を抱いていた。

 私にはそれがヨーデルだとわかった。

 ヨーデルも、私だとわかったみたいで、私たちは睨み合う。

 だけど、一瞬だけ。

 ヨーデルが彼の側に戻ってきてくれて嬉しかった。

 本当、私がもっと早く死んでいたらよかったのかな、なんて思ったけど、まあ、いいや。

 私は猫のしての暮らしを楽しんでいたし、人間だった時のイライラした性格もかなり矯正されたと思う。

 そのおかげで、今の私はいつも笑顔で暮らせている。


「ジャームス伯父さん」


 私は彼に呼びかける。

 ジャームスは私がルーシーとはわからないだろう。 

 だけどそれでいい。

 今世は、ヨーデルと喧嘩せず、ジャームスとも仲良くしたい。

 猫として彼と十五年暮らした日々は楽しくて、私はジェームスを好きになっていたからだ。 

 もちろん、ヨーデルを好きな彼をだ。

 前みたいにヨーデルに対抗意識は燃やさない。

 うん。多分。


 四十八歳になったジェームスに結婚を迫って、困らせたりするけど、それは別の話で。


(おわり)


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