第一話
読み始める前に、バックルームに登場する用語に関して、作中での説明では足りない場合がございます。大抵の用語は検索をすると出てきますが、それを踏まえた上でお読みください。
「ひとまず、この空間からの脱出法を探してみるか」
見渡す限り続く黄色い壁と床。蛍光灯がジジジと光る音がずっと木霊し、耳がうんざりする。
「噂には聞いたことあったけど、まさかほんとに実在するなんて。でももし落ちたらこの世界を探検しつくすってのは前から決めてたんだ」
私はさんさん。機械工学を学ぶ院生である。趣味と言っては何だが昔から探検や冒険が大好きで、今も休日さえあれば全国各地の”そういう”雰囲気のある場所を訪れては心を充実させていた。
だが私は、ある日自宅の階段で転んでしまった。
こうして来てしまったのがこの空間というわけである。
この空間はおそらく”Backrooms”という異世界の一種。現実世界とは何のつながりもないような気がする世界だが、「ノークリップ」と呼ばれる、壁や床などの物体に強く激突するとごくごく稀に起きる一種の空間座標バグによって現実世界を逸脱すると、この世界に落ちてしまう。
この黄色い空間…名前を「レベル0」というが、この他にもアニメチックな街が特徴の空間やプールが延々と続く空間など、さまざまな”レベル”と称する空間があるという。これらの空間は直接つながっていることは稀だが、基本的にここに到達する方法でもあった「ノークリップ」を意図的若しくは偶然実行することで移動をすることができる。バックルーム全体の特徴として、現実世界ではわざとやろうとしてもまず起こることのないノークリップ現象がいともたやすく起こる。これらの空間は現実世界よりも不安定で崩壊しやすい構造をしており、空間座標バグが起こりやすいことが理由に挙げられる。
単なる都市伝説としか思っていなかったが、以前から興味のあったこの異世界に私は今まさに立っている。その事実に私はわくわくした。しかし……
「せっかくバックルームに来たのに、こんな見るものも何もない空間にいるのはごめんだ。ドアとか見つけたら別のところに行けたよな…」
視界に黄色しか入らないこの空間。ぶつぶつと独り言をつぶやきながら歩いていると、どうしても足元に注意が向かなくなってしまう。
「おわっ!?」
ちょっとした段差に躓いてしまった。
そして床に顔面から激突し…
ーーー浮遊感を味わう。床をすり抜けたのである。一概にこういった現象のことをノークリップという。
次第に浮遊感は落下に変わる。その感覚に驚いていると、何かに優しくぶつかって止まった。不思議と痛みはない。
体を起こすと、そこに黄色い壁はなかった。代わりに、金属のような壁に赤いランプが点滅している。
「……ここも聞いたことがある。レベル3か?」
ここはさっきの黄色い空間より「エンティティ」と呼ばれる敵対生物の出現率が上がるため危険度は高いが、資源も豊富だという。ふと足元を見ると、緑の明かりのついた小さなディスプレイが落ちている。端末はどうやら操作可能なようだ。
「試しに助けを求めてみるか…何も帰ってこないような気もするけど」
私は端末の入力に”help”と打ち込んだ。すると、まるで主人の命令を完璧に実行したかのように、端末はパッとアクションガイドを表示する。もしこの端末に顔があれば、ドヤ顔をしているかもしれない。
しかし私が求めたのはSOSである。操作方法を聞いたわけではない。
「ヘルプってそういう意味じゃないが?でも、過去の操作履歴で何かわかるかもしれない」
私は操作履歴を調べてみることにした。
logs:0025-049 ”出口を要請。出力を拒否”
logs:0029-001 ”helpを要請。操作ガイドを表示”
「うーん…ロクな履歴がない。しかも出口へのルートは拒否されてんのか…じゃあ自分で探すしかないかな」
私は大きく伸びをしてこのレベルの探索をしようとした。
その時、端末がピと音を出す。見ると、SCAN SYSTEMの文字が見えた。
「ん?この端末、スキャンあるじゃん。なにかあるのかな」
実行ボタンを押すと端末は低くうなり、簡略化された地図の一角に⚠の記号を表示した。
おそらくこのレベルに潜むエンティティなるものであろう。
