殿下の隣の男爵令嬢が「あたしは一言謝罪をしてもらえばいいのです」と言われたので謝罪からの逃避行した話
「ザーム・フォン・メルダよ。真実の愛の相手、シャルロッテに嫉妬していじめるとは、全くさもしい女よ!」
この国の王太子の言葉が王宮に響き。王太子の背中越しにプルプル震えている男爵令嬢は王子に促す。
「ゲオルド様、あたしは一言謝罪をしてもらえばいいのです」
「さすが、慈悲の令嬢シャルロッテよ。ザームはその鋭い目と赤髪で威圧をしてさぞ怖かったであろう」
それに相対しているザームは隣国メルダ王国の王女であった。
意味が分からない。私はザーム・フォン・メルダ。栄光あるメルダ王国の第一王女にして、ゲオルド殿下の婚約者。
友好の証として婚姻を結ぶはずなのに・・
なのに、隣国に赴いたら、殿下の隣には蜂蜜色のフワフワした男爵令嬢がいて、人目をはばからずにイチャイチャしているわ・・・
義父となる陛下を見るが、髭を手でイジリ興味がないようだ。
王妃殿下は・・・扇で口元を隠しているが笑っているようだ。肩が震えている。
しきたりと言われて、我国の使用人は全て帰した。今、王宮にメルダ王国人は私と妹メアリーしかいない。
八方塞がりの私は扇を取り出す。
『もし、危機が訪れたら、これを読むの~!』
と妹メアリーが私に託した扇。まさか、本当に危機があるとは思わなかった。
藁にもすがる気持で扇を開いた。文章が書かれている。
『男爵令嬢に謝罪するの~!大きな声なの~!声で皆がビックリしたら門まで来るの~』
と書かれていた。
相手は男爵の私生児、踊り子の娘だ。到底、容認が出来ないが、妹メアリーに思う所がある。
私は深く膝を折り。カーテシーをして男爵令嬢に謝罪をした。
【申訳ございません。この釣り目と赤髪がシャルロッテ様に怖い思いをさせたことを謝罪しますわ!】
王宮はシーンとなった後、ざわめきが起きた。
「・・・はあ?何で」
「そこは怒る場面だ・・」
「何故だ。何故だ!」
「宰相閣下、さすがにこれは不味いことであります」
陛下は目が見開いている。
王妃殿下は扇を落とした。
ゲオルド殿下は後ずさっている。
シャルロッテは顔がワァとなっている。
「まあ、ザーム様、これで宜しいのですよ!私が王子を隣で支えます。貴女は政務担当をお願いしますわぁ」
シャルロッテには一国の王女を謝罪させた後ろめたさがない。今、確信した。
これは謀略で、男爵令嬢は理解していない。
私はスカートの裾をあげて、喧噪を背にして足早に去る。
「このような浅ましい私は謹慎しますわ!」
と大急ぎで王門に直行する。
☆☆☆回想
私の妹は欲しがりだ。
『欲しーの!欲しーの!』
お父様とお母様もメアリーを可愛がっていたが、やっと生まれた王子にかかりっきりになり。寂しかったのかもしれない。
しかし、ある日、熱病で伏せってしまった。
王族や臣下、皆が心配して見舞いをするが、聖女様や回復術士でも治らない。
7日後、目が覚めてから様子がおかしい。
弟に虫をあげる。黒々とした木にたかる虫だ。
『カブト虫なの~!男の子はこういうのが好きなの~!』
『ヒィ、お母様、メアリー姉上が虫を!』
『まあ、ヘンドリック男の子でしょう。泣かないで、メアリーのイタズラね』
『ち、違うの~、喜ぶと思ったの~』
賢者会議に顔を出し。不思議な言葉を使う。
『ケインズ経済学なの~!公共事業を行うの~』
『王女殿下、お下がり下さい』
やがて、リンドバー王国の使者が来て、王族同士を結婚させようとの話になった。
聞けば、王太子の婚約者に私がなって欲しいらしい。
悪い話ではない。政略結婚だ。
しかし、メアリーは反対した。
『友好は戦争なの~!民族や国で考え方が違うの~!仲良くしようと言う事は、相手の考えを否定することにもなるの~!慎重に放置が良いの~、リンドバー王国は公式愛妾の制度があるの~」
となったが、長年の懸念事項であった隣国との友好だ。
さすがに公式愛妾を作る事はないだろうと結論になった。
私は行くことになった。
しかし、メアリーはついていくと聞かない。
お父様とお母様は・・
『ウム、ザームも寂しかろう。落ち着くまで連れて行くが良い』
『そうね。気に入ったら留学も良いわ』
しかも、メアリーは我が儘を言う。
