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閑話休題:クリスマス

クリスマスですね。


私が拠点にしているレベル11の建物前の大通り…

数日前から、その道沿いの街灯に誰が付けたかわからないイルミネーションが灯り、すっかりバックルームにも聖夜の流れが押し寄せている。道行く人たちもそれに感化されたのか、なんとなくテンションが高く見える。フロントルームとは違う時間軸かと思っていたが、案外そういうイベントも認知されているようで、探索や散歩をするために別のレベルに行っても、ほとんどのレベルでそういう装飾が施されていた。ハルが昔拠点にしていたレベル14271のあのレベルも例外ではない。あの白い家々に電飾が巻かれ、煌々と光っていた。あれからしばらく訪れていなかったが、どうやら落ち着いたようで、ハルも嬉々としてその様子を語ってくれた。


今日はクリスマス当日だが、昨日マークから「パーティをしよう」と連絡があり、私も私でパーティに対して浮足立っている状況ではある。何が何でもイベントごとがあればパーティに結びつけようとするのは、マークらしいというか、なんというか。でも昨日いきなり言うのだけは勘弁してほしかったな。



今私は何をしているかというと、一通りパーティ会場の準備を終え、あとは食べ物を発注するだけの状態だ。マークが好きそうな食べ物は何も聞かされていないが、まあ……

あのナリなら、ピザとか好きそうだな。


なんて考えていると、後ろに何かがぱさっと落ちる音がした。

後ろを振り返ると、チラシが落ちている。


それはピザの宣伝だった。

どうやらフェイスリングが運営しているコロニーにて、クリスマス期間に限り特別なピザを焼いているそうだ。

なんとタイムリー。


支払いはアーモンドウォーターを缶一本持ってくればそれでいいらしい。

あまりにも格安すぎるが、あんまりアーモンドウォーターのストックがないから、ありがたいものだ。



──数分後、アーモンドウォーター缶を二つポケットに入れ、チラシに書いてある住所に向かう。レベル11内なのが非常にありがたい。

途中フェイスリングの乗った車に相乗りさせてもらい、そのピザ屋に到着する。



「……ここの路地を入るとすぐあるから。じゃあ」


車に乗せてくれたフェイスリングはそう言うと颯爽と大通りをぶっ飛ばしていった。

車につけられたオプションのマントがたなびいて、かっこいいエンジン音と共に遥かまで続く道路の果てに消えていく。

運転手本人もマフラーを巻いていたし、そういうファッションが好きなのだろうか。



さて。

この路地…薄暗くなっているこの路地の先に、例のピザ屋さんがあるらしい。

気味悪い感じはするものの、バックルームで長らく暮らしているとそう気にも留めなくなるわけで。

ずかずかと歩を進める。


あっという間に周りが暗闇に包まれ、周りの空間構造も怪しくなってきて、レベル11から出てしまったのではないか…という感覚がする。


やや駆け足のまま1分ほど進んでいると、明るみに照らされた一つの店に出た。どうやらここが突き当りのようだ。



電飾で彩られた店の看板部分には大きくフェイスリングの顔(…顔?)とピザのイラストが描いてあるのみである。

しかし店の中からはにぎやかな声が聞こえ、隠れ酒場のような雰囲気を感じる。


まあ、せっかくチラシを拾ってここに来たのであれば、中に入らないわけにはいかない。



……引き戸だと?


明らかに欧米の扉の見た目で、横にスライドして消えた。

まあ、それは置いておくとして。



普段ピザを食べることがなかったせいで、ピザ屋と言えばこういう内装…というのがよくわからないのだが、ずいぶんと居酒屋のような内装。

ほとんど満席の状態で、どの席もにぎやかに歓談するフェイスリングやら人間やら…



「ぃらっしゃいませー」


髪の長い若いフェイスリングが出迎える。


「あっ、さっきチラシを見てきたんです。ピザを買いに来ました」



「ピザっすねー」


「店長ー、ピザ余ってるっすかー」



間延びした口調とけだるげそうな体勢といい、ずいぶんと忙しそうである。しまったな。これだと結構待つことになりそうだ。

厨房のほうに消えていったさっきのフェイスリングが戻ってきて、



「ピザですねー。ラストふたつですー」


「ピザ一つにつきアーモンドウォーター缶ひとついただいてますー」



なんと、ちょうど買おうとしていた数と一致。


「なら、二つともください」



「かしこまりましたー。じゃあ早速お支払していただきますねー」



「これで」



「はい、ふたつありますね。ありがとうございますー」


「じゃあしばらくおまちくださーい。ふたつですと30分ほどお時間頂戴しますねー」


「…生憎うちはピザ窯がひとつしかないもので」


「暇な時間はまわりのお客さんたちと話してていいですよー。どの方もうちの常連さんです」



そういうと厨房のほうに消えていった。



……いざヒマになってみて思うが、フェイスリングというエンティティ、のっぺらぼうであるにもかかわらず、どういう感情をしているのかがわかりやすい。


さっきの子も、疲れを前面に出したような接客だった。


いや、もともとそういう性格なのか?



