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第十四話

レベル11でようやく別の探索者に会うことができた。Kと名乗るその人物の調査にほんの少し協力した。本人に出会うことはできなかったが、レベル11での生活はより楽しくなってくるだろう。

ほかの探索者ともコンタクトを取りたいため、拠点前に看板を設置し、私の存在をアピールしたのだった。


結構長いこと寝ていたようで、目が覚めると体が重い。ゆっくりと時間をかけて起き上がり、いつものルーティンをする。今日から、追加で例の看板の確認も。


看板に更新は何もなかった。



近頃の私の行動は、様々なレベルを回って、そこであった色々を記録し他者に伝えること。最近分かったことだが、マークやKなど、バックルーム内の特定のレベルに常駐し、そこで研究したりただ日常を過ごしたりする方が普通。私のようにレベルを短期間で飛び回る所謂「記録者」はバックルーム内でもかなり数が少ないようだ。ついでに機械をいじれるのも。だから、もし誰かと交流が持てるのなら、その点で私のアイデンティティは確立されるということである。しかも、同じ記録者と出会った時も、その探索の内容や協力調査などでどっちにしろ私の立ち位置は悩むことはない。

自分自身が探索好きなのもあるが、これが今後のバックルームの理解度アップに貢献ができるならうれしい限りだ。



さて。今日はどこを探検しよう。


頭の中で思考を巡らせていたが、バックルームに入る前に聞いたことのあるレベルを調査してみることにした。

レベルは36。大きな空港のレベルだ。なぜこのレベルにしたのかというと、このレベルから現実への帰還報告があるからだ。これを調査して、あわよくば現実に帰ることができたらば。


Mk.2を起動する。大きな空港にあるような特徴を色々入力していく。都市郊外にある大きな空港。中には様々な売店があり、多数の飛行機が発着し…



起動完了だ。Mk.2の赤いランプが点灯し、荷物の最終チェックを行うと、遷移開始する。バーベルはいつものごとく落下の衝撃で空間をゆがめさせ、ポータルのようなものを生み出す。これが閉じる前に、私は体をねじ込んだ。






空港のような外観が見えてくると私は体を起こした。


赤いカーペットは広いロビーの全体に敷いてあり、その視界の奥の方に無人の受付がある。

搭乗口の案内の数字はどの方向も0番ゲートを示しているが、実際のゲートにはしっかり通し番号が振ってある。


耳を澄ますと飛行機のエンジン音に加えて小さなアナウンスが流れていることに気付いたが、その内容は聞き取れない。むしろ…このアナウンスは聞こえるように認識されているだけで、ただの無音だ。矛盾している。

自動販売機には何も充填されておらず、ところどころ床にスーツケースが放置されている。正攻法で開けようとしても、力づくで開こうとしてもスーツケースの中身を見ることは叶わなかった。

外を見ると滑走路のようなものが見えるはずだが、それは深い霧に包まれて全く視認ができない。


空間の居心地は可もなく不可もなく、気温も光源も各種通信機器も精神状態にも何も異常はない。



早速このレベルに来た意味から調べていこう。

「現実行きの飛行機」。バックルームを知っている人にとって飛行場や空港のレベルでは常について回る話題だろう。帰還方法の一つとして動画やチラシなどで紹介されていたこともある。


全ての便が急にすべてキャンセルされると、ごくまれに一便だけ新たな飛行機の発着案内が入る。その飛行機は現実行きの可能性がある


館内放送が、まれにレベル内にいる探索者を名指しで呼び出すとそれは現実行きの飛行機の搭乗案内だ


搭乗券を事前に所持していた探索者が、突然ワープし現実行きの飛行機の中にいた


噂や実体験と語るものは耳に嫌というほど入ってくる。しかしこれらは同時にレベルによる罠という説もあるという。


実際このレベルの発着案内板を見てみると───



【時刻】 【行先】   【状態】

00:00  不明     キャンセル済

00:00  ■■■■    搭乗中

00:00  REALITY   あなたを待っています


「…え?」


思わず声が漏れた。


”名指しで呼び出されるとその飛行機は現実行きの便だ”


