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第二話

前回のあらすじ

危険なレベル3からの脱出を目標に突き進んでいた私は、過去の誰かがのこしたランダムレベル遷移装置を使い運よく安全なレベル4に来た。

薄暗い古びたオフィスのような、安心感すら感じるこの光景…ここは間違いなくレベル4「忘れられたオフィス」である。ついさっきまでの緊張感あふれるレベル3と打って変わって、ここにはエンティティなるものとの遭遇記録はほとんどない。


「安全なレベルと言えばレベル11とかもあったよな…でも、とりあえずここまで来たんだし休憩するか~」


緊張がほどけると程よい脱力感がやってくる。

埃の積もった椅子を引っ張り出し、そこに腰を掛ける。つかの間の安心感を前に、リラックスタイムをキメた。


休憩している間ふと周りを見渡す。この部屋はデスクとパソコンが密集しているが、隣の休憩室とはガラスの壁で仕切られており、そこには自販機とロッカーが照明に照らされている。

自販機のボタンをなんとなく押してみるとガコン、とお茶が出てきた。なんとなくまだ飲めそうな見た目をしている。試しに一口つけると、それまでののどの渇きがみるみる浄化されていく。少し元気が出た。


「このレベルを色々見て回るか。収穫があるかもしれんしな」


休憩をおわりにして廊下に出る。廊下は明かりがまばらで薄暗い。この廊下も、先程のレベルと同じく非常灯の赤いランプが目立った。


廊下を進んで目についたのは書室と書かれている部屋。木製の扉を開けると壁一面に広がったファイル棚が優しい光とともに私を出迎えた。様々な名前のファイルが収納されていたが、その中で目に付いたタイトル…”レベルマップ記録”を開く。


そこにはこのレベルの地図が載っており、このレベルから他のレベルへの遷移先の情報が多数確認できる。レベル0,レベル5、レベル9…

「あれ?11にも行けるのか?これは聞いたことがないな」

珍しい遷移先である。さらに11への遷移方法については事細かに記されており、成功実験として綴られている。



”我々自作の疑似ノークリップ転送装置の試験稼働として、レベル11を選択。調査員数名を一人ずつ送るもいずれも正常に11に到達。遷移時の留意事項として、該当レベルへの遷移に強い意志を持つことが推奨される。また我々はこれを好機ととらえ、拠点をレベル11に移設することを先日正式決定した”



この後のページにはレベル11への拠点移設の完了を宣言する文言とともに、こう書かれていた。



”使用用途のなくなった当転送装置は当レベル西端に移設。今後後継機の製造に着手し、順次放棄予定”



静かにファイルを閉じる。

”レベル11”バックルームの話をする際は必ず一度は聞くであろう完全に安全なレベル。数々の探索者が拠点にする、黄色い空間の次に有名な巨大な都市の姿をしたレベルだ。


そこに確実に遷移できる装置があるとなれば、使わないわけにはいかない。

「来たばっかりだけど、このレベルともおさらばだな!」

同ファイルに入っていた地図を手に、転送装置が置いてあるという西端に向かって移動を開始した。


…道中が長い。廊下を何個も移動し、階段もたくさん上がっているのに、地図だとまだ半分だという。道は暗く、非常灯の赤い光が唯一の光源で足元がよく見えない。体力も気力も消耗が激しかったが、今しがた休憩室で手に入れた水が体力を保たたせてくれた。そして移動すること一時間。


「やっと着いた…」

たどり着いたのは他の部屋とは違い明かりのついた、でも空調が機能していない無音の小さな部屋。


部屋の真ん中にはリング状の装置が置いてあり、そこから導線を伝って本体とみられる機械に接続されている。本体の電源ボタンを押すと、画面に文字が現れた。放棄された機械ながら、まだ息があるようだ。



”転送先:レベル11

 認証 :済

 準備完了 ‐ ”



なぜか既に準備が完了している。となりのENTERのボタンを押せばすぐにでも転送が始まるであろう。

「そういえば、あの資料の中に転送先のレベルのことを考えてるといいみたいなこと書いてあったっけ」


遷移予定先であるレベル11に確実に行きたい。無駄なことには巻き込まれたくない…そんな考えを強く意識し、ENTERのボタンを押下する。



機械は大きな音を立てて動き始めた。慌てて中心のリングの上に立ち、呼吸を整え姿勢を正す。

稼働音は徐々に音階が高くなり、それに合わせて私の五感もおかしくなり始める。光にムラが生まれ、高く響く機械音に低いノイズが混じり、平衡感覚もまともに機能しなくなりかけ…


「おい!君!何をし」


ーーー私は捻じれた。

 




...聞こえるはずのない青信号の音がする。匂うはずのない焼き立てパンの香りが漂う。

確信に満ちた気持ちでむくり、と上体をおこして目をこすり視界を回復させる。

やがてはっきりしてきた視界に飛び込んできたのは、発展した無人の都市だった。



無言で盛大なガッツポーズを決める。やはり転送前に強い意志を持ったのは正解だったのだろうか?