頭の中で首をひねっていると、さっきのフェイスリングがスタスタと私のもとにやってくる。



「店長が「暇ならその客さんと遊んでこい」って言ってましたー」


「なので遊びませんかー」



……



はい?



なんというか、バックルームの世界ってこういうことが許されるのか?


…と思ったけど、何かと規格外れのことが度々起こるバックルームの世界。案外こういうハプニングもあったほうが人生面白いか、と思う。


時期的にも今日はちょうどクリスマス。この子も何かしらの予定はあったろうに、それでもここに一人立っているのなら、せっかくだったら遊んであげよう。



「遊ぶって言ったって、私はあんまりフェイスリングの娯楽には詳しくないんだ。普段何をして遊んでるのか教えてくれる?」



「人間とあんまり変わらないと思いますよー。ゲームして惰眠を貪るだけですー」



「…そうなんだ」


さてはこの子、ただ面倒くさがりなだけじゃ?



「なら、ゲームでもしましょうか」



「いいんですか?僕ゲーム強いですよー?」



キラキラした目で見てくる。

そして同時に闘志を燃やしているようにも見える。



…私は対人ゲームは苦手なのだが。



「いいよ。暇つぶしになればそれでいいしね」



「やったー!」



そのまま無邪気に店の奥の方へ走っていくフェイスリング。



「お客さんもついてきてよー」



手を引かれるがまま店の奥につれていかれた。






───ゲームなんてものをしていれば30分などあっという間に経つ。この30分間、私は某乱闘ゲームでこの子のプレイスキルに全敗を喫していた。


強すぎんだろこの子。



部屋のアラームが鳴ったところで、


「ピザ出来上がったそうですよ」


と一言言ってきた。



さすがにこれ以上負け続けるとメンタルが弱ってしまうのでここでゲームを切り上げる。


店の出入り口近くまで戻ってきたところで、赤いエプロンを巻いた大柄のフェイスリング出てきた。


「こども、面倒見てくれてありがとう。できたピザ、ここに二つあるからね。」


「この子、喜んでたし、また来てくれるとありがたいね。」



そうしてピザが入った袋を差し出してくる。


「いえいえ、こちらこそ待ち時間を楽しく過ごせましたし。上手かったですよ。ゲーム」



「お客さん!またやろうね!店長ゲームめっちゃ弱いからお客さんとのバトル楽しかったよ!」



「レイン、ため口出てる。お客さんの前はため口ダメだね。」



「あっ」



「…とにかく、ありがとうね。今後ともご贔屓にね。」



こんなにお安くピザを戴けて、こんなに楽しい待ち時間を過ごせるなら、きっとこのお店にはまた来るだろう。

…一つ難点があるならば、どうやってきたらいいかわからないくらいか。


そんな心を見透かしたかのように、レインが口をひらく。



「このお店、実は場所が決まってなくてね。どこにでも行けるよ。初めてくるお客さんはあの道から入ってこなきゃだけど、二回目からは念じるだけで近くに現れるよ」



「そうなんですね…」


店長の鋭い()()がレインに突き刺さっている。


それを見て私は、つい言葉をこぼしてしまった。



「別に、私に対して敬語を使わなくてもいいんですよ。ゲーム一緒にしたんだから、言葉が崩れるのも仕方ないと思いますし」



「…そういうものなのですかね。」


「でもこの子すぐ調子乗るから、毎回言っておかないとね。」



そういう楽しい会話も終わり、また暗闇の路地に足を踏み入れる。

1分ほど歩いていると、大通りに出た。


…この大通りってもしかして拠点のところじゃないかな。


行き道はたしか車で走って数十分はかかってたはずだぞ。本当に自由に移動できるみたいだ。


まあ、熱々のピザを持ったまま帰り道を歩くのもアレだったし、すべては結果オーライか。



そんなこんなでパーティの準備は整った。

とはいえ、もともと参加者は私とマークだけだが、二人で一つずつピザを食べて、それで最近の出来事とかを話せればそれでいい。クリスマスだからって予定を入れないといけないわけでもなかろうに。