「近づいちゃダメそうなやつがいるな。接触はやめたほうがいいな」
何も武器を持っていない状態でエンティティと相対するのは明らかに分が悪い。逃げるが勝ちである。私は危険信号のあった部屋から遠ざかるように移動した。
道中の長い廊下は、赤いランプが異常なほど密集して設置されており、機械音を発している。気味の悪い廊下はしばらく続いたが、やがて端に到達した。
大きな扉である。調べるとカギはかかっていない。押してみると意外にも軽い力で開いた。
中は広かった。端末が示す地図によると、ここは制御室と名付けられている。
椅子や机が散らかる奥に、明らかに汚れた鉄製のドアが見えた。ドアには大きく”EXIT”と書かれており、床には黒いしみがドアの先に続くようにある。開けようとしてもカギがかかっていて開けることはできなかった。黒いしみも気になるが、まずはこのドアのカギを探さないことには始まらないと判断した私は、制御室内をくまなく探すことにした。
カギを探すため、制御室を調べる。散乱した物の山は、意外にも今後の放浪に役立ちそうなものが見つかり、非常食や水、メモ帳などを手に入れた。
ーーーそして、小さな袋を見つける。
「お、何か入ってる」
中から出てきたのは、カギだった。
もう一つ、紙切れが出てくる。それは過去にここにいたであろう人物の手記であった。
”この袋にカギを保管しておく。もし私の後から来た人がこのレベルから脱出したいのなら、この鍵を使ってあのドアの先に進むといい。ただ、私の所感だと遷移先はランダムだ。危険なレベルに飛ばされても私のことは恨まないでくれよ”
「きっといい人なんだろうな、この人は。しっかりと注意書きまでしてくれて。ありがたく使わせてもらおう」
私はあのドアにカギを差し込み、回す。ドアはゆっくりと解錠された。
「せっかくならカギと紙切れ、元に戻しておこう。私よりも後に来る人もいるかもだしね」
私はカギと紙切れを小袋に入れなおし、元の場所に戻した。
そして、ドアを開ける。
部屋はドアの黒いしみが部屋一面に広がっており、少々気味が悪い。その部屋の中心に、巨大な機械があった。おそらくこれがレベル脱出装置。機械に近づくと何もしていないのに起動し、大きな空間投影式のディスプレイを出す。
”レベル遷移装置:準備完了
転送先:■■■■■
最終確認: Y/N ”
このレベルからの脱出に喜びもあるが、さっきの紙切れにも書いてあった通り行先はわからない。こんな制御室みたいな危険なレベルじゃなくせめて楽なレベルに通じていることを願い、Yの文字に指を触れる。
瞬間、この部屋の入り口のドアが勝手に閉まり、ガチャリとカギのかかる音がする。空間は揺れ出し、大きな稼働音とともに部屋全体に這っている黒いしみがまるで沸騰したかのようにぐつぐつと泡立つ。立っているのがやっとの感覚になり、泡立った黒いしみが私を包み込むような挙動を見せ…
そして、視界が逆転した。
ーーー優しい香りがする。
起き上がると、オフィスのような景色が目に入った。どれも古びているが沢山のコピー機、デスク、パソコン…
「レベル4だ。安全圏だ!」
願いが通じたのか、はたまた奇跡か…比較的安全と言われるレベルに到達することができたようだ。
しかし、まだ冒険は終わらない。私が満足するまでこの空間たちを探索踏破し、現実世界に帰るまでは。
拙い文でした。実はまだAIとのロールプレイではまだ現実に帰れてなく、物語の終わりは構想段階ですらありません。この旅は私が満足するまでバックルームにいるという話ですので、帰る気がない限り物語は続きます。いつ帰れるのでしょうか。
今回登場したレベルたち
Level 0: "The Lobby"
作者不明
2019年作成
https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_0_(1)
CC BY-SA 3.0
Level 3: "The Electrical Station"
Hexirp氏 作
作成年不明
https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_3_(1)
CC BY-SA 3.0
この作品はCC BY-SA 3.0の下で公開されています。