菊池美遥は今日も忙しい
架空の少女漫画『寮母ちゃんは今日も忙しい』の菊池祭りVer.になります。
私は菊池美遥、高校二年生。
入院している叔母さんの代わりに、お母さんといとこの陸と一緒にこの学生寮のお手伝いをしてるの。
朝は特に忙しい。
仕事に向かうお母さんから引き継いで、作ってくれた朝食をよそって食堂に並べて。次々と入ってくるみんなに挨拶する。
「おはよう美遥ちゃん」
「遥さん、おはようございます」
大学三回生の遥さん。この寮で一番年上だけあって、みんなを上手く纏めてくれる。
「みんなすぐ降りてくるから」
「はい、ありがとうございます!」
寮母の叔母さんがいない分、こうして慣れない私たちを手伝ってくれて。本当に助かってる。
「美遥ちゃんおはよー!!」
高校一年生の玲央くんはいつだって元気いっぱい。
「おはよう玲央くん」
「あのねー、昨日学校でねー」
玲央くんの話は楽しくて、こっちまでにこにこしちゃう。
「玲央。後がつかえてるから」
話が止まらない玲央くんに、うしろから来て声を掛ける絢斗さん。
「おはようございます、絢斗さん」
「おはよう。今日もありがとうね」
大学一回生の絢斗さんはとっても優しくて、こうしていつも労ってくれる。
さり気なく手伝ってくれてるのも知ってるよ。
すっと、私の前を横切る人影。
「瑞樹くん、おはよう」
「……」
クラスメイトの瑞樹くんはいつだってこんな調子。知らんぷりして席についちゃった。
まぁ、クラスメイトと朝からこうして顔を合わせることになるんだもん、きっと気まずいよね。
「朝からしけたツラしてんなって」
「ふにゃっ」
返事がない瑞樹くんを見てたら、そう言ってほっぺを引っ張られた。
「裕貴さんっ!」
「美遥のほっぺはよく伸びるな」
笑いながら席に向かう裕貴さん。
大学二回生なのに、いっつもこうしてからかってくるんだから。
「ごめん、遅くなった!」
バタバタと駆け込んでくる颯汰さん。
「いい天気で気持ちよくって。ちょっと足を伸ばしすぎたよ」
「大丈夫ですよ」
早朝ランニングが日課の颯汰さん。見てると運動するのって楽しそうって思えちゃう。
裕貴さんと同じ大学二回生だけど。
颯汰さんの方が大人かな。
「美遥もそろそろ」
「あ、うん。ありがと、陸」
陸はいつも気にかけてくれてるよね。
お母さんが入院して心配してるはずなのに、ちっとも不安そうなところを見せない。
同い年なのに。
陸の方が全然大人なのよね。
「にゃ〜ん」
足元にすり寄ってきた猫ちゃんに、私は慌てて立ち上がる。
もうひとつ用意した朝食、置いてあげるの忘れてた!
慌てて持ってきた朝食を猫ちゃんの前に置いて、ついでとばかりに頭を撫でさせてもらう。
今預かってるこの猫ちゃん。ちょっと変わったお名前なのよね。
「遅くなってごめんねきくちさん」
「にゃ〜ん」
「きくちさんはかわいいね」
「にゃ〜ん」
「きくちさんいっぱい食べてね」
「にゃ〜ん」
「いいこだね、『わたしのかわいいきくちさん』」
きくちさん、ふいっとそっぽを向いてご飯を食べるスピードを上げた。
つれないんだから。
そんなところもかわいいけど。
立ち上がると、なんだかみんなが居心地悪そうにそわそわしてる。
「陸?」
なんともいえない顔でわたしを見上げてた陸は、仕方なさそうに息を吐いた。
「……美遥。頼むからもうちょっと場所と状況を考えてくれって」
陸にそう言われて、私ははっと思い出す。
私は菊池美遥。
いとこの菊池陸。
そして、ここにいるみんな。
『菊池さんなら家賃半額にします』
叔母夫婦が面白がってそう募集をかけた結果。
ここにいるのは見事に菊池さんばっかりなんだってことを――。
お読みくださりありがとうございます。
菊池祭りの企画主、コロン様
https://mypage.syosetu.com/2124503/
の作品
『俺の名前は「ねこ」ではない「きくち」だ』
https://ncode.syosetu.com/n0160jh/
より、わたしのかわいいきくちさんにゲスト出演していただきました。
コロン様、寛大な許可をありがとうございます!