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第二十一話

前回のあらすじ


ラボのレベルにて、いろんな映像資料を閲覧できてウキウキの私であった。


***



俺はあまり人と関わりは持ちたくないタイプの人間。だからバックルームに落ちた時は、鬱屈として変わりようのなかった現実から脱出できたって思えていたんだ。

けど、あの黄色い場所で過ごしているうちに、やっぱり現実の家に帰りたくなってきた。

こんな黄色い何も無いような場所で人生を終えるより、もっとたくさんのことをして、自分のための人生を歩んでみたくなったんだ……

そう考え始めたらもう止まらなくて、気付けばこの黄色い場所からの脱出のこと、家に帰ってぐっすり眠ることしか頭に残らなかった。


あのレベルの脱出口を見つけることができたのは、それからかなり時間が過ぎた頃。多分、二日くらいはさまよったんだろうけど、時間がわかるものが何もなかったから、憶測で。

まあ、それくらい経ってようやく見つけた脱出口。ようやく家に帰れる!って思ってたのに、俺の目に飛び込んできたのは馬鹿でかい地下駐車場だったんだ──



もう意気消沈してただ歩くことしかできなくなった俺に、たまたま出会って手を差し伸べてくれた地下駐車場のグループのメンバーには感謝しかできない。飢えて倒れる運命だったはずの俺に生きる希望を与えてくれたから。けど、今になって考えてみたらあの時さっさと飢えて倒れておけばよかったかも、って考えもある。だって、こんな家に帰る希望を完全に失うこともなかっただろうし…


それから俺はしばらくそのグループに居候させてもらった。この地下駐車場のどこかに勝手に出てくる水とか食料とか、それらを分けてもらってなんとか家に帰れないかっていうのを連日みんなに質問して回ってた。けど帰ってくる答えはいつも「それは難しい」って言葉だけ。さらに問いただしてみたら、「帰る方法はあるにはあるけどハル君にはあまりにも遠すぎる目標だ」ってのを教えてもらったんだ。

その時はまだ事の重大さを何一つ理解していない素人だったから、ただの冗談のようにすら聞こえてた。今考えてみたら、あんなエンティティもいるあの危険な空間にずっと留まり続ける理由なんて一つしかないのに。



それから数カ月、この俺たちがいる現実から外れた空間、バックルームについてじっくりとレクチャーを受けながら生活してた。この世界は俺たちがもともと住んでた世界とは別の世界だっていうこと、危険な生命体がいるっていうこと、レベルって呼ばれてるこれらの空間を移動する方法に”ノークリップ”っていう手段があること…

その時点ではまだ、うっすらと家に帰ることの希望は残ってたはず。じゃなかったら、あんな無茶な行動は俺の性格だとしないから。そうでなかったとしたら、どこか気が狂ってたんだろう。

俺は、あの地下駐車場、レベル1を脱出して家に帰る手段を見つける旅に出たんだ。




俺は昔から命に関わることに関しては運がいいほうで、今回も例に漏れなかった。いろんなレベルを壁にぶつかりながら転々として、エンティティに追われることがあったり、なんとなく居心地のいいレベルにたどり着いたり。けど命の危機に瀕することなんて一度もなかった。

そんな日々を続けてたある日、いつものようにノークリップで壁を貫通して、新しい情報を見つけようって進もうとしたとき、あのレベルを見つけてしまった。アメリカ郊外のような、夕方からずっと変わらなくて温かい、生活感のある…あのレベル。


その時の俺は、何度挫けかけたかわからないボロボロになった希望と、まだ生き続けたい人間としてのプライドがせめぎあって何が何だかわからない日々を送っていた記憶がある。


そうした中見つけた、久しく感じたことのなかった、人間味のある暖かな雰囲気のあの空間は、形を保つのに精一杯だった俺の心に深く突き刺さったんだ。ついに家に帰れたとすら思った。俺の実家とは見た目も雰囲気も違う、けどただそこに待っている俺の今までのすべてを受け止めてくれそうな家々。俺の間違った帰巣本能を呼び覚ますにはその光景を一目見るだけで十分だったんだ。



まるで誘われるように、不法侵入なんてこと一切思わずに、建ち並ぶ白い家の一つの玄関を開けて、階段を昇って、部屋のドアを開けて、玄関から一直線にベッドにもぐりこんだんだ。