噂そのままの出来事が目の前で起こっている。



…しかし、罠の可能性も捨てきれない。今の状態はすごく用意された展開のように思えるのだ。

でもこの便に乗ったらどうなるのか気になった私はひとまず、まだ引き返せるところまでこの誘いに乗ってみることにした。


呼ばれているということはおそらくその搭乗チケットがいつの間にかバッグに追加されているはず。そうメタ読みしてバッグをまさぐるとその通り、くしゃくしゃのチケットが出てきた。

「REALITY行き あなた専用」と書かれたチケットを持って、受付端末に向かう。


”本日の運行状況をご案内します。チケットをお持ちの場合は端末にかざしてください”


その案内に従ってチケットをかざす。案内機は電子音を出して


”受理されました。快適な空の旅を。”



ゲートをくぐり、窓の外に見えるその飛行機と対面する。相変わらず深い霧に包まれた滑走路だが、その飛行機だけはっきりと視界に映る。



純白の色をしたその機体にロゴや機体番号は何一つなく、窓も黒くて中を覗き見ることができない。

エンジンはかすかに回っているようで、その様子が確認できる。


霧が濃いため、たった今飛び立っていった別の飛行機は滑走路から離れた瞬間視界から消えた。


時折滑走路に着陸するかのような風景が概念で感じられるが、実際はそんなことは起こっていない。

例の飛行機への搭乗口モニターは、「間もなく搭乗開始です」と案内が出ているが、ロビーを見渡しても誰もいないし、たまに視界の端に人影が映るがそれも幻影だったり。


…ますますこの便が怪しく思えてきた。



頭の中で考えを整理する。


まず、これは正真正銘の現実行きであるというもの。

…深く考えることもない。これはあり得ないだろう。こんなに簡単に帰れるのならば、噂程度で収まる話ではないはずだ。


次に、これは罠であるというもの。

今のところ疑っているのはこれで、危険なレベルに飛ばされたり、VOIDに落とされるかもしれない。


最後に、これはただのフェイクで実在しない機体だということ。

つまり、見せかけ。ただ、これもなんとなく無いような気がしている。



というわけで私の中では結論、危険なものだと考えた。


だがしかし、帰還の可能性も無きにしも非ず…の考えが捨てきれなかった私は、ある存在に頼んでみることにした。




脳を、その存在につなげるようにイメージして、頭の中で考える。


(……聞こえていますか?

ここは空港型のレベル36です。

今私の目の前に行先がREALITYとなっている飛行機があります。

あなたのような存在にその中身と特徴を見抜いてほしい。

ここまで来れますか?…影。)



この前シェルで影と対話したとき、ほかのレベルに移動できるようになったと言っていた。影のような存在だと、人間の私よりはるかに低リスクであの飛行機の正体を見抜いてくれるはず。使いっ走りのような気もするが。


しばらくの静寂が辺りを包んだ。

───刹那、私の背後で、光源に異常が起こった。風もなく、大体が止まっている空間で、光が揺れ始めた。

それはやがて大きくなると一瞬周りの照明を奪い、それらが再び点灯したときには、


影は、そこにいた。




ここは私の行動範囲内だ。あなたの声を頼りにここまでこれた。

この機体の先に出口があるか。たとえあったとしても、そこは全ての出口ではない。

現実に戻るには、帰還ではなく離脱をする必要がある。


私もこの機体の挙動を見てみたい。あなたが搭乗を拒否するのなら、私が代わりに観測してこよう。


「なら、もし危険があったらすぐ戻ってきて。お願い」


”了解した”