『欲し~の!欲し~の!頑丈な馬車が欲し~の!車軸がしっかりして、1000キロ走れても壊れない馬車が欲し~の!』
『お馬さんが欲し~の!頑丈で野良仕事が得意なお馬さんが欲し~の!』
これは叶えられた。
リンドバー王国に着いたが様子がおかしい。
使用人は全員帰す事になった。
『ザーム様には王太子妃として我国のしきたりを学んで頂きます。他国の使用人はいりません』
『しかし・・』
『ほお、我が王国の侍女、護衛騎士は信用に足らぬと?』
王妃殿下は私のドレスや宝石を取り上げる。
『このような粗末なドレスは我国に合わないわ』
『分かりました・・』
私はシックなドレスが似合うのに、この王国のレースのヒラヒラのドレスを着せられたわ。
まるで自分の考えが否定されているようだ。
殿下は真実の愛の相手に夢中だ。
到着して実感した。この国では公式愛妾制度が生きている。
さすがに、私が嫁入りしているのに愛妾は控えると勝手に思っていた。
この王国では、公式愛妾を真実の愛の相手が現れた。国民にもロマンスと讃えられる傾向がある。
我国では不倫だ。
そして、断罪が起きた。
・・・・・・・・・・・・・
王門についたら、メアリーが御者台で控えていた。
メアリーがおねだりした馬車と馬だ。
「断罪されたわ!謝罪をして逃げて来たの」
「分かったの~!王国に帰るの~」
「バッチ来いなの~!お姉様、乗るの!」
「ヒヒ~ン、ヒヒ~ン」(お嬢さん、乗りな)
この馬車はメアリーが発案した馬車だ。粗末な馬車だ。
馬も足首が太い。
「馬車の中にメイドのお仕着せがあるの~、着替えるの~」
「分かったわ」
王都の城門を出たら、後ろから大声が聞こえた。
「王命である!赤毛の女が来たら通すな。豪華な馬車にのっているはずだ。すでに来たか?」
「さあ、どうだったろうか、変な幼女が御者をしている馬車があったが・・・ほら、あの馬車だ。乗員は赤毛のメイドだったな」
「ザームは傲慢な女だ。あんな粗末な馬車に乗るはずがない。これから警戒だ!」
助かったのね。メアリーが目立ちすぎて、私に目が行かないようだ。
でも、路銀はどうするのかしら。
と思ったら、メアリーは欲しがりで買ってもらった宝石を行く先々で渡す。
安いもので同じような宝石が沢山ある。
しかし、さすがに手配書が回ってきたようだ。
行く先々の
村役人たちがチラチラ見る。
するとメアリーは、
「大丈夫なの~、人は事なかれ主義が本質なの。面倒なことに巻き込まれたくないの~」
「・・・本当ね。仕事に戻ったわね」
中には馬鹿正直に、私をメルダ王国のザームと騒ぎ立てる村役人がいたわ。
「あの女はザームだ。殿下の真実の愛を邪魔しに来た女だ!」
と数人の配下をつれて馬車の前に立ち塞がったわ。
「ぬっころなの~!お姉様、着火魔法をお願いなの!」
「分かったわ。この柄に筒状の物が取り付けられているわね。ヒモが伸びているわ。これに火をつければいいのね」
ヒュルヒュルヒュル~
とそれは火を吐き空を飛び。その村役人の家に着弾した。
バン!と大きな音と火が飛び散る。
「花火なの!これは威力はないの~!」
村役人は大急ぎで逃げ出したわ。
40日が経過して・・・今度はごまかしの利かない相手がいた。
辺境伯だ。
出国する一人一人調べている。
私はこのときはメイドの服で御者台にいる。メアリーはドレスだ。
「おい、そこの赤毛の女はザームか?調べるぞ」
すると、メアリーはワナワナ震えた。
「またなの~!メアリーはメルダ王国のお爺さまに会いに行くのに!この戦闘奴隷メイドの目つきが悪くてまた止められたの~!」
とペシペシと頭を叩かれた。
もう、私はメアリーのしたいことが分かった。小芝居だ。
私は膝をつき。
「申訳ございません。申訳ございません」と謝罪をした。
「もうよい。傲慢なザームが謝るはずがない」
ここを通れれば、祖国だ。
しかし、そうはいかなかった。
「いや、魔道師からこの二人は魔力が強いとの報告が。王族は魔力が強い。もしかして、ザームとメアリーかもしれない!拘束せよ!」
隠れて、魔力鑑定をされていたのね・・・
もう、万事休すだ。
その時、早馬が来たわ。
「大変でございます。メルダ王国軍越境!」
「な、何だと!」
私達はこの隙に逃げ出し。
無事に王国軍に合流できたわ。
「お父様!自ら来られたのですか?」
「ああ、ザームよ。ヒドい目に遭わせて、申訳ない」
お父様の胸に飛び込んだ。
メアリーはニコニコ見ているわ。
「こら、メアリーもよ」
「ハニャ?」
メアリーの手を取り。三人で抱擁しあったわ。
この数ヶ月間で分かった。メアリーは不思議な体系の知識を持っている。
だけど、どこか達観しているわ。
だから、私はメアリーを巻き込むことに決めたわ。
「フフフフ、メアリーの智恵で助かりましたの」
「何と」
その時、
「ヒヒ~~~ン」(壊れたぞ)
馬車が傾いた。車軸がポッキリ折れていたわ。
役目が終わったのね。
「黙祷なの~」
「・・・・ご苦労様でしたわ」
私はメアリーとともに馬車に黙祷した。
考えたら馬車が壊れたら・・・時間が更に掛かっただろう。
お母様は各国を回り。ことの経緯を説明したわ。
リンドバー王国の王妃は、各国の社交界から嫌われていたらしい。
この戦争で近隣諸国は沈黙を保った。
唯一、リンドバー王国由来の公国から抗議文が来ただけだわ。
浮気をロマンスとする文化はやはりない。
八千の辺境伯軍に我が王国軍二万五千の兵力で攻めたてた。
花火が戦争に活用できることを説明し。工廠で多量生産をしたわ。
リンドバー王国は兵力は多いが戦争は強くない。王宮を逃げ出してから一年で
王都を無血開城出来たわ。
今、私はリンドバーの王宮にいる。
お父様が玉座に座り。私とメアリーは脇で控えている。
すでに領地の割譲案、有利な条約の下準備が出来ている。
問題は為政者だ。
調べによると、公式愛妾の制度を利用して、私を怒らせて無作法を働かせてメルダ王国に賠償を求めようとしたことだ。人質にもなる。
国としてマウントを取れるだろうと思ったことだ。
お父様は威厳たっぷりに臣下の位置にいるリンドバー王族たちに言うわ。
「して・・・我が娘を謝罪させた屈辱、どうしてやろうか?」
「メルダ王よ。これは妃が言い出したことで・・余は関係ない」
「まあ、陛下、見捨てる気!」
「キャア、違うわ。私は王妃になれると言われたから、愛妾で良いから!」
「ザームよ。やり直そう。私は毎日愛の言葉をささやこう」
皆、口々に言うが、私はメアリーに尋ねる。
「貴女ならどう処置するかしら」
メアリーは棒付きキャンディーをペロペロしながら言い放つわ。
「お姉様、王族個人を処刑すると、国民感情はメルダ王国に対して悪くなるの~!
なら、国への罰として、そのままが良いの~、誰を王にしてもこの国は変らないの~」
「分かったわ。このままで良いわ。ねえ。お父様、王はそのまま。王太子はシャルロッテと結婚させて王妃にさせる。これで行きましょう」
「・・・なんと、ザームがそれで良いのなら」
☆☆☆10年後
あれから、私はザルツ帝国の第四王子と結婚し、子供をもうけている。
夫と口論することがあるが、妥協点がなければ棚上げをしている。
これで結構上手く行っているわ。
「ザーム。大変だ。リンドバー王国で内乱が起きた。これで12回目だ」
「まあ・・」
あのとき、リンドバー王は責任を取らせなかった。
故に、国で不祥事が起きても、誰も引責辞任をしなくなった。
王が自ら責任を取らなくても良いと証明をしたと王国民はとらえたのだ。
不満がたまり。王都近辺の治安を維持するのがやっとのようだ。
「ザームよ。義父上と相談だ。領土の切り取りだ」
「分かったわ。メルダ王国とザルツ帝国、双方が納得いく案を作成しますわ」
私と殿下は、外務卿の下で外交の一部を任されている。
一方、メアリーは、16歳になった。
帝国に留学し。
変な物ばかり作っている。
また、皇宮でメアリーの声が響くわ。
「飛行機なの~!まずはグライダーで実験なの~」
「ヒィ、メアリー様、それはお止め下さい!」
「パラシュートがあるから大丈夫なの~」
さて、騒動を止めに行きますか・・
ってか、皇宮の2階のテラスから変な鳥の骨組みのようなもので飛び降りようとしているわ!
「旦那様、急いで止めて」
「承った!」
国には7人の王子がいる。
メアリーは7人から妹認定されているわ。
メアリーは誰と結婚するのかしら。
今はメアリーと一緒にいられる幸せをかみしめるだけだわ。
最後までお読み頂き有難うございました。