しばらくぶりのその柔らかいベッドの感覚に酔いしれて、つい一眠りして。

ハッとしたのは起きて少ししてからだった。



「なんで初めて入った家の構造を把握してるんだ?」



でも、その疑問は寝ぼけた頭だからこそ考えれたことだった。頭が冴えてきて、今一度この家を見て回って、確信したんだ。それから疑問はこう変わった。



「なんでこの家の内装は俺の実家と瓜二つなんだ?」



どこも違わない。かつて、子供の時の自分が両親と過ごしてたあの家がそっくりそのまま再現されている。

…小学校の頃に夏休みの宿題で描いた両親の似顔絵と、いつしか壁にクレヨンで描いた消えないラクガキ。

…酒好きの父さんのために母さんと二人で拵えた酒瓶入れ。

…ネット通販で母さんが奮発して購入したけど、結局誰にも使ってもらえなくて部屋の隅っこで小さくなっているダイエット器具。

…「思い出が詰まってるから」って、いつまでも捨てないまま放置されているおもちゃ入れ……



あぁ、俺が今までバックルームで歩んできた道のりは無駄じゃなかったんだ。帰るべき場所はここだったんだ──

今ついにたどり着いたゴールは、その時の俺の目にはあまりにも希望に映って仕方なかった。


18歳。高校を卒業して、実家を出て新天地で自分のやりたかった仕事に打ち込めると息巻いていたあの時。

それから数年、ただの歯車に成り果てて毎日同じことの繰り返しになって荒んでいった人生の明るさ。

数か月前、バックルームに落ちて、あの何も変わらない鬱屈とした日々から解放されたと喜んだつかの間。

そして、あるはずもない家に帰る希望を胸に冒険を続けていた最近まで。

いつしか忘れていた、実家に帰る思いすら回帰させる思い出の日々が脳裏に次々とよぎる。


目の前に広がる景色は、かつて失った明るさのすべてを、埋め合わせされるかのようだった。

ぐっちゃぐちゃにかき乱された感情があふれ出る。どうしたらいいかすらわからないまま、ただそこに突っ立って涙を拭くことも忘れて…

その日のその先の記憶はもうない。




───それからずっと、俺はその家に住んでいるかのようにレベルに留まり続けた。もう、なにもしたくない。帰るべき場所に帰ったんだから、もうずっとこのままでいてやる。

そんなことを考えていた。既にこのレベルに依存していたんだろう。

そしてこのまま永遠にこのレベルで暮らして、なんてことまで考えていた。


あるときある機械を見つけるまでは。



その時もただ俺はレベル内で散歩をしてた。あの家は生活に必要なものは何でも湧いて出た。水、食料、電気…

実家暮らしの時の俺の記憶のままの内装は、多少白く褪せているけど各機能はそのままだから、蛇口をひねると水が出るし、冷蔵庫にはいつも新鮮な食材が補充されていた。簡単な料理ならできるからそれを使って料理して食べ物を賄った。

だから依存はどんどん強まるままで、今考えるとそのまま人生を終えてしまいそうだった。

唯一娯楽だけはあまりなかったから、ヒマになったら散歩とかをして退屈をしのいでいたんだ。



でも、その散歩のとき、今まで見ることのなかった小さな公園を見つけたんだ。家の基礎部分だけが残っているような荒れ地に、大きな鉄色の機械が鎮座していた。俺はただ興味だけでそれに近寄ったんだ。


まさか、ノークリップ以外でレベルを移動できるなんて、当時の俺は思いもしない。

まさか、目の前の機械がそういった転送装置だなんて頭の片隅にすらなかった。


ただ、ほんの少しの興味が、俺のようやく手に入れた大切な安定した日常を奪い去り、あの不安定で危険なバックルームの冒険の日々に再び叩き落としたんだ。

ついふれてしまったボタンによって起動した装置は、放電でもしたのか、俺の意識を一瞬にして奪い去った。



……あの時、別のレベルで目が覚めた俺の絶望ったら、何者でも再現はできないだろう。

気付けば今あの冒険者と過ごしているレベル11にいた。

あの家に、ほとんどの荷物を置きっぱなしにして。


最初はよくわからない郊外のような場所で気が付いたんだ。

肌寒いような木枯らしが吹く大きな倉庫のような建物が建ち並ぶさびれた場所で、俺は何とか身を置けそうな場所を探した。ただ目の前にあった大きな倉庫の入り口は簡単に開いて、たまたまそこに置かれていた寝袋に包まって物思いに耽る日々を過ごした。