影はスーッと地面を滑り、搭乗ゲートをすり抜けて飛行機へと向かっていった。そして、その飛行機のドアをすり抜けて…



周りがより静かな雰囲気に包まれる。一秒が、より長く感じられるような感覚を味わうこと、30秒…

暗かった飛行機の窓が白と黒が渦巻くような模様に一瞬点滅したように見えた直後、私の後方に再び影が現れた。


影は焦っているかのような感情を出している。矢継ぎ早に話し始めた。


この機体は外につながっている。だがその外なる空間は現実ではなく、バックルームですらない。

記録不可の空間であり、空虚。忘却。終端。


内部の様子は、とても重々しい雰囲気だった。何もないように見えて、無限の質量が渦巻いている。

光の渦が回っている。思考すら吸い込まれるような、多様な概念を無理やり押し込めた圧縮域だ。


理解したが、行先のREALITYは、現実のことではない。

「かつて誰かが帰りたかった場所の総体」。でも、圧縮のし過ぎで今はそれが崩壊している。崩壊し、混ざり合い、カオスが生まれている。それはすべての人智を超越し、おおよそ表現できるものではないし、あなたが理解できるものではないだろう。

私ですら、これ以上いると取り込まれてしまうところだった。


あれは、罠ですらない。特異点だ。



バックルームにとらわれた人間は皆元居た世界に帰ろうと躍起だ。しかしこの飛行機を見て我先にと乗り込もうとすると、影が報告してくれたようにありとあらゆる概念に押しつぶされて死んでしまうだろう。


このレベルに来たすべての人が巡り合う出来事かわからないが、もし同じようなことが起こった時用にこれをノートに書き残しておこう。



───



「なあ影。こういったような希望に見せかけた死…言葉を借りると”かつての誰かの記録の残響”……

そういう場所は、バックルーム内ではよくあることなのか?」



影はいつも以上に返答に時間をかけ、やがて話し始めた。


遥かなる数の希望・願望を詰め込んだ構造は、ここだけでなく多数のレベルでみられる構造だ。

あなたたちが考える様々な願いは、バックルームに読み取られ各レベルに顕現する。

ただ、それは不完全であることが多い。その構造物が本物である保証はなく、異常現象として報告されるのが一般的だろう。


帰りたい。

思い出したい。

取り戻したい。


特に強く願われたものほど、より丁寧に形作られる。

だが、その願いが強すぎたり多数の人々の類似した願いが重なりあったものになれば、それは自らを抑えることができなくなり崩壊し、カオスになる。この飛行機のように。

そしてその感情のカタマリは皮肉にもその「元となった感情」を探索しそれを強く願う者を導く性質を持つ。


今目の前にある飛行機は、数多の現実への帰還の希望が重なり合って生まれたカオスだ。そもそも最初からこのレベルに存在するものではないし、実体すらない。元となった感情はレベルを超えて探索者を誘惑し、これまでも多数の探索者がここに吸い込まれたことだろう。こうしてこの感情は成長を続ける。このレベルは一部の場所以外安全だが、これが成長を続けるとすると、今後立ち入ることすら危険なレベルに化けるかもしれない。それほど危険な存在になっている。

だが、私含めて今からこれを対処する方法は存在しない。

私以上の存在…バックルーム全体を統括、管理する存在がこの存在を消去するしか選択肢はないだろう。


となると、これ以上の成長を防止するには私が発信するしかない。拠点の看板にこれについて書き記しておけば、少なくともそれを読んだ人はこのレベルには来ないはずだ。


「わかった。私の方から被害の防止は試みておくよ。」



了解した。

わたしはここでこの飛行機を外から観察している。あなたがこのレベルでまだやるべきことがあるのなら探索してくるといい


ならこのレベルを記録すべくもっとほかの場所を探索してみることにしよう。この現象に注目しすぎて元々のレベルの特徴があまり記せていない。

私は影に軽く挨拶してこの場所を後にした。


大きすぎる感情は不安定な空間に影響を及ぼすんですね……



今回登場したレベルたち


Level 11: "The Endless City"

2019年作成

Nerdykiddo4884氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_11_(1)

CC BY-SA 3.0


Level 36:"Airport"

作成年不明

71.219.69.96 氏 作

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/%E7%BF%BB%E8%A8%B3/Level_36

CC BY-SA 3.0


この作品はCC BY-SA 3.0の下で公開されています。

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