よく考えれば、レベル3でランダムに飛ばされる装置を起動したときも、楽なレベルのことを考えながら遷移した気がする。

私はメモ帳にその旨を書き留めた。




…ここは一番安全と言ってもいいレベルだ。敵対エンティティは出現しても謎の力でおとなしくなる。そもそもエンティティが出現するのは非常にまれであり、基本その心配をすることはない。

今後脱出までの長い期間、腰を据えられるような拠点を構えるならここしかない。自室替わりとなる空き部屋はこのレベルには無限にある。探すまでもないが、一応今後の拠点の発展を考えて、立地のいい場所を探した。

近くのビル群のうちの一つ、大通りに面したコンクリート製の建物の6F。建物内で一番広い間取りをしているこの部屋が、私には好条件に映った。


家具など何もないこの部屋に背負っていた荷物を置き、床に足を投げ出して座る。ついにこのレベルにたどり着いた達成感とともに、ただ数分間、そうして過ごした。


ふともの思いに耽る。折角バックルームに落ちて生存したままここまでたどり着いたのだから、脱出して現実に帰る前に様々なレベルに探検に行くのも悪くない。

最初に考え付いたのは…


「さっきの転送装置みたいなのを私も作ってみるか」


多少なら機械の組み立てには経験がある。回路を一から組み立てるのは何なら得意分野のほうである。この異世界に転送装置のようなファンタジーな機械があるのだから、わたしが何か作ることも容易いはずだ。とりあえずこのビル群に設計図とパーツを探しに向かうことにした。




「意外にも潤沢に回路セットがあるもんだな」


パーツ探しに二時間。部屋に帰ってきた私の手には大量の銅線と基盤をはじめ、工具類やUSBバッテリーが抱えられている。周りの建物を探した際、いろんな部屋にこういった工業部品が散らばっていた。


今回の探索で手に入れたものをメモに書いておく。



”大型バッテリーユニット

大量の銅線と基盤類

ドライバなどの工具セット

デスクトップパソコン

USBメモリ(中身なし)

無線送信機、受信機

LEDの赤い警告灯

これらを持ち運んだかばん ”



一通りメモ用紙に書き込み終わると早速転送装置の組み立てに入る。


バッテリーユニットを中心に、解体したPCから取り出した諸々のパーツを基盤につなぎ、機構を再現していく。ひとまずそれらを完成させて作動中を示す赤い警告灯を設置すると、次は無線送信機にUSBを接続して送信記録装置に改造すると、遷移先のレベルを指定して転送ができる機械が完成した。


この機械を使用後、床や壁に勢いよく激突してわざとノークリップ現象を引き起こし、指定したレベルへの遷移を完了する。この機械の役割はあくまで遷移先の指定であり、以前使用したノークリップ現象まで管理するような機械ではない。


次に、遷移先のレベルで起動する簡易的な機械を設計する。余ったパーツで今のと同様な機械を簡素なつくりでこしらえた。


これをレベルの遷移先に設置し、ここに帰ってきたいときにそれを使用する。遷移先の指定はレベル11に固定化してあるため、さらに別のレベルに行くことは不可能だ。


「完成だ、ついに…!」

作業すること丸一日。これらの機構をついに実現することができた。



「使用方法とか忘れないように軽くまとめておくかな」

この機械の仕様と使用方法をメモ用紙に殴り書きする。



”この遷移装置はレベル11から出発し、使用者が指定した任意のレベルにつなげることのできる装置である。

任意の遷移先を指定してから装置を起動し、赤いランプが点灯したら自分で壁などにノークリップを試みる。成功すると機械で指定したレベルに正常に遷移が可能となる。


帰り方は小型の同様の装置を遷移先まで持ち運び、設置して使用する。据え置き型なのでレベル内のどの場所でも使用できるとは限らず、さらに同装置を使って11以外のレベルに行くことはできない。”



”この機械の名称を、今後の改造改善を見越して「Mk.0」と名付ける。”



ここまでメモに書き込むと壁に貼り付け、さっそくこれの起動試験を開始した。


「起動試験だし、帰ってこれなくなった時用にさっきのレベル4に行くか」


MK.0に遷移先の情報を打ち込む。暖かな匂いのするオフィス…埃の積もった机とイスたち…

入力を完了させ起動のボタンを押すと、正常起動を示す赤い警告灯が点灯する。うぃぃん、という起動音とともに排熱ファンの回る音がし、「起動完了」と録音した私の声が流れた。


この機械を操作するのはここまで。私は近くの壁を見つめる。


「痛そうだなあ…」

とつぶやきながらも覚悟を決めてその壁に向かって全力でダッシュし、激突ーーー



…どうやら痛みの心配は不要だったようだ。ノークリップ特有の浮遊感と落下の感覚を味わいながら、私はそう考えた。


だんだんと読みやすい文になるといいなって目標です。


今回登場したレベルたち

Level 4: "The Abandoned Office"

作成年不明

Hexirp氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_4_(1)

CC BY-SA 3.0


Level 11: "The Endless City"

2019年作成

Nerdykiddo4884氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_11_(1)

CC BY-SA 3.0


この作品はCC BY-SA 3.0の下で公開されています。

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