唯一持っていた携帯の充電が切れかけようとしてた時、助けを求めようかという考えに至ったわけだ。倉庫の周りを歩き続け、発展した都市を見つけるまでそう時間はかからなかった。とっくに携帯は電池切れになってたけど、それでもなにか救いはないかって歩いたんだ。


…そうして見つけたのが、あの木製の看板だった。

藁にもすがる、と言ってはアレだけど、当時の俺はわずかな食糧で食いつないでいたから案外否定はできないのかもしれない。


倉庫で寝袋に包まってる俺の後ろで扉が開いたのはその一日後だった。



それから。

冒険者から転送装置という概念を教わり、再びあのレベルに戻ることができた。

けど一度あのレベルを離れたからか、あの家にずっといたいなんてもう考えることはなかった。

時々その彼の拠点に俺のあの家から段々と物資を運び続けている。

今では、彼から分けてもらった部屋に新たな俺の家が完成しようとしている。






──ふと、あのレベルからあの時ずっと使っていた布団を持ってこようと思った。


小さい時から愛用していたブランドものの布団。数々の思い出が積み重なったあの布団は、たとえあのレベルが用意した偽物だったとしてもあれ特有の温かさが恋しい。とはいえベッドごと持ってくるのは不可能なので、せめて掛布団だけでも持ってこれないかな、と考えたわけだ。


とりわけ大きなリュックサックを背負って彼が新設したと言っていた交流所に降りる。

地べたに座って何か機械をいじっていたおじさんが

「兄ちゃんどこか行くのかい?そんな大きなカバン背負ってさ」

と声をかけてきたので、

「思い出のレベルがありまして、そこから物資を調達してこようかなって」

となんとなく返しておいた。



……Mk.2。冒険者が自作したって自慢していた転送装置。タッチパネルに行きたいレベルの特徴を入力すればそのレベルに連れて行ってくれる代物。そう考えると、そんな夢のような機械をよく作れたなあ、と感じる。

ちょっと前に作られたばっかりらしい、Mk.2の帰還に使う携帯サイズのビーコンをポケットに入れて、あのレベルの情報を事細かに入力して、ENTERキーを押す。


もう何度も使っているこの機械。操作も手慣れたもので、使うごとに起動がより早くなっていく。そうして、いつものルーティーンを済まして、あのレベルに飛ぶ。



今回はすぐ帰ってくることにしよう。




***




……さて。いい素材も手に入った。いい情報も手に入った。あのラボの探索は非常に価値のある内容だった…なんて考えながらいつもの拠点の地を踏む。

荷物を下ろし、いつも帰ってきたときに確認しているあの掲示板に足を運ぶ。



しばらく確認していないような気がするその看板には、新たな情報が数件確認できた。

特に目を引いたのは、なぜかここに貼ってあるKの伝言。


ランプ街に設置されているカメラ映像の進捗について

撮れた映像を確認していたが、周期的に空間異常が確認できた。空間がゆがんでいるような見え方をしている。

地面の石などが跳ねている現象も同時に確認できた。

観測機器を確認したところ、同タイミングで見えない何かがこのレベルに干渉している可能性があることを確認した。調査依頼を出す。詳しいことは僕に確認してくれ。  ─K


P.S. ほんとにこの場所に貼り付けておくのでいいのか?



どうやらランプ街のあの異常現象に進展があったらしい。調査内容と、観測の細かい結果を聞きに行くためにKのいるモールに向かうことにした。映像資料は、送信してもらって一人で見るより、せっかくならKと一緒に見て意見を交換したい。



私は念のため…いや本当に念のため、ビーコンを持ってモール方面に向かった。


なんとなくハルの過去の掘り下げした方がいいかなって思って書いたエピソードです。


今回登場したレベルたち


Level 1: "The Habitable Zone"

2019年作成

作者不明

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_1_(1)

CC BY-SA 3.0


level 14271 : ”ノスタルジアの街

一部オリジナルレベル

↓ ↓ ↓

参考元(見た目だけの参考)

Wikidot版レベル 995 : "Reality aligned houses"

作成年不明

RiemannHypothesis氏 FoodPieIntegration氏 作

https://backrooms-best-data.fandom.com/ja/wiki/%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB_995

CC BY-SA 3.0


Level 11: "The Endless City"

2019年作成

Nerdykiddo4884氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_11_(1)

CC BY-SA 3.0


この作品はCC BY-SA 3.0の下で公開されています。

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