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第25話【英子、南郷家に帰る】

毎日投稿予定。

 英子が行方不明となってから約1年後、英子は青葉山にほど近い柴嶺山にある山小屋で暮らしているところを発見された。隆之は、記憶を無くした英子を引き連れ自宅へと戻るとともに、行き場のない紗智子も引き取る。南郷家へと無事帰った英子は、記憶を喪失したまま南郷家の家族と生活することとなった。南郷隆夫の配慮により以前から南郷家に住んでいた英子なのだが、今はそんな生活の記憶の断片すらない。英子にとっては今の南郷家の屋敷はあたかも初めて住む家のように感じられた。家に入り大広間に通された英子を、多江や屋敷に勤めている14名の使用人たちが整列して待っていた。多江が声をかける。

「英子さん、お帰りなさい、よくご無事でしたね。主人は仕事で家にはおりませんが、ずいぶん心配しておりましたよ。隆之も仕事が手につかず、あなたのことばかりをお考えしていました」

「は、はい。あの、よろしくお願いいたします」

 初めて会ったかのように深々とお辞儀をして挨拶する英子。久しぶりに英子の姿を見た使用人たちが目頭を押さえて嬉しそうな表情で嗚咽を漏らす。多江が続ける。

「お話は伺っております。昔のことをお忘れになったとかで。まあ、心配にはおよびません。このお屋敷には以前と同様に住んでください」

「はい、ありがとうございます」

 状況が呑み込めないでいる英子が再度仰々しくお辞儀をする。簡単な挨拶も終えて、英子は前に住んでいた部屋へと案内された。紗智子も慣れない場所での生活となり、英子と同じ部屋に通された。簡易ではあるが紗智子用にかわいいベッドも用意されており、当面必要な生活用品もすべて準備されている。使用人たちが幼い紗智子の来訪にも喜び、急いでそろえた。紗智子へのこれらの品々の気遣いは多江の提案だ。両親と離ればなれになった紗智子に対して気の毒に感じていたようだ。また、以前は英子が南郷家に居候することをよく思っていなかった多江なのだが、前ほどには英子に対してつらく当たらなくなっている。英子が記憶喪失になり不憫に思ったのだろう。そもそも多江と懇意である桜子を助けようとして渓谷に落ちたのだ。多江は二人に対してどことなくやわらかな対応で接していた。

そして、英子と紗智子にとっては山小屋生活とは全くと言っていいほど環境が違う南郷家での生活が始まった。英子が通っていた学校へは、英子が行方不明になってから休学届が出されてある。今は南郷家の生活に慣れることだ。多江は英子を客人として当屋敷に迎えると言っている。

翌日朝食のあと多江が英子に話しかけた。

「英子さん、以前は当家の使用人と同様に当屋敷の雑務をなにかとやっていただいていたのですが、今後はそのようなことはせずとも、なに気兼ねなく過ごしてください」

「え、あの、奥様。それでは申し訳ありません。家のお仕事を手伝わせてください」

 英子は紗智子ともども居候させてもらうことをとても申し訳なく思っている。隆之が多江に話しかける。

「お母様、英子さんには以前、わたくし専属のメイドをやってもらっておりました。これからもその職務を続けていただければ、英子さんもお客様扱いをされるより少しは気が楽になるのではないかと思います」

「そうだけど、しばらくはゆっくりと休んでいただいた方がよろしいのではないですか」

 二人の会話を聞いていた藤原が多江に話しかける。

「多江様、英子様が屋敷の掃除や庭の清掃などをするうちに記憶を取り戻すかもしれません。また、当家のしきたりや屋敷にも慣れていただくためには全体の雑務に携わるのがよろしゅうございます」

 長年南郷家に仕えている藤原の言うことには多江も納得せざるを得ない。多江は小さくうなずく。英子にはしばらく屋敷の仕事をやってもらうことになった。英子が少し微笑む。英子のそばにいた紗智子もなぜかうれしそうだ。今後の英子の生活についての話は終わったのだが、英子にとって少し気になったことがあった。先ほど藤原が隆之を『隆之様』と呼んでいたのだ。

隆之という男性はずいぶんと自分に対して優しくしてくれる、しかし隆之は南郷家の御曹司であるのはすぐに理解した。ほかの使用人たちもみな『隆之様』と呼んでいる。自分も使用人の身ならばそれに倣うのが道理だ。英子な南郷家での自分の立場をしっかりと認識しなければという思いを強く持った。

屋敷の仕事については藤原と渡瀬が以前同様指導することとなったのだが、英子にやらせてみると不思議なことにテキパキと要領よく作業をこなす。特に馬小屋の清掃や鶴丸の世話などは以前と全く変わらぬ手順で滞りなくできた。

藤原が、「次は馬小屋の清掃をいたしましょう」というと英子が笑みを浮かべている。庭に出ると英子は藤原よりも先に歩き馬小屋へ向かった。紗智子もすぐ後についていく。馬小屋は屋敷を出て中庭の奥まった小道を少し入った所にあるのだが、まったく迷わずにたどり着いた。英子は馬小屋の場所を覚えていたのだ。馬小屋に着いた英子が先に入る。すると英子は思わず「雪風!」と叫び、雪風のもとへ走り首に手を掛けてなでると、雪風が優しそうな大きな瞳を英子に向け、大喜びしながら「ブルル」といなないた。そのそばから「ワンワンワン!」と元気な鳴き声が聞こえる。いつの間にいたのか英子の足元に鶴丸も来ていた。鶴丸たちと楽しそうにたわむれる英子の姿は、とても記憶を無くしているようには見えない。紗智子も鶴丸に久しぶり会えて嬉しそうだ。鶴丸が紗智子に飛びつくようにしてじゃれて、紗智子の顔をペロペロなめた。藤原が英子に話しかける。

「雪風も鶴丸も英子様のことが大好きでございます。英子様がいらっしゃらない時はずいぶんと寂しがっていたのですよ」

 小さくうなずいた英子は、ふと馬小屋の壁に立てかけられている竹ぼうきに目をやる。英子の視線の先に気がついた藤原が竹ぼうきを取り、英子に渡した。藤原が声をかける。

「英子様、馬小屋の清掃をいたしましょうか」

「はい!」

 嬉しそうに返事をする英子。藤原がいつもと同じようにリズムを取りながら竹ぼうきを左右に揺らす。英子もそれにならって優雅にダンスを興じるかのように竹ぼうきを操る。

「あれ? 私、以前ここでお掃除をやったことがあるような気がします」

「さようでございますか」

 静かにほほ笑む藤原の足元で鶴丸が「ワン」と吠えながら嬉しそうにしっぽを振った。

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