マークから連絡があったのは、それから少し休憩をはさんで、そろそろピザを開けようかとしていた頃だった。


丁度レベル11に到着したとのこと。


程なくして、拠点にやってきた。



久しぶりに会うマークの体は…ちょっと前よりさらに太ったような気がするが…



「久しぶりです、マークさん。……太りましたよね?」



「ああ、一瞬でばれちゃったか。そう。ちょっと不摂生してたら見る見るうちにブクブクと…」


「年を取るとどうも体の制御が効かないよ」



「…おいくつ…?」



「もう50を超えてから数えてないよ。多分53くらいかな」


「…もしかして、不潔に見えてたりしないよね?」



見た感じ、明らかに太っている以外に異常はないように見える。それ以外のところは、自らのケアを最大限頑張っている証拠だろう。


「その心配はおそらく一生不要かと思います。気を配ってますよね。自分の体のこと」



「あらら。そこまでお見通しなんだ。だってこの年齢になってくると加齢臭がどうたらで、周りがしかめっ面してるのをよく聞くからさ。特に匂いには気を配ってるつもりさ。」


「だからフレグランスな香りがするだろう~~?」



「近づかないでください」



「ケッ!つれない奴め!」



「まあいい匂いはしますね」


「…ピザの」





これ以上永遠に話してるとピザが冷めてしまう。


ピザが入った箱を開けると、いかにもおいしそうなピザが顔をのぞかせた。

焼き海苔で顔の形が描かれているが、顔のパーツが乗っていないことを考えるとこれはフェイスリングのキャラピザ…?

随所に照り焼きの豚肉とコーン、マッシュルームやトマトが乗った…

見ただけで唾液が止まらなくなるピザ、それが二枚。


久々に食欲に火が付いたような感じがした。



一口ほおばると、そのチーズの甘さたるや。

思わず顔がほころぶ。

マッシュルームとチーズの味が口いっぱいに広がって、この時点で私の五感すべてがこのピザにクギ付けになった。

ややチーズに飽きかけてきた瞬間に口に飛び込んでくる豚肉の濃いテリヤキの味がより一層ピザらしさを醸し出し、まだパリパリの海苔がピザの耳と共に食感ですら要素を一つ加えてくる。

一見仲間外れに見えるトマトの酸味がそれらでたるんだ舌をリセットしてまた最初からその味を楽しませてくれるようになる──


そしてこれだけ情報量がありながら、それぞれが喧嘩せずうまく手を取って口の中で踊っている。


このピザ…あまりにも完璧すぎる。


そうして一枚、また一枚と手が止まらなくなり…

気が付けばピザは無くなっていた。


マークのほうを見ると、物足りなさそうにピザが入っていた箱を眺める大きいおじさんの姿があった。

量的には私は満足だが、マークには物足りない量だったようだ。


しかしもう余りはない。ラストの二つをもらってきたんだから、店に行ってももう買うことはできないだろう。


まあまた在庫があるときに買うことにしよう。



「ああ…このピザ…おいしすぎてもう他の食べ物が物足りなく見えてしまう…」



「私もそう思いますよ。できるならもう一度食べたいですね」


持参したというポテチの袋を見ながらマークはため息をこぼした。



「もう仕方ないですし、そのポテチでも食べながらでも話しましょうよ。どうせしばらく会ってなかったんですし、積もる話もあるんじゃないですか?」



「よく聞いてくれた。うっかり話すのを忘れるところだったよ。」


「なんてったって私は最近安全なレベルに限ってだけど探索をするようになったからねぇ」



「えっ…まじですか?」


「あのレベル4から動かないって言ってたあの頃のマークさんはどこへ…?」



「ハハハ、やることがなくなったから、ヒマつぶしにね」




……外を見るとずいぶんと夜も更けてきたのか、通りの人もまばらになっている。


相変わらずキラキラ煌めく街路樹のイルミネーション。

今日は夜を照らす街灯替わりとなる。


しかし折角足元が見やすくなっているのに、いつものように人々は自らの家に帰り、各々の時間を過ごしている。

今日はクリスマス。特別な日にウキウキするもよし、普通に過ごすもよし。

私たちはパーティを開いている。

あのフェイスリング二人は今頃店を閉じる作業に追われている時間だろう。



「ああそうだ、ここに来る途中にピザのチラシを拾ったんだ。このチラシ、レベル4を発つときに背後に降ってきたんだけど、あのピザ…このチラシのだよね。」


「アーモンドウォーター一つであれほどまでにおいしいピザが食えるなら、クリスマスが終わっても売っててほしいけどねえ……じゅるり」



「さすがに食い意地はりすぎじゃないですか?おいしいものってピザだけじゃないでしょうに」



「だけどさあ…忘れられないよあの味は…」



「そうですね。また今度時間があったら行ってみましょうか。店の人たちと話せる仲になっちゃったし、私ももう一回行きたいですね」




改めて考えたら、私一人だったら間違いなくクリスマスだなんて気にしてなかった。

マークが誘ってくれなかったら、今頃寝てただろうし…

美味しいピザも食べることができたし、きっかけを作ってくれたマークには感謝しないと。


そう考えながら私はポテチを口に運ぶのだった。


物語の時系列だと、本編からかなり未来のお話になります。


今回登場したレベル


Level 11: "The Endless City"

2019年作成

Nerdykiddo4884氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_11_(1)

CC BY-SA 3.0


この作品はCC BY-SA 3.0の下で公開されています。

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