第9話【名馬「雪風」と白くてふわふわな犬「鶴丸」】
馬小屋の管理は藤原が担当している。渡瀬は英子を執事室に案内し、藤原に頼んで英子を馬小屋まで連れて行ってもらった。藤原が馬小屋のところまで英子を連れていくと小屋の中から馬の嘶きが聞こえてきた。元々は南郷財閥と親交のある華族の家で飼われていた馬で、名は「雪風」という。あまり人になつく性質ではないため、華族でも持て余していたところ隆夫が気に入ってもらい受けた。英子が馬小屋の入り口までくると、馬の嘶きと一緒に犬の鳴き声が聞こえてきた。
「鶴丸、またここで遊んでいたのですか」
藤原が腰を下ろすと、白いふわふわの毛並みを蓄えた大きな犬が飛びついてきた。藤原の顔をペロペロなめてうれしそうにしている。馬小屋の開けっ放しのドアの奥に柵があり、その中に白い大きな馬がいた。
「これが南郷家で飼っている馬、雪風です。気難しい性質で、隆之様と私にしか懐かないのですよ」
英子が柵の近くまで行く。雪風の大きな瞳が英子に向けられ、雪風は少し鼻息を荒くして嘶いている。雪風が少しあとずさった。英子が雪風の名前を呼ぶ。
「雪風、おいで」
英子に呼ばれた雪風は先ほどまで荒い鼻息をしていたのだがピタリと動きを止め首を少し傾けて、警戒しながらも近づいて来る。英子のそばまで来ると雪風の眼が次第に穏やかになった。英子が雪風の頬をやさしくなでると雪風は気持ちよさそうに眼を閉じる。藤原が微笑みながら言った。
「おやおや、雪風は英子様のことがお気に召したようだ」
「ワン! ワン!」
英子の足元で白い大きな犬が嬉しそうに尻尾を振っている。
「そうそう、こちらは鶴丸と言います。当屋敷の番犬です。人懐っこすぎてあまり番犬には向かないのですが」
「ワン!」
鶴丸が英子に追いすがるようにして前足で英子の体を掻きほぐしている。英子はしゃがんで鶴丸の頭を撫でると鶴丸は英子の顔をペロペロとなめた。
「ほほう。鶴丸も英子様のことが大好きになったようでございますね」
そう言いながら藤原は壁に立てかけてある竹ぼうきを手に取り、馬小屋の周りを掃き出した。藤原はふんふんと首を縦にリズム良く振りながら竹ぼうきを左右に動かす。まるで音楽が流れているかのように掃き掃除を始めた。彼の動きはまさにダンスのようで、優雅でリズミカルだ。馬小屋の中には竹ぼうきの掃く音とともに軽快な足音が響く。ついつい見とれていた英子も、もう一つ立てかけられていた竹ぼうきを持ち藤原に倣って掃き出した。少しぎこちないが、英子は一生懸命竹ぼうきを持ったままステップを踏もうとしている。馬小屋においてある竹ぼうきは長柄で、英子の身長よりも少し長い。この方が馬小屋の高いところの掃除も楽にできるからだ。藤原が掃き掃除をしながら英子に話しかける。
「馬小屋の掃き掃除にはコツがございまして、ダンスのステップを踏むようにリズム良く移動しながら掃くのです。細かい藁などが落ちていましたら箒の先の方で弧を描くように隅に寄せます」
藤原は優雅な身のこなしで掃き掃除を続ける。英子は藤原の動きをまねしながら箒で掃く。まるで箒とダンスを踊っているかのように華麗にステップを踏む英子であった。
「そうそう、大変お上手でいらっしゃる。お掃除というものはお部屋や庭を綺麗にするばかりではございません。ダンスを踊るがごとく、優雅に美しく、ゆっくりと静かに、そして軽やかに。自らが楽しくなければなりません」
藤原が称賛の言葉をかけると英子は笑顔で頷いた